女王様と俺
□春
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手が、フルフルなっている。
「これ、かなりクルな。いい筋トレになる」
みんなには笑われたが、腕立て50回でもこんな震える事はない。
「ましろ、どのくらいの時間抱っこしてるんだ?」
「ん〜〜30分?一時間?分からないわ。でも………セブは一日でも抱っこしていられるそうよ」
まじかっ?!
「俺、無いな。あっ!母親が強いのって、この筋トレの所為か?」
ましろとリリーがにっこり笑って俺の前に立ち、両側から頬の肉を摘み、引っ張った。
「ねぇ、ましろ?今、この口が悪い事言ったわよね?」
「そう聞こえたわ、リリー。悪いお口にはお仕置きが必要よね?」
「「私達、お母さんですもの」」
声を揃えた二人は頬の肉を『縦・縦・横・横・丸書いて、ちょん!』と動かし、最後に引き抜いた。
「いっっっ!!」
頬の肉が引き千切られたかと思うほどの衝撃!
頬を押さえて蹲った。
「私達を敵に回すなんて、100万年早いのよ。ね、ましろ」
「お母さんは誰よりも強いんだから。ね、リリー」
頭の上から降ってくる声にうんうん、頷いた。
2度と不用意な発言はしない。
「酷いよっ!僕だって、父親だって家族の為には強くなれるんだよ?ね、セブルス」
「ですな。我輩を誰だと思っているのだ?」
「え〜〜?!そこは”我輩たち”でしょ?」
「お前と一緒にされたくない」
「何だよぉ〜。ねぇ、今のなくない?僕、かなり傷付いたよ?」
必死に同意を求めるジェームズにみんな肩を竦めて終わる。
「もういいっ!僕は、かっこいいお父さんなんだから。誰も言ってくれないんだったら自分で言うからいいっ!」
ダメだっ!
拗ねてるジェームズなんて、面白すぎるっ!!
みんな一斉に噴き出す。
「はいはい。分かってるわ、ジェームズ。貴方がかっこよくて、強い人だって事はみんな知ってる。私が愛してる人なのよ?」
「あぁ、リリー。僕をからかうなんて、酷い人だ」
ジェームズがリリーの手を握った。
………またいちゃつく気か?
「あ〜〜、ましろ。そろそろ私達帰るわ。例の探しものでしばらく会ってなかったから、ね」
「まぁ、そうだったの。忙しいのに来てくれてありがとう。ジェームズ、今日くらいはお家でリリーとの時間を楽しんでね」
ましろは杖を出して、二人を金色の繭で包んだ。
「”探し物”が上手くいくように祈ってるわ」
「ましろは頑張りすぎないでね。ハリーも子育て上手にしたいから、大変な時は使って良いわよ?」
「そうそ。僕達の子だから役に立つはずだよ」
「まぁ、ありがとう。また来てくれると嬉しいわ」
ましろは二人とハグして、手を振った。
部屋を出る二人と一緒に俺とリーマスも出る。
「で、シリウスは彼女とうまく行ってるのかい?」
「何で知ってるんだよ?」
ジェームズの言葉にため息だ。
「私が教えたんだよ。あ・の、シリウスが夢中になってる女性がいるってね」
おいおい。
知らせていいなんて、一言も言ってないがな。
俺も反撃してもいい場面のはず。
「リーマスだって、ドーラとデートしてるじゃねぇか。「ちょっ!!」ジェームズ、リリー、あ・の!ムーディーがリーマスの事気に入ったんだってよ」
「「へぇぇぇ」」
俺はリーマスの妨害を潜りぬけ、二人に報告する。
「だから、まだ付き合ってないんだよ!」
「でも、嫁にもらえってムーディーに迫られてるじゃねぇか」
「ねぇ、リリー。世の中”春”だねぇ」
「そうね、ジェームズ。私達にも”春”は来るかしら?」
お前らは年中”春”だろ?
「勿論だよ。ね、いい事考えたよ。ハリーに弟か妹がいたら楽しくないかい?」
「あら、同じ事を考えてたわ。きっと今よりも素敵な家族になると思う」
玄関まで来た所で俺とリーマスが立ち止った事に気付かす、二人は門へと向かう。
ジェームズはリリーの肩に、リリーはジェームズの腰に手を廻し、ぴったり体を寄せ合っている。
「ねぇ、シリウス。あの二人、転べって思っても、私は悪くないよね?」
「むしろ、よくやった、と褒めてやる」
俺達は一緒に”転べ、転べ、転べ………”と二人が見えなくなるまで念を送り続けた。
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