女王様と俺

□事件
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短い時間に色々あり過ぎて、俺は忘れていた。


だから、ミシェルが最初に叫んだ時も意味が分からなかった。



「シリウスっ!!なんなのそれっ!!」


「何が?」



部屋に姿現しをし、ミシェルを抱きしめようとした途端に突き離された。


う〜ん………普通の格好だよな?


別に変じゃないよな?


シャワーも浴びてきたから、臭い、なんて事もないはず。


自分の格好を見下ろし、服を嗅ぐ俺の姿を見て、ミシェルは手鏡を持って来た。



「これ見てっ!何処の女を口説こうとしてたのっ!!」


「は?」



ミシェルが持つ手鏡には、俺の顔。


別に………これか。


左頬の手形。


痛みに慣れたのか気にならなくなっていたそれは、まだ赤々と付いたままだ。


ましろに消してもらえば良かった。


ってか、これ位、俺、自分で消してくれば良かった。


何で出掛けに鏡見なかったんだ?俺??


いくら早く会いたかった、と言っても、ほんの2秒もかからない事じゃないか。


いい男だからって過信は禁物、という事を覚えた。



「どう?何か言い訳ある?」



どうする?


本当の事を話して信じてくれるか?


俺自身が良く分かってない、信じきれてない事を説明できるのか?


まぁ、しょうがない。


ここは嘘を吐いても始まらないからな。



「説明するから、座らないか?」



ミシェルは目線でベッドを俺に渡してくれた。


自分は鏡台のスツールにかける。


………離れ過ぎだろ?


話し終わった時にこの2メートルが2pになってる事を祈る。


俺はマグルの格好をした子供が大広間に入ってきた所から話し始めた。






「………………と、言う訳で、これはましろが俺を正気付かせる為に思いっきり叩いた跡、だ」



ミシェルは途中一言も口を挟まなかった。


”美人のいい女”を”ましろの背を高くした女”と変えた他はそのままを話した。



「その人、ましろの家族なのね?」


「そうだ。なぁ、ミシェル。”特殊能力”なんて本当にあるのか?」


「さぁ。でも、ましろの力が他にないものだって事は分かるから、あるんだと言うしかないわね」



そこなんだよな。


あ、そういえば………



「昔、ホリーが会った『癒しの天使』って魔女も、その”特殊能力”があったんじゃないかって思ったんだが、どう思う?」



ましろが彼女の系譜じゃないかという推測も話す。


ミシェルは眉根を顰めた。



「そう………かもしれないけど、分からない。それよりシリウスがまだ”闇”に囚われてた事がショックだわ」



ミシェルは立ちあがり、俺の前に立った。



「貴方の過去を消す事は誰にも出来ないのね」



ミシェルが俺の左頬に手を当て、悲しそうな顔をした。


優しく撫でるその指が気持ちいい。



「でもな、ミシェル。俺、もうずっとここにいるような気がしてた。何年も、何十年もミシェルと一緒にいるような。いるのが当たり前になるって、凄くないか?」



腿の辺りに手を廻し、ミシェルを引き寄せる。



「だから、ちょっと忘れてた。ミシェルがいる事が幸せなんだって事。俺はあの”闇”を知ってるから、この幸せを実感できる。過去は消さなくていいんだ」



むしろ比較対象として、残していた方がいいのかもしれない。



「私も………貴方に会えなくて悲しかった時があるから、今の幸せをより強く感じる事が出来る。そう思うわ」



今、この手の中にある幸せを逃さないように、ミシェルの胸元に顔を埋め、強く抱きしめる。


ミシェルは俺の頭をずっと撫でてくれた。





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