Short storise

□Fool
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「君は………僕とデヴィッドの出会いの時を覚えているかい?」

「勿論よ。忘れる訳ないわ」

あの日の事は……色々な事がたくさんあったけど、何一つ忘れていない。

小瓶に入れた記憶を時折取り出しては、憂いの篩に落とし見ている。

その度に自分が何一つ忘れていない事を確認するのだ。

「君は知らないかもしれないけど、僕は彼から一つの道を示された。それが教師の道だ」

「それじゃ………ホグワーツの教師になったのは、デヴィッドの入れ知恵?」

あの時渡していた封筒の中身が、今やっと分かった!

とっくの昔に死んでしまったデヴィッドに対して、怒りが沸く。

確かにデヴィッドは、いいものとは限らない、と言っていたけど、この道は酷かったと思う。

教師になってすぐの頃、アルバスはとても辛そうだった。

無理もない。

彼はその年の夏に、家族を立て続けに亡くしていたのだから。

特に妹と同じ年頃の子を見ると彼女を思い出す、と手紙に書いていた。

きっと、事あるごとに彼女を思い出したんだろう。

大広間や教室、中庭や湖の傍で彼女を見かける様な錯覚もあっただろう。

当時、私は何のアドヴァイスも出来なくて、代りにニホンの不思議な魔法の数々を返事として送ったものだ。

一度だけどうして教師になったのか?と聞いた時、アルバスは生きていく為だ、と答えた。

それが生活の為だ、と思っていた今までの自分に、愚か者、と言いたい。

「入れ知恵って……そんな悪いモノじゃない。彼は僕に贖罪の機会を与えようとしてくれたんだ」

「嘘でしょう?」

デヴィッドがそこまで考えてたって事?

それがホントの事なら、我が父親ながら拍手モノだわ。

「ホントなんだ。そりゃぁ最初は辛かった。子ども達は次々と入学し旅立っていく。なのに僕はホグワーツに縛り付けられてる。あの時と同じようにね。

それに………アリアナに似た子が入学してきた時なんかは……彼女を他の子と同じように扱うのにとても神経を使った」

気を抜くと贔屓しそうでね、とアルバスは苦笑する。

「デヴィッドはたまに僕の所に遊びに来ては、笑ってるか?と聞いた。僕は頷いたよ。笑って生きていく、と彼に約束したからね。

彼は、僕が子ども達と過ごしていれば自分を許す時が来るだろう、と考えたんだと思う。子どもは面白い。

発想が豊かで、こちらの想像もつかない様な事をやる。彼らと過ごす間に、僕がお腹の底から笑える日が来ればいい、と思ったんだろう。

でもそんな日は来なかった。デヴィッドは最後に会った時、悲しそうな目で、すまん、って僕に言ったんだ。僕はとんでもない、って答えた。

実際、他の道を選べなくて、彼に縋った結果が”教師”の道だった。デヴィッドはホグワーツの校長とも友人だったんだよ。

僕の事を採用するように頼んでくれたらしい。彼の友人は地の果てに行ってもいるんじゃないか?って思ったものだった」

「アルバス、話が逸れたわ。今、デヴィッドの交友関係の広さは問題じゃないでしょう?」

アルバスは私の呆れた顔を見て肩を竦めた。

「そんな顔しないでよ、アイ。分かってるから。確かに………デヴィッドに謝られた時、僕はまだ僕自身を許す事は出来ていなかった。

でも、あの時の1歩は間違ってなかったと今でも思ってる。そうでなければ僕はあそこから動けなかった。

彼にはいくら感謝しても足りない位だ。彼は僕の恩人なんだよ、アイ」

「そう………そんな話をしたの」

デヴィッドが入院中、忙しい中、アルバスがお見舞いに来てくれた事があった。

デヴィッドが彼に会いたがったのだ。

彼らは2人きりでしばらく話していた。

アルバスが帰った後、デヴィッドは目を潤ませていた。

そして私に言ったのだ。

”お前はアルバスの人生に責任がある、と教えたのを覚えているか?”

私は”勿論”と答えた。

デヴィッドは私の返事を聞いて、満足げに頷き、目を閉じた。

彼が息を引き取ったのは、その3日後。

「その時が来るまで、辛くても笑って生き続ける事が僕の受けるべき罰だと思っていた。

死ぬまで続くかと思っていたそれが………終わったんだ」

長かった、とアルバスは呟いた。

「ましろは……アリアナに似ている。今まで何人かいた子のように、見た目じゃない。中身が、だ」

私は何か言おうとしたが、言葉が出て来なかった。

「初めは……妹にしたのは……『彼』の方へ行ってしまうのを防ぐためだった。

ましろは魔力の強い子でね。あちらに行かれては大変だ、と思ったからだ」

「………それも初耳ね」

私は辛うじて言葉を捻りだす。

「言っただろう?『彼』に似ている、と。手元に置いておけば……あちらと接触する可能性も減る」

「で?一緒にいるうちに気付いたのね?ましろが似てるのは『彼』じゃなく、アリアナだって」

アルバスは頷いた。

「勿論、全てが似ている訳じゃない。ましろはましろだ。アリアナとは違う。でも、重なってしまうんだよ」

自分でもどうしようもないんだ、とアルバスは呟いた。

「あの子に”あさぎ兄様”と呼ばれる度に心が温かくなる。

まだ完全に僕に心を開いている訳じゃないけど、それでも僕の事を頼ってくれている、と思う。

僕はね、アイ。成長したましろが僕の前に碌でもない男を連れてきて、”彼と結婚したい”って言われるのが夢なんだ」

「………それで?その男を殴るの?」

「当たり前じゃないか。僕はデヴィッドの信奉者だからね。彼がやった様にやるよ」

アルバスはそう言って、ひょろひょろのパンチを打つ振りをした。

「あらあら。そんな”へなちょこ”パンチ、避けられてしまうのがオチね」

デヴィッドのパンチを受けた私の夫候補者は脳振とうを起こし、半日入院していたというのに。

そんな目に遭いながらも尚、私との結婚を望んだ彼とデヴィッドはすぐに仲良くなった。

アルバスも”ましろ”の夫と仲良くなる腹積もりなんだろう。

「その時までに鍛えるんだよ」

「つまらない夢ね」

「あぁ。小さくて、可愛い、普通の夢さ」

でも、ありふれたそれをアルバスは望んでいる。

アリアナの代りに”ましろ”の傍にいて、彼女の成長を見守り、彼女の幸せを見届ける、そんな夢。



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