Short storise

□Long long ago
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その知らせも、アルバスの手紙だった。

”アリアナが死んだ”

その一言以外、何も書いてなかった。

私は心がざわついてどうしようもなかった。

お母さんが亡くなった時と手紙の内容が違いすぎる。

何かあったに違いない。

一刻も早くアルバスの元に行かなければならない。

でも、魔法省を通していては遅すぎる。

一週間も待てる訳がない。

私は彼に相談する事にした。

「ねぇ、パパ。相談があるの」

彼は目を丸くして私を見た。

あと数日で新学期が始まる為、彼が旅から帰ってきてすぐの事だった。

「なんだ………結婚か?!」

この男はっ!!

私には付き合ってる人も、好きな人さえいないって事も知らないのかっっ!!

腹は立ったが、今はこの男だけが頼りだ。

「違います。ボートキーの作り方を教えて欲しいの」

彼はあからさまにホッとしたような表情を作った。

「そんな事か。俺はてっきり結婚したいって碌でもない男を連れて来る気かと思ったぞ」

………この男に碌でもないって言われる男って、最低だと思う。

「ご心配なく。男を見る目はママよりもあるわ。それより、ボートキーは?」

彼は私の真意を計るように目を顰(ひそ)めた。

「分かっていると思うが………俺の作るボートキーは認可されてない。魔法省にバレたら大事(オオゴト)だぞ?」

「分かってるわ。でも親友が困ってるの。彼、最近立て続けにお母さんと妹さんを亡くして参ってるみたいなのよ」

「彼?!”親友”って男か?!」

「えぇ。何か問題が?」

「オオアリだ。男と女の友情なんて成立しない」

「それはパパの理論。私は違うわ。早く作り方を教えて」

「嫌だ。男に会いに行くなんて、許さん」

「何故?」

「何処の世界に、結婚前の年頃の娘を男の元に送りだす親がいると思う?」

「いたでしょう?パパは世界中を旅して、いろんな人に会ってるんだもの」

私は彼の本の何処かに、そんな事が書いてあったのを記憶していた。

彼はしばらく考え、頭を抱えた。

「思い出した?」

「………あぁ、いたな」

「ね。私の記憶力は完璧なんだから。さ、作り方教えて」

彼は顔を洗うかのように顔を擦り、指の間から私を見た。

「アイ、俺の本、読んでてくれたんだな。嬉しいよ」

「別に………暇つぶしよ」

彼は嬉しそうな顔で頷いて、立ちあがった。

「作り方は教えてやる。だが、最初は危ないから俺も一緒に行く」

「は?」

「勿論、嫌とは言わせない。ボートキーを作るのはそう簡単じゃない」

魔法省に内緒でするんだから、と彼はウィンクした。

それから3時間。

ある事情で彼は学校に行っていないが、行っていたら優秀な魔法使いとして名を上げていただろう。

そう思う程、ボートキー作りは難しかった。

自分で出来ないのは腹立たしいし悔しいが、今は時間が惜しい。

仕方なく今回は彼に作ってもらって、英国に行った。

彼は私をゴドリックの谷まで送ってくれると、友人に会ってくる、と言い始めた。

帰りは迎えに来てくれる、という事なので、アルバスの家を教えて別れた。




ドアをノックするが、誰も出てこない。

私は試しにドアノブを捻ってみた。

玄関のドアは音もなく開いた。

いくら田舎でも物騒すぎる。

「アルバス、私よ、アイ………アルバス?いないの??」

私は声をかけながら家の中に入っていく。

先日案内されたリビングを抜け、キッチンを覗くと、ギッ、と音が聞こえた。

後ろのドアの中からだ。

「アルバス、そこにいるの?開けるわよ」

私は杖を構え、そのドアを開けた。

中は階段になっていた。

4、5段の階段を降りると、半地下の部屋。

小さな窓から外の明かりが入ってくるが、薄暗い。

杖明りを灯し中を見回すと、部屋の隅にあるベッドに、誰かがうつ伏せで横たわっていた。

鳶色の髪。

「アルバス?どうしたの?あなた寝てるの?」

杖明りで良く見ようとしたら、アルバスは顔を上げた。

「………アイ……ホントに?手紙を出したのは……昨日じゃなかったかな?知らないうちに一週間も経った?」

「私を誰だと思ってるの?あんな手紙貰ってじっとしていられる訳ないじゃない」

私はベッドサイドにあったランプに手を伸ばそうとした。

「ダメっ!触らないで。この部屋のモノに触らないで」

アルバスは泣きそうな声を出した。

私はランプに伸ばしていた手を止め、アルバスに差し出した。

「アルバス、この部屋には私が座る所がないわ。リビングに行きましょう」

どういう理由か分からないが、この部屋はアルバスにとって聖域の様な場所なのだろう。

アルバスは口元を歪め体を起こすと、私の手を握った。

私は小さな子どもの様なアルバスの手を引いて、キッチンに連れて行った。

リビングより近いし、お茶を淹れるのに都合良かったから。

アルバスは私がお湯を沸かし、お茶を淹れる間もテーブルに肘を付き、頭を抱えていた。

「さ、飲んで。食事は?」

アルバスは頭を振って、ありがとう、とカップを取った。

私は彼の隣の椅子にかけ、アルバスの言葉を待った。

アルバスは一口だけカップに口を付けた後、手を温めるように両手で持つ。

そして顔を上げた。

「アイ、僕は………間違ってしまった」

私は何の事を言っているのか分からなくて、返事が出来なかった。

アルバスは顔を歪める。

「君に言われてたのに。僕は家族を蔑にした。だから僕は………僕は罰を受けたんだ」

「アルバス?一体何の事を言っているの?」

罰?

「僕は………アリアナを置いて行こうとした。病気の妹より自分の夢を取ったんだ。僕はどうしても世界に出たかった………」

私は自分の目が見開かれていくのが分かった。

「この数週間、僕には友人がいた。彼は………とても優秀で、彼と話していると、僕は心が弾んだ。彼の言葉は僕の背中に翼を付けてくれたんだ」

君はゲラート・グリンデルバルド、という名を聞いた事はないか?と尋ねられ頷いた。

「ダームストラングを退学させられた子ね?問題行動が多くて………暴力事件や思想の偏りが多い、という理由で」

世界中の魔法学校に、彼の名は告知された。

彼を編入させないように、という事だ。

周りに教師がいるおかげで、そういう情報は入って来る。

「隣の家には彼の叔母さんが住んでて、彼はこの夏、そこで過ごしていた」

「グリンデルバルドが?英国に来てたの?」

アルバスは頷いた。

「僕達はすぐに意気投合した。彼は魔法の力で、世界を変えようと考えていた。それは僕の持っていた考えにとても似ていた」

「アルバス、彼は闇の魔術の虜になっていたのよ?」

いや、今も魅入られ、取り憑かれたままだろう。

「でも、僕にはそうは見えなかった。きっと………この家に縛り付けられてるような気がしてたからだ」

私は”縛り付ける”という言葉に首をかしげた。




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