Short storise

□Long long ago
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アルバスは口元を歪め、さっきの部屋を見ただろう、と言った。

「あそこはアリアナの部屋なんだ。普段は2階の日当たりのいい部屋にいるんだけど、たまに………癇癪を起して手が付けられなくなる時がある」

魔力のコントロールが出来ないんだ、とアルバスは呟いた。

「精神的にも不安定で………分かるかな?」

私は頷いた。

それが本当なら……本当だろうけど……彼女は常時誰かの目と手を必要とする。

聖マンゴに、と言いそうになって止めた。

彼女はもう、私達の誰の手も届かない所に行ってしまっている。

アリアナの病気について聞いたのは、それが最初で、最後だった。

「僕達はあの部屋にアリアナを閉じ込めた。癇癪を起してないのに。僕達の話を聞かれたくなかった」

頼りにしている兄が自分を置いて行く計画をしている、という事を妹に知られたくなかったんだろう。

僕達というのは、アルバスとグリンデルバルドの事だ。

「それをアバーフォースが知ってしまった。アレはアリアナの事が好きで……アリアナもアバーフォースには懐いていた。

アバーフォースは僕達をなじった。僕は反論できなかった。僕が世話をする、と約束していたからだ」

アバーフォースはアルバスの弟。

彼らは全くタイプが違う人間で………仲がいいとは決して言えない。

アルバスは紅茶を一口飲み、また口を開いた。

「アバーフォースはアリアナをあの部屋から出そうとした。ゲラートは、それを止めようとして………磔の呪文をアバーフォースにかけたんだ」

私は息が止るかと思った。

まだ成人もしていない子どもが”許されざる呪文”を簡単に唱えてしまう事に吐き気がする。

「僕はアバーフォースを助けようと、杖を抜き………それから先は………戦争だ」

3人ともが杖を抜き、自分以外の者を攻撃し始めた。

その場を想像しようとして、止めた。

多分、どんなに脳を働かせても、実際の状況の方が何倍も凄惨なはずだから。

アルバスはその時を思い出したのか、細かく震えている。

「アルバス、あなた………少し休んだ方がいいわ」

これ以上話させるのは、酷だ。

拷問に近いとさえ思う。

例え、彼が話したがったとしても、だ。

私はアルバスの手を握った。

彼の手は、氷のように冷たかった。

カップを握っていたのに。

紅茶を淹れ変えようと手を離した瞬間、アルバスは私に話しかけた。

「アイ、僕は……アリアナを殺した」

「は?ごめんなさい。上手く聞き取れなかったわ」

自分の耳が信じられなかった。

アルバスは私の目を見ながら、一言一言区切りながら話す。

「僕が、アリアナを、殺したんだ。僕達のケンカを止めようとして、呪文が彼女に当たった」

私は倒れるかと思った。

が、アルバスの目から流れる涙が、私の意識を引き留めた。

こんなに弱っている彼を見るのは、初めてだった。

私は冷静にならなければならない。

一緒に泣いてヒステリーを起しても、アルバスの涙は止まらない。

「アルバス、それはあなたの放った呪文なの?」

ケンカしてたのなら、誰の呪文か分からない。

アルバスは頭を振った。

「僕はアリアナがいなければ、と心のどこかで思っていた。だから僕の呪文がアリアナに当たったんだ」

「それを見たの?他の2人も?」

アルバスはまた頭を振る。

「ゲラートが突然、階段を駆け上がり部屋から出て行った。僕もアバーフォースも驚いて杖を下ろして………

倒れているアリアナを見つけた。それまで僕達は、アリアナがそこにいる事を忘れていた」

「じゃぁ、あなたのだって決まった訳じゃない」

「でも、僕なんだ。アバーフォースは魔法が下手だし、僕には動機がある」

私は頭を振った。

「いいえ、アルバス。あなたじゃないわ。グリンデルバルドが逃げ出した事が………それを証明してる」

今、彼は?との問いに、アルバスはいなくなった、と答えた。

「隣の……ミス・バグショットの話では、家に帰った。英国にはいない、と」

私は確信した。

「グリンデルバルドは”許されざる呪文”を使ったすぐ後に、アリアナが倒れたのを見たんだわ。だから逃げた」

私はアルバスの手を強く握った。

「聞いて、アルバス。あなたは間違えてた。でもアリアナが死んだのは、あなたの所為じゃない」

私は自信たっぷりに続ける。

「私が今までに………間違えなかった事はない、とは言わないけど、嘘を言った事は一度もないわ」

アルバスは涙を流しながら口元を歪めた。

「だから私の言葉を信じなさい。アルバス、あなたの所為じゃない」

「…かった……し………しんじ………る…」

アルバスは私の手を握りしめ、頷きながら大声で泣いた。

私は彼の背をさすり、気が済むまで泣かせた。





涙も声も嗄れたか?と思う頃には、キッチンの中に夕日が差し込んでいた。

「………アイ…………ありがと」

俯いたアルバスの言葉に、私はどういたしまして、と返した。

「それより、お腹空いたわ。何か作れる?」

「………君は?」

「出来る訳ないじゃない。ゆで卵だって作った事ないのよ?作り方すら知らないわ」

私の答にアルバスは少しだけ顔を上げた。

「君のご主人になる人は大変だね」

「あら、家事は上手く出来る方がすればいいのよ。もしくは………屋敷しもべ妖精が」

私が差し出したハンカチを受け取りながら、アルバスは少しだけ笑った。

「選択肢の中に君が勉強するってのは入ってないのかい?」

「今からニホンについて色々勉強しなくちゃいけないから、無理」

する気もないけど、と本音を付け加えたら、噴き出した。

「分かったよ。僕が作る………ぁ、お客さんだ」

アルバスが立ちあがろうとした時、玄関を誰かがノックした。

「パパかも。今日、一緒に来たのよ」

私はもう時間か、と思いながら玄関に行った。

ドアを開けると、彼が立っていた。

何故か大きな紙袋を抱えている。

「よう、アイ。メシ、食うだろ?作って、食べて、帰る。いいか?」

「………いいけど………」

………意味が分からない。

いつの間にそういう事になったんだろう?

彼は私を押しのけるように、ずんずんと家の中に入り、勝手に奥へと進んでいく。

「ぁ、その右のドア」

私は玄関のドアを閉め、彼にキッチンの場所を教えた。

彼はドアを”足”でノックした。

きっと玄関もああしてノックしたんだわ。

中からアルバスが顔を出す。

「ぁの、初めまして。アルバス・ダンブ「おう!宜しく、アルバス!!デヴィッドだ」……宜しくお願いします」

………もっと大人な挨拶は出来ないのか?

彼は紙袋をテーブルに置くと、アルバスと握手する。

が、すぐに勝手にキッチンを漁り始め、紙袋の中から食材を次々取り出し、料理し始めた。

私はキッチンの入り口に立ったまま、呆然とその姿を見る。

「アイ、君のお父さんは………冒険家だよね?」

隣に来たアルバスに話しかけられる。

「ぅん……そのはず」

お玉が鍋をかき回し、フライパンが肉を焼く横で、ナイフが野菜を刻む。

自分は味を見ながら、杖を振る。

まるで一流シェフの様な杖使い。

テーブルの上の食材が美味しそうな料理に次々と変わっていく。

中には今まで見た事もない料理もある。

「さ、そろそろ出来るぞ。アルバス、顔洗って来い。アイはテーブルセッティングして」

私達は彼に言われた様に動き、席に着く。

彼はワインのコルクを開け、私達のグラスに注いだ。

「さ、食え。サクサク作ったから、凝った物は出来なかったが、ま、腹は膨れる」

彼は自分も席に着くとグラスを呷った。

「くぅぅぅっ!美味いなぁ。お前達も飲んでみろ」

私達は顔を見合わせ、グラスを持ち、一口飲んだ。

「ぁ、美味しい」

「だろ?マグルの作るワイン美味いんだ。捜しまわった〜〜。料理も食ってみろ」

………こいつが言ってた”友人”って、ワインの事か?

一言言いそうになったが、アルバスが美味しい、と声を上げたので、止めた。

「デヴィッド、何処で料理を?」

そう言いながら、アルバスはフォークを何度も口に運ぶ。

「だろ?冒険家ってのは、世界中を旅する。その途中、食わなくちゃ死ぬ。だから俺は料理の勉強をした。少しでも美味い物を食いたいからな。

草の根っことか、葉っぱ、蛇や蛙。虫に………その他いろいろだ。そのまま食うには勇気がいるが、見た目が変われば何の抵抗もなく食える」

彼はワインを飲みながら、冒険譚を話し始めた。

私は目の前のモノが話に出て来たどれでもなくて良かった、と思いながら口を動かした。

「そんなものを食べてでも、冒険に行く価値が?」

彼はアルバスの問いに頭を振った。

「いや……俺はいろんな事が知りたかった。いろんな体験がしたかった。その事に悔いはない。だが、価値はなかった、とも思う」

彼はグラスを置いてアルバスを見た。

「俺は外ばかり見ていた。隣の家の芝生は見た。じゃ、その次は?そのまた隣は?そうやって世界を見て来た。だが、俺は肝心な事を見てなかった」

「肝心な事?何ですか?」

彼はグラスを呷ると、またボトルを傾けた。

ボトルを置いて、グラスに手をかける。

「アルバス、それは”家族”だ。俺は俺の家族をほったらかしにしていた。何ヶ月も、何年も、だ。だからアイは俺の事を”父親”だと思ってない」

自業自得だ、と彼は呟いた。

「それが分かってから、俺は後悔し通しだ。多分、アイはこの先も俺の事を父親だとは思わないだろう」

私は顔を上げずに、ひたすら食べ続けた。

呼び方がまずかったのだろうか?

”パパ”と呼ぶものじゃないの?

「冒険は………自分の手の中のモノを犠牲にしてまで欲しいものじゃなかったって事だ」

しょうがないと思う。

”父親”だ、と認識する間もない程、彼は家にいなかった。

だから彼は”父親”という名のお客さんだった。

アルバスの手は止まってしまっている。

が、私は食べた。

「アルバス、俺はこれからも後悔しながら生きていく。贖罪の機会がある、とは思わないが、幸い、アイはまだ生きている」

何て事をっ!!

ステーキがのどに詰まるかと思った。

急いでワインで流し込んで、彼を見る。

「パパっ!なにを言い出すのっ!!アルバスは「いいんだ、アイ」………アルバス」

私の言葉はアルバスの声に遮られた。

アルバスは怖いような表情で、彼の顔を見ていた。

「デヴィッド、僕も後悔し続けるでしょう。僕には一生贖罪の機会はやってきません。これも自業自得なんですね?」

「もしお前がそう思うのなら………そうなんだろう。そんなお前に俺が言えるのは、ちょっとしたアドヴァイスだけだ。

自業自得だと思うのなら、悩み、苦しめ。そして、生きろ。辛くても笑え。いろんな事を全部腹の中にしまいこんで、食うんだ」

生き続ける事がお前に与えられた罰だ、と彼は言い、フォークを持って大きく切った肉を口に入れた。

まるで自分はそうして生きている、とでも言うように。

私は彼から目を逸らし、アルバスを見た。

アルバスはじっと皿を見ていた。

何と声をかけたらいいだろう?

私が躊躇っている間に、アルバスはナイフとフォークを取り、彼のように大きく切った肉を食べた。

そのまま、ガツガツと食べ続ける。

皿ごと食べる勢いの男二人に、私は食欲を失い、グラスを何回も空けた。



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