Short storise

□Picture
2ページ/2ページ


ましろを見た瞬間、アイの目が輝いたのを僕は見逃さなかった。

………やっぱりね。

僕はため息を隠しつつ、二人の様子を見ていた。

ましろは気付いてないが、アイはましろを気に入ったらしい。

それも、”大変に”だ。

これだから会わせたくなかったのに。

アイは”可愛いモノ””きれいなモノ”に目がない。

それはもう昔から。

彼女の趣味は、それらを集める事。

中でも”人形”集めには人生賭けてんじゃないか?という入れ込みようだ。

入れ込んでるだけあって、彼女のアンティークドールコレクションは素晴らしい。

ビスクドールの頬に触れて、柔らかくない事に驚くほど出来が良いモノばかりだ。

彼女は蒐集品を自分で愛でるだけではなく、展示して一般の人にも見せる場所、美術館を作った。

特徴的なのは、そこで働く学芸員も”人形”の様な事。

展示してある人形と同じようにフリルやレースの付いたドレスが制服だ。

勿論”人”だから動くし、話す。

年もとる。

が、彼女達は年を重ねても人形の様なのだ。

ただ、恋をするまでは。

アイは彼女達が恋をすると、多額の退職金を渡して辞めさせる。

”人形”は恋した途端に”人”になる、とアイは言う。

「本当に残念なことだけど、その方が豊かな人生を送れる事も確かなのよねぇ」

そう言って新しい”人形”を入れる。

ましろはアイの新しい”人形”候補になったはず。

そうしたくなくてずっと前から会わせるのを拒んできたというのに………

あれが失敗だったな。

僕はハロウィン前にアイを呼び出した時の事を思い返した。

全てはハロウィンの仮装をビスクドール・ドレスにしようと決めたのがいけなかったんだ。

僕の話を聞いたアイは、切羽詰まった様な顔で僕を見た。

「アルバス、私、どうしてもましろに会わなければならないわ」

僕は何故だ?と言う顔をした。

「だって、私の娘達が着ているような服を彼女に着せたいって言うんだもの」

「………それが?ちょっとしたアドヴァイスが欲しいだけだよ」

どうせなら小物までちゃんとしたものを揃えたい。

それを選ぶのにアイにアドヴァイスを求めた。

「あなたがましろにその格好をさせたいって思うんでしょ?」

「そうだよ」

「とても似合うと思っているのよね?」

「当たり前じゃないか。ましろにぴったりなドレスはもう目星をつけてるんだ。後は……必要な小物だよ」

「じゃ、やっぱり会わせて。自分の目で見て、その子にぴったりのモノを選んであげなくちゃ」

その時、アイの目がきらっと光ったのを、僕は見逃さなかった。

「分かったよ。君からのアドヴァイスは諦める。店員に聞けば済む事だ」

「何故?一目会わせてくれるだけでいいのよ?」

「ましろは人見知りでね。こんな急には会わせられない。もっと……後の方が良い」

アイはとても残念そうな顔をした。

仕方ない、と僕が選んでいたドレスに合う様な小物を選んでくれた。

あの時はそれで引っ込んでくれた。

が、次に会った時にはましろの写真を見せろ、と言われた。

クリスマス休暇が終わって、真冬の最中だった。

僕が、ない、と言うと、途端に怒り始めた。

「ずるいわ!私もましろのドレス姿見たかった。それを楽しみに今回は来たって言うのに!」

「今回は隠し撮りしてる生徒が見付けられなかったんだよ」

「今回は?前回のはあるのね?キモノの時の写真?!」

「あるけど……今度見せてあげるよ。まだ現像してないし、上手く撮れてるかどうかも分からないんだ」

アイはとても残念そうな顔をしたが、納得した。

「しょうがないわね。でも次に会う日が待ち遠しいわ」

それからはお互いに忙しく、会う機会がなかった。

で、夏休みに入ってアイが”正式に”ホグワーツに来る事が決まったのだ。

いつものように”お忍び”ではない。

魔法省を通してボートキーをもらい、”日本魔法学校の校長”としてダンブルドアに会いに来る。

毎年恒例の行事だ。

僕はその日、ましろに校長室に来ない様に、と言った。

「お客様が見えるのじゃ。日本の魔法学校の校長。わしの古くからの友人じゃよ」

「ふ〜〜ん………ねぇ、その人に私も会いたいんだけど、ダメかな?」

ましろはしばらく考えた後で僕にそう言った。

「何故じゃ?」

「その人、たまに話に出て来る”アイさん”でしょ?」

「そうじゃ」

「私、前から一度会いたいって思ってたんだ」

断る理由はない。

僕は渋々頷いた。

ましろがアイにお礼が言いたい、と言っているのを知っていたから。

……にしても、アイのこの気に入りようはどうだ?

僕はましろの写真を見たアイの口から”よだれ”が出てるんじゃないか?と錯覚を覚えた程だった。

ましろが写真を嫌いだ、と言って怒った時もわざわざ自分の写真を出して考えを改めさせた。

………ましろの写真が欲しいだけだな。

僕がましろは魔法をかけられていると話した時は、すごい剣幕で怒りだした。

勿論、僕に対して。

”不可抗力だ”と言っても聞きはしない。

が、怒りの理由は、ましろが『彼』に見付けられた事、ではなく、彼女がホグワーツから出られない事にあるようだ。

………将来自分のコレクションに出来なくなったからじゃないのか?

僕は訝しげにアイを見る。

アイは何かを考える様に、目を閉じた。

「しょうがないわ。いいアイディアが思い付かない。我慢するしかなさそうだわ」

しばらくしてアイは残念そうな声を上げて目を開けた。

「ましろ、お散歩しましょう。城の周りを」

「え?」

「言ったでしょう?思い出作りよ。お散歩用の服に着替えなくちゃ」

「は?」

ましろは目を丸くしたが、アイは立ちあがると杖を振った。

校長室中にたくさんのワンピースが現れた。

天井から床まで一面にワンピースが浮かんでいる。

「新しいのを買いたかったのだけど……持ってるので間に合わせるしかないわ……

どれも新品だから問題はないけど………新作の服を着せたかったのに………あれにしよう」

アイは浮かんでいるワンピースに目をやり、空色のものを選んだ。

「次」

杖を振るとワンピースが消え、エプロンドレスが現れる。

アイはその中から一つを選び、同じ様に靴や靴下、カチューシャ、バッグに日傘、等などを選んだ。

「さ、ましろ。着替えましょう。アルバス、部屋を貸してね」

アイは寝室に続くドアを開けると、呆然としたままのましろと選んだ服を持って中に入った。

しばらくして、着替えさせられたましろとアイが出て来た。

「さ、行くわよ。アルバス、カメラの用意はいい?」

「え?いや……」

アイは顔を顰めた。

「もう!気が利かないんだから。用意が出来たら湖に来て。ぁ、屋敷しもべにピクニックバスケットの用意もさせてね」

アイはそれだけ言ってましろの手を取り、校長室を出て行った。

「いやぁ、アイは相変わらず元気じゃのう」

「年々若返っておる様に感じるのは気の所為か?」

「アルバス、ボヤボヤしとらんで早ようせんとアイの雷が落ちるぞ?」

肖像画達の声に促され僕はカメラにフィルムを入れて校長室を出た。

厨房でサンドイッチやお茶を用意してもらい、湖に行く。

なるほど、ねぇ。

絵になってるじゃないか。

キモノを着て日傘をさしたアイの隣をましろが歩いている。

何を話しているのか、とても楽しそうだ。

僕はバスケットを置いてカメラを構え、シャッターを押した。

木陰にラグを敷き、お茶の用意をする。

「お茶にせんか?」

僕は声をかけ、二人の為にお茶を用意する。

アイは僕達の学生時代の事を話し、ましろが楽しそうに笑った。

僕はそんな二人を眺めて過ごした。

夕方、アイが帰る前に僕達は記念写真を撮った。

「さぁ、これが私達の最初の思い出の写真よ。アルバス、現像出来たら送ってね」

僕は頷いたのを確認して、アイはましろを抱きしめた。

「今日は楽しかったわ。またおしゃべりしましょうね」

「はい。ぁ、この服は?」

「プレゼントするわ。今日の記念に」

「ありがとうございます」

ましろは笑顔で手を振って、アイが門の外でボートキーを使うのを見送った。

「ましろ、今日は疲れたじゃろう?」

僕達は城までの道を手を繋いで歩いた。

「ん〜〜そうでもない。楽しかったよ」

「それは良かった。アイを………どう思うた?」

ましろは少し考え、クスッと笑った。

「とても楽しくて、パワフルで、素敵なおばあちゃまって感じ。あの人、好きだよ」

「そう……少々強引な所があるがのう」

「ま、それを許される人でもあるね。じいちゃんは昔から振り回されてたんだ?」

「お互い様、かのう。わしが大バカモノじゃった頃をしっとる数少ない友人じゃ」

ましろは思い出したように笑った。

「あの話、面白かった。ほら、湖に顔を突っ込んでマーピープルと話そうとしたって話」

「おぉ、あれか。息が続かんで苦しかったのを今でも覚えておる。結局彼らが顔を出してくれて、言葉を覚えられた」

「私もマーミッシュ語、話せるようになるかなぁ?」

「覚えたいなら教えてやろう。そう難しいものでもないからの」

「それを覚えたら、アイと三人で内緒話が出来るね」

「それも面白いかもしれんのう」

僕達は城に戻った。

翌日、僕は写真を現像した。

ましろには最後に三人で取った写真をプレゼントし、アイにはあの日の写真を全部送った。

後日、アイから上出来だ、と手紙が届いた。

僕はましろに気付かれない様に何枚も写真を撮っていた。

”カメラを意識してない時の笑顔が最高だわ。また送ってちょうだい”

………僕に隠し撮りしろ、と?

一緒に送られてきたましろ宛の大きな箱の中身はきっと服だ。

これを着た所を写真に撮るのか?

僕は僕宛に送られてきた数十本のフィルムを見てため息を吐いた。



.
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ