Loving You 2

□5年生
2ページ/6ページ


おやつの時間を過ぎると、雨と風が激しくなってきた。


「今年の新入生じゃなくて良かったよ」

「ボートが引っくり返るかもね」

「引っくり返らなくても同じ事だと思うけどな」


私達は灯りの点いたコンパートメントの中から、暗さを増した窓の外を見て冗談を言い合った。

と、急に汽車の速度が落ち始めた。

………来たんだ。

私は落ち着こうと息を吐いた。


「もう着くのかな?」


マイクの言葉にケルヴィンは頭を捻った。


「外は暗いけど、まだそんな時間じゃない。何かあったのかも」


ケルヴィンはコンパートメントのドアを開けて外を覗いた。


「みんな顔出してるな…うわっ!」

「きゃっ!」


汽車が急に止り、体が投げ出されそうになった。

セディが抱きしめてくれたので事なきを得る。


「スノウ、大丈夫かい?」

「うん。ありがと、セディ」


怖かった。

止るって分かったのに、衝撃が大きかった。

私が体勢を戻そうとすると、明かりが消えた。

セディがぎゅっと抱きしめてくれる。


「大丈夫だよ。すぐに明るくなるよ」


セディの心臓の音が私を落ち着かせてくれる。


ドアが閉まる音がした。


「何かヘンだ。しばらく様子を見た方が良い」


ケルヴィンの声がして、小さな灯りがともった。


「マイクも杖明り点けろ。暗いと不安が増すからな」


マイクが杖明りを点けた。


「セディ、私達も点けた方が良い………」


この体勢じゃ、杖も出せない。

私が顔を上げると、セディがドアの向こうを見て固まっていた。


「セディ?」

「ぃや………君は見てないよね?」

「何を?」

「ぃや、いいんだ」


セディは私を抱きしめていた手に力を込めた。

心臓の音が早くなってる。


「セディ………」


きっとディメンダーを見たんだ。

私はセディの体に手を廻した。


「大丈夫だよ、セディ」


私の呟きにセディの手から力が抜けた。


「ごめん、痛くなかった?」

「平気だよ。元気になった?」

「うん」

「あのさ。俺達もいるんだけど」


ケルヴィンの声がする。

私が離れようとしたら、セディの手に力が入った。


「ごめん、もうちょっと」


私は頭を捻って杖明りの方を見た。


「もうちょっとだって」

「セドリック、お前なぁ、スノウに甘え過ぎだぞ?」

「でも、僕も彼女がいたらそうしたい」

「マイクまで………」

「ケルヴィンはドアに背を向けてたから見てないんだ。僕とセドリックは見た。黒いマントがドアの前を通り過ぎて行った。とても………怖かった」


良く見ると、マイクの持つ杖明りは細かく震えていた。


「ケルヴィン、ディメンダーだと思うんだ。カエルチョコ持ってたよね?」

「ディメンダー?!何でそんな奴が……ぃや、その前にチョコな。ちょっと待てよ………」


ごそごそとポケットを探る音がする間に、明かりが付いた。

汽車が動き始める。


「ほら、マイク………お前、大丈夫か?」


マイクは真っ青になっていた。

ケルヴィンが急いで袋を開け、カエルチョコをマイクの口に押し込んだ。

見る見るうちにマイクの顔色が戻る。


「助かった………凄く寒かったんだ」

「言えばいいのに。俺が抱きしめてやったぜ」

「いいよぉ、遠慮しとく」


二人のやり取りに、くすっとセディが笑った。

私は顔を上げる。


「セディも大丈夫そうだね」

「まだ。まだ寒いんだ」

「セドリック、お前にもチョコやるから離れろ。目の毒だ」

「え〜〜。せっかくスノウを堪能してたのに」


セディはくすくす笑いながら私を離した。


「でも、チョコは貰おうかな」


セディが手を出すと、ケルヴィンはチョコを渡した。


「強がんなよ。ホントにディメンダーだったらチョコ以上の薬はないはずだ」


セディはカエルチョコを口に入れ、頭を振った。


「スノウ以上の薬はないよ。チョコはお腹空いたから。ごちそうさま」

「なっにぃ?俺のおやつだったんだぞ?薬だから、とあげたのに、そうじゃないならあげなきゃ良かった」


ケルヴィンはちぇっと舌打ちした。

私はポケットからチョコレートの包みを出した。


「これ、代りにあげるよ。”爆烈チョコ”っていうんだ。知ってる?」


対ディメンダー用に、と思って買ってたチョコレート。

さっきは抱きしめられててポケットに手を入れられなかった。

ケルヴィンは頭を振って、早速一つ口に入れた。


「ぁ、噛んじゃダメっ!」


私は素早くケルヴィンの口を押さえた。

目を丸くするケルヴィンがチョコを噛んだ途端、ぼんっという音と共にケルヴィンのほっぺが膨らんだ。

と、同時に髪の毛が逆立つ。

私はケルヴィンの口から手を離して、ため息を吐いた。


「噛んじゃダメって言ったのに………」


マイクとセディは大笑いだ。


「チョコ、噛むだろ?」


ケルヴィンは残ってたチョコをごくん、と飲み込んで口を開いた。


「このチョコは口で溶かすんだよ。しばらくすると、口の中でチョコの粒が弾け出すんだ」


噛まなければ、とっても楽しいチョコレート。

エイモスが教えてくれたとっておきだ。


「新商品なんだ。セディも噛んで、部屋中にチョコレートを噴きだしたんだ」

「ママから怒られたなぁ。今だってスノウのナイスプレーがなかったら、僕達チョコレートまみれだ」

「その髪、戻んないのかなぁ」

「………ウィーズリーズはどの辺のコンパートメントだろう?」


ケルヴィンは逆立った髪の毛よりもフレッド達に悪戯する事を思いついたようだった。


「そろそろ着くから後にしたら?」

「だな」

「でも、その髪を戻してからじゃないと、悪戯も出来ないよ」

「………だな」


ケルヴィンは自分の髪を撫でつけて、何とか落ち着かせようとする。

私達はそれを見てくすくす笑いながら降りる用意をした。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ