Loving You 2

□友or親
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「父さんは威張って歩いたりしなかった。僕だってそんな事しない」


ハリーが言い返した。

確かにハリーは威張ってなんかいない。

が、私は?

シリウスの様に”俺様”ではないつもりだ。

でも他の人はどう感じてるんだろう?

パパはどう思ってた?


「君の父親も規則を歯牙にもかけなかった。規則なぞ、つまらん輩の物でクディッチ杯の優勝者のものではないと。甚だしい思い上がりの………」

「黙れ!」


ハリーが大声を上げ、立ちあがり、パパの言葉を止めた。


「我輩に向かって何と言ったのかね?ポッター?」

「先生!私は?私の父は?」


私は堪らず声をかけた。

私の事をパパはどう思ってるのか聞きたかった。

パパはジェームズの事を嫌ってシリウスの事を憎んでいた。

今、ハリーを嫌っている様に見えるパパは、私を憎んでいないのだろうか?

今まで優しくしてくれてたのは、何だったんだ?

パパは驚いた様に私を見た。


「私の父はどうなんですか?ハリーのお父さんよりもずっと傲慢で、ずっと意地悪だった。

彼は規則を破る快感に浸っていました。誰かを陥れる事を楽しんでいました。私もそうだと仰いますか?」


ハリーがその父親と似ていると言うのなら、私は?

今更ながらパパの態度の不自然さに気付く。

この前の夏、私がシリウスの娘だと知った後もパパは変わらず優しかった。

ママと結婚してパパが”パパ”になって嬉しかった。

でも本当はハリーに意地悪したように、私にもしたかったんじゃないか?

ママの手前、私に意地悪出来なかっただけじゃないか?

パパの本当の気持ちが知りたい。

私は”家族”だと思っていた。

”パパ”だと思っていた。

パパは?


「ディゴリー、黙りたまえ。今は君とその事に付いて論じる必要はない」

「いいえ、先生。私は、今、知りたいんです」


私はある事にも思い当たる。

パパが優しかったのは、私がヴォルデモートの孫だからかもしれない、と。

ハリーに対する態度は”闇の陣営”に自分がダンブルドア側ではない、と知らしめる為のものでもあった。

だったら私に優しくする事は、彼らに対するポーズだ。

自分はヴォルデモートの孫を手懐けている、と言う為に。

パパはイライラしたように私から目を離し、ハリーを見た。


「ポッター、ポケットをひっくり返したまえ!」


パパの突然の攻撃にハリーは固まった。

私はパパが私の質問から逃げた様に感じた。


「先生、私の質問に答えて頂いていません。私が父と似てるのなら、何故私に親切にして下さるのですか?」


何故逃げるのか?

ハリーがいるから?

でも言葉を選べば、きちんと話す事は可能だと思う。

もしくは部屋を替えれば済む事だ。

私には話せない事なのか?


「うるさい!ポッター、聞こえなかったのか?ポケットをひっくり返したまえ。

それともまっすぐ校長の所へ行きたいのか!ポッター、ポケットを裏返すんだ!」


私はハリーがのろのろとポケットの中身を出すのを見ていた。

パパは私を無視したまま、ハリーが出したゾンゴの紙袋を摘みあげた。


「ロンに貰いました……ロンがこの前ホグズミードから持ってきてくれました」


ハリーの言い訳はとても稚拙で、パパは皮肉たっぷりに言葉を返す。

そして古ぼけた羊皮紙を手に取った。

ハリーは表情を変えないよう懸命だったが、その目が触るな、と言っていた。


「余った羊皮紙の切れっぱしです」


ハリーは何でもないと肩を竦めてみせる。

が、パパには通用しない。


「こんな古ぼけた切れっぱし、当然君には必要ないだろう?我輩が………「私に下さい、先生」……ディゴリー!我輩の邪魔ばかりするなっ!!」


私は怒鳴られてもひるまなかった。

ハリーよりも私の相手をして欲しかった。

あの羊皮紙さえ私の手に入れてしまえば、リーマスの登場はなくなる。

早くハリーを解放し、私の質問に答えて欲しい。


「丁度羊皮紙が欲しかったんです。下さい」


パパはふんっと鼻を鳴らし、私を見たまま羊皮紙を持った手を暖炉の方に動かした。

アレを燃やされるのは今後の為にも避けたい。

私はパパに手を差し出した。


「燃やす位なら私に下さい」


私の言葉が耳に入らないかのように、パパは羊皮紙から指を離そうとした。


「止めて!」


ハリーが慌てた様に声を出した。

パパは口角を微かに上げて、ハリーに目を戻した。

もうダメだ。

私はパパが羊皮紙に杖を付け、その秘密を暴こうとするのを見ている事しか出来なかった。

パパは羊皮紙の製作者に小バカにされた後、暖炉に向かってフルーパウダーを投げ入れ、リーマスを呼び出した。

私はリーマスが暖炉から灰を払い落しながら出て来るのを見ているしか出来なかった。

リーマスはパパにその羊皮紙が取り立てて騒ぐほどのものではない事を説明する。

それでもパパは納得していない様な顔だった。

リーマスがゾンゴの店のだ、と推論を言った時にロンが研究室のドアを開け、自分がハリーにあげたのだ、と言った。

リーマスはパパに何か言わせる間もなく、羊皮紙をポケットに入れ、ハリーとロンを連れだした。

研究室に沈黙が降りた。

ボコボコと薬液が煮詰まった音が鍋からしている。

ずっとかき混ぜる手を止めていたから、この薬は失敗だ。

そう思いながら私はパパを見ていた。

パパは息を吐いてドアから目を離し、私を見た。


「ましろ、薬が煮詰まっている。火を止めたまえ」

「いやだ。あなたは私の質問に答えてない」


パパは黙ったまま私の傍に来て火を止めた。


「これはもう使えんな。片付けた方が良いだろう」


パパはそう呟くと私を見ることなく、ママの部屋へ行こうとする。

何故そんなに逃げる必要がある?

そんなに答え難いモノ?

パパが答えない事が、答えの様な気がした。

が、確かめたい!


「待って!答えは?ハリーと同じように私の事も思っているんじゃないの?シリウスの様に傲慢で鼻持ちならない子どもだと」

「思っていない」


パパは背中を見せたまま短く答えた。


「何故?ハリーは父親と違い、他の人間に対して傲慢でも意地悪でもない。でもあなたはそう思っていない。

ハリーと同じ立場である私もそう考えてしかるべきだ。むしろハリー以上に嫌っていてもいいはず。違う?」

「君には分からん事だ、ましろ」

「私に対する態度はママに嫌われたくない為のものじゃないの?それとも”闇”に対するポーズ?

自分が未だにヴォルデモートの手先だ「その名を口にするな!」……」


パパは踵を返すと早足で私の前に立った。


「その名を二度と口にするな。君が我輩の娘である限り、ずっとだ」


パパは私の肩に手を置き、私と視線を合わせて唸る様に言った。

私はその言葉に笑いが出そうになった。


「”我輩の娘”?私はシリウス・ブラックの娘だよ。もう3度、彼と会った。話もして……仲良くなった」


パパは信じられない、といった顔をした。

とても意地悪な気分になる。

この人を打ちのめしたい様な気分。

………血か?

私は笑顔を作った。


「先生、家族ごっこはお終いにしましょう。私の父はシリウス・ブラックで……母は死んだんです」


私は先生の手を肩から降ろした。


「鍋は明日、スノウ・ディゴリーが片付けに来ます。アイリスによろしくお伝えください」


私はテーブルの上の荷物を持って研究室を出た。

とても悲しくて泣きそうだったが、部屋に着くまでは我慢しよう、と決めていた。

地下からの階段を上り寮を目指す。

どうしてこんな事になったんだろう?

私達の関係はとても上手く行ってたのに………

俯いたまま動く階段から降りる。

誰かのつま先が目に入った。


「スノウ、ちょっと時間良いかな?」


頭を上げるとリーマスが笑っていた。

………もう無理だ。

私は目の前がぼやけるのを止められなかった。



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