Loving You 3

□ホグワーツ
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小雨の降る中、『薬草学』の為に温室に向かい、授業を受ける。

早く放課後になって欲しい、と思うのに、こういう時、神様は意地悪をなさる。

長い長い授業が終って、昼食に行こうと温室を出ようとすると、スプラウトに呼び止められた。


「ディゴリー、話があります」


僕は話しの中身の見当が付かずに、戸惑いながらスプラウトの前に立った。


「ディゴリー、あなたの事情は分かっていますが、どうしても辞めたいと言うのですか?」


あぁ、クディッチの事だ。

僕は頷いた。

夏休みの間に、僕はスプラウトに手紙を書いていた。

クディッチのキャプテンを辞めたい、と言う事と、出来ればチームからも引退したい、と。

返事がないから承諾されているものとばかり思っていたのに。


「先生、今の僕にとって、クディッチは情熱を傾けられるモノじゃないんです。正直どうでも良い。

こんな気持ちの人間がチームの、しかもキャプテンだなんて許されないでしょう。チームメイトや試合相手にだって失礼だ」


スプラウトはしばらく考える様に目を閉じた。


「分かりました。しかし良く考えてみなさい。今辞める事は責任を放棄する事になるのです。

そのような人間を誰が信用するというのでしょう?

何があっても、どんなに困難でもやり通す、という事は口で言うほど簡単ではありません。

ですが、それを成し遂げる事が出来た時、あなたは何かを掴んでいるはずです。今、逃げだしては掴めなかった何かを」


この決断は逃げじゃない。

より良い選択のはずだ。

”逃げている”と思われている事は腹立たしかったが、スプラウトに理解して貰おうとは思わない。

僕は小さく頭を下げ、黙ったまま温室を出ようとした。


「ディゴリー」


スプラウトの声が後ろから追いかけて来る。


「今週の土曜日。午前中競技場を押さえています。選手のオーディション用に。そこで審査員をなさい。あなたが後継を選ぶのです」

「それは新しいキャプテンの仕事だと思いますが?」


僕は振り返った。

スプラウトは微笑んでいた。


「それは勿論そうです。が、まだキャプテンが決まっていないでしょう?土曜日、あなたが選ぶのです」

「ですが……」


僕の反論はスプラウトに阻まれた。


「責任を放りだすのです。それ位はやってもらっても良いと思いますが?」

「分かりました」


僕は温室を出て大広間に向かった。

ハッフルパフのテーブルではケルヴィンとマイクが、食事も取らずに心配そうに待っていた。


「何だったんだ?」

「スプラウトは何て?」


僕がお皿を取るのと、二人が聞いてくるのが同じだった。


「あ〜〜後で。早く食べないと午後の授業が始まってしまう」


二人は不服そうだったが、時計を見て慌てて食べ始めた。

『変身術』の教室に向かいながら、なんて忙しい日なんだ、とため息を吐いた。




放課後、指示通りスネイプの研究室に行く。

ケルヴィンは申し訳なさそうだったが、研究室に行けるのは嬉しかった。

あそこには多分、まだ、アイリスがいる。

ましろの事を気兼ねなく話せる人に会えるのは本当に嬉しい。

僕は研究室のドアをノックしてスネイプの返事を待った。


「入れ」

「失礼します」


中にはスネイプが一人。

分かっているはずなのに、ましろがいない事に失望している自分に気付く。


「いつまでそこに立ているつもりかね?」


僕はドアを閉めて、スネイプが示した椅子にかけた。

スネイプは少し離れた椅子にかける。


「さて……ダンブルドアからの言付けだ。”分からない”と」

「そうですか……僕も分からなくて……校長先生なら、と思ったんですが」


ましろがヴォルデモートに付いた訳ではない、と思う。

でもそれなら、彼女が奪われていた杖を手に出来た理由が分からない。

内緒で取り返した、という事も考えにくい。

手紙の返事も夜中に返してくる位だ。

きっと、何かを隠し持つことは難しいんだろう。


「それから、君のみた夢の事だが……」


スネイプは表情を変えずに話す。


「他の誰かに話したかね?」


僕は頷いた。


「父に。ましろを探しているのを見付けられて話しました」

「他は?」

「いません。誰にでも話せるような話ではありませんでしたから……」

「懸命だ。今後また夢を見る様な事があっても、話さない方が良いだろう。が……見た、という事だけ教えて欲しい、と。ダンブルドアが」


内容は必要ない、と先生は続けた。


「校長先生はあの夢が気になると?」

「さぁ。我輩には分からん。万が一夢を見た時はここへ来るがいい。我輩からは以上だ」


スネイプは僕から目を逸らし、入口のドアを見た。

帰れって事?


「ぁの、先生……」

「なんだ?まだ他に話しがあるのかね?」

「アイリスは……彼女に会う事は出来ませんか?」


スネイプはしばらく考えた後、席を立った。


「よかろう……但し、夢の話はしないように。良いかね?」

「はい、先生」


スネイプは奥のドアをノックし、中に入った。

すぐに呼ばれる。


「久しぶり、アイリス。げん……き………」


僕はアイリスを見て言葉が続かなくなった。


「久しぶりね、セドリック。こんな恰好でごめんなさい」


アイリスはスネイプに背中にクッションを詰めてもらいながら答えた。

ほんの少し体を起しただけなのに、辛そうだ。


「どうしたの?病気じゃないの?」


やつれている。

顔色も悪い。

一人では起きていられないなんて。

まるで2年くらい前に戻ったようだ。

アイリスは困った様に笑う。

僕はスネイプを見た。


「何か悪い病気じゃないんですか?」


2カ月でこんなに悪くなってしまうなんて、考えられない。

が、スネイプは頭を振った。


「病気ではない。魔力の使い過ぎだ」

「魔力の使い過ぎ………まさか”術”を使ったんですか?」

「そうだ。一昨日、我輩のいない間に」


僕は信じられなかった。

まだ立ち上がるのが精一杯だったのに、また魔力を減らすような事をするなんて。


「まだ使える状態じゃなかったでしょう?何故そんな事を?何をしたの?」


アイリスは少しだけ躊躇った後、ぼそっと呟いた。


「”寄り代の術”………ましろに会いに行ったのよ」

「はぁ?」


ましろに会うって………

居場所も分からないのに、何言ってるんだ?


「どうしても会いたくて……寄り代に入って彼女の姿のまま、ましろを探そうとしたのよ。

出来れば連れて戻ろう、と思ってた。でも魔力が完全に戻ってないから、入る事すら出来なくて………

寄り代から魔力を奪う力さえ無かったわ。しかも、自分から出ただけでこのざま。何とか飲めるようになってた魔法薬は、泥水に逆戻り」


トイレに行けるようになってたのに残念よ、とアイリスは肩を竦めた。

僕は腹が立った。


「せっかく良くなって来てたのに!あなたがそんな姿になってる事をましろが知ったらどんな気がすると思う?」


僕はアイリスの傍に行って、彼女を見下ろした。


「僕より子どもみたいなことしないでよ。ましろが帰って来た時になんて言い訳するつもり?」


僕だって会いたい。

僕だって探しに行きたい。

でもそうしないのは、ましろが帰って来た時に笑顔で抱きしめる為だ。

僕がホグワーツや家以外の場所にいたら、ましろと会えない。

そう思って我慢している、というのに。


「そうね……ごめんなさい」


アイリスは小さく頭を下げた。


「謝る相手は僕じゃないでしょう?ましろが帰ってきたら、思いっきり怒られて、しっかり謝って」


僕の言葉にアイリスは頭を上げ、苦笑した。


「一昨日、同じ様にセブルスにも怒られたの。あなた達、似てるのね」


僕はスネイプを見た。

スネイプは無表情。

僕はアイリスに顔を向けて、言葉を探した。


「髪の色は同じだけど……他はどうかな」


全然似てない!と思いっきり否定したい所だったが、それはスネイプの機嫌を損ねる、と思って止めた。

アイリスは頭を振って、似てるわ、と呟いてクッションにもたれ目を閉じた。

スネイプがアイリスの背中からクッションを取り除き、横にならせた。

体を動かされてもアイリスは目を開けなかった。

何が起った?

スネイプはアイリスに布団をかけた後、僕を部屋の外に連れ出した。


「心配いらない。睡眠剤が効いてきたのだ。少し前に薬を飲んだばかりだったのでな」


僕が聞く前にスネイプが口を開いた。


「アイリスが回復するのに、また同じだけ時間がかかるのでしょうか?」

「分からん。が、今回はましろに会う必要がないので、体を休める時間が増える。少しは早いかもしれんな」

「そうですか………アイリスが目を覚ましたら、一日でも早い回復を祈ってる、と伝えて下さい。休むのを邪魔して悪かった、と」


僕は頭を下げて研究室を出ようとした。


「ディゴリー、ましろにはこの事は……「はい。教えません。きっと心配して彼女まで病気になってしまう」そうだな」


僕はドアを開けて外に出た。

次は、ましろと一緒に来たい。

そして、ましろがアイリスを怒っている所を見たい。

ましろはなんて言って怒るだろう?

そんな事を考えながら、夕食を取る為に大広間に向かった。




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