Loving You 3

□ホグワーツ
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ケルヴィンが僕の向かい側に椅子を持ってきて座る。

マイクは傍のベッドに座った。


「なんだい?まるで今から尋問されるみたいだね」


僕が茶化しても彼らの表情は変わる事はなかった。

とても真剣で……とても深刻そうだ。


「セドリック、お前、クディッチ引退したいってスプラウトに言ったらしいな」


ケルヴィンが改まった声で話し始めた。

が、その内容は拍子抜けするものだった。

そんな事………


「あぁ、言ったよ。その理由もスプラウトには話した。聞かなかったのかい?」


ケルヴィンは頭を振った。


「聞いたさ。あまりにもバカらしくて幼稚な理由をな」

「幼稚?バカらしい?どこが?クディッチに魅力を感じなくなった。練習に費やしていた時間を勉強に使いたい。

ずいぶん立派だなぁ、と我ながら感心する位なのに」

「立派だぁ?ふざけんなよ。お前はただ逃げようとしてるだけだろ?」


まただ。

スプラウトも言った。


「”逃げ”なんかじゃない。将来を見据えて選択したんだ」

「違う。他人との関係を断ち切って、自分の殻の中に逃げ込む為だ。そして”可哀想なディゴリー”を演出したいんだろう?」

「なんだって?」

「そうやってスノウの想い出の中に閉じこもってれば、彼女が戻って来るとでも思ってるのか?」

「闇払いになって、彼女を取り戻す為だ!」


ケルヴィンは、ふふん、と鼻で笑った。


「断言してやる。このままじゃ、お前は闇払いにはなれない。実力どうこうの問題じゃない。スプラウトに言われただろ?」

「何を?!」


僕はムカムカしていたが、ケルヴィンは小バカにしたような笑いを消さなかった。


「”責任を放り投げた人間を信用するバカはいない”ってな。闇払いってのは命懸けの仕事だ。

自分の命がかかってる時に、信用できないヤツに自分の命、預けられるか?」


僕は返事に詰まった。

が、すぐに思い出す。

死喰い人になろうとしていた事を。


「なれないのなら別の道を考えるさ。僕だってそれ位の頭はある」

「そうか………スノウも可哀想に」


その言い方にカチンときた。


「どうしてそこで彼女の名前が出て来るんだ?僕は彼女を助けようとしてるんだ。何で可哀想なんだ?」

「お前がバカだからだよ。何もかもスノウの所為になっちまうんだぞ?」

「どういう意味だ?何が言いたい?!」

「お前がクディッチ辞めるのも、勉強しても闇払いになれないのも、全部スノウが悪いって言われる要素になるんだ。

”可哀想なディゴリー。スノウに騙された傷がまだ癒えないんだわ”

”可哀想なディゴリー。夢を諦めなくちゃいけないなんて、スノウの所為ね”………」

「止めろ」


ケルヴィンは声色を変えて、”可哀想なディゴリー”と何度も言った。


「”可哀想なディゴリー。スノウの事が忘れられないんだな””ディゴリーが笑わなくなったのも無理はない。可哀想に”………」

「止めろって言ってるだろ!!」


僕は立ち上がってケルヴィンの襟首を掴み、立ち上がらせた。


「”可哀想なディゴリー。イライラする事が増えたのも裏切られた所為だ””可哀想な………」


僕はケルヴィンの頬を殴った。


「僕は可哀想じゃないっ!勝手に僕を悲劇のヒーローにするなっ!!」

「お前が自分からなってんだよ。”悲劇のヒーロー”にな。みんなの同情を集め、それと引き換えにスノウが悪者になってるんだ」

「違うっ!」


僕はもう一度ケルヴィンの頬を殴った。

ケルヴィンの口から血が出た。

が、ケルヴィンは顔色一つ変えず、僕を見返す。


「”可哀想なディゴリー。このままじゃ病気になって休学するかもしれない。父親の様に”」


僕は彼を押し倒し、馬乗りになって殴った。


「お前が言うなっ!何も知らないくせにっ!父さんがどんな気持ちで辞めたと思ってるんだっっ!!僕がっ!僕達がどんな気持ちでっ!」


僕の振り上げた拳がケルヴィンの頬に何度も当たった。


「僕は騙されてなんかないっ!全部知ってたんだ!!ましろは何も悪くないんだ!なのにっ!!」


目の前がぼやけてくる。


「……なのに………みんなが……酷いのは僕の方なのに………」


ましろ一人悪者にして、僕は暮している。

勿論、そうする事はましろの帰る場所を作る上でとても大事な事だ。

彼女を待つ為。

それが分かっているから、ずっと騙されていた振りをしている。

それが分かっているのに、その振りをし続ける事が辛い。

父さんが仕事を辞めた理由がよく分かる。

僕にホグワーツに行かなくていい、と言った理由も良く分かる。

ほんの2日。

たったそれだけなのに、周りの声が、視線がイタイ。

大声でみんなを詰りたくなる。

ましろの事を悪く言うヤツを、殴りたくなる。

今、ケルヴィンを殴ったみたいに………

僕は自分のした事に気付いた。

僕はケルヴィンの上から降りて、その横に座った。


「………ぁ……その…………」


涙を拭いて謝ろうとするが、なんて言っていいのか分からない。

ケルヴィンはマイクに手を借りて起き上がった。


「もういいのか?まだ殴り足りないんじゃないのか?」


ケルヴィンはマイクから差し出されたハンカチで鼻を押さえた。


「鼻血がこれっぽっちだぞ?殴られてても、そう痛くなかったし、お前弱くなったじゃないのか?」


ハンカチに付いた血を見て、ケルヴィンが驚いた様に言う。


「ぃやでも………力一杯殴ったのに………」


確かに手応えの割には、ケルヴィンの顔は酷くない。

それに、僕の手もそれほど痛くなかった。

昔ウィーズリーズを殴った時は、拳が切れていたのに。


「違うよ。僕が杖を振ったんだ。口が切れた後でね」


マイクが呆れた様に口を挟んだ。


「君の顔の周りに薄い空気の壁を作ったんだ。ほら、スノウが昔教えてくれたヤツだよ。

それがクッションになって君の顔とセドリックの拳を守ったって訳」

「なんだよ、マイク。気が利くじゃねぇか」


ケルヴィンがマイクを小突く。


「ケンカしましたって顔で見回りに行けないでしょ?君は首席なんだよ。もう少し自覚しても良いと思うけどな」


ねぇ、と同意を求められ、僕はたじろいだ。

あまりにも普通だ。

まるで僕がケルヴィンを殴った事なんか無かったみたいに。


「セドリック、やっぱり殴り足りなかった?」


マイクが心配そうな顔で僕を見る。


「…ぃや………そんな事は………」


まるで僕がこうなる事を予想していたような口ぶり。


「どういう事だい?君達は僕に殴らせたかったのか?」


僕は二人に聞いた。

ケルヴィンは頷いた。


「見てらんなかった。世の中の不幸を一身に受けてるって顔で………それでも平気だって強がって……だからこうなる様に仕向けた」

「特急の中で僕は君に”強いんだね”って言ったけど、あれが間違いだったって事はすぐに気付いたよ。

君は無関心を装う事で強い振りをしているだけだってね」


マイクは僕の隣に座って言葉を続けた。


「本当はもうしばらく様子を見ようと思ってた。でもスプラウトに呼び出されてね」

「お前がクディッチ辞めたがってる、なんて聞いて、悠長に待ってる場合じゃないって思った」


ケルヴィンが続けた。


「さっきお前に言った事は本心だ。今のままじゃ闇払いにはなれないし、スノウは悪者のままだ。

俺はお前も大事だが、スノウも大事な友人だ。彼女の悪口には耐えられない」

「それは僕も一緒だよ。だから君に強くなってもらわなくちゃって考えたんだ」

「強く?」

「そう。現実から目を背けず、何が一番ベストなのかを考える事さ」


マイクの言葉に僕は頭を振った。


「それならもうやってるよ。僕が騙されてるふりを………」


しまったっ!

これじゃ、ましろがヴォルデモートの孫だってのが本当だって言ってる様なものだ!

しかも僕が知ってる事は内緒だったのに!!


「ぁ………その……何て言うか………」


僕の狼狽とは裏腹に、二人はニヤっと口元を歪めた。


「セドリック、もういい。俺達、分かってたから」

「え?」

「俺、気付いてた。クラウチの手紙を読んで、お前、教員席を見ただろう?

ダンブルドアが小さく頭を振ってた………偶然かと思ったが、そうじゃなかった。

お前は簡単にスノウの事を受け入れていたからな。本当に知らなかったのなら、もっと葛藤したはずなんだ」

「僕は……ケルヴィンに言われて。勿論、他の誰にも話してないよ。話す気もない。スノウの……環境が変わっても、彼女は友達だから」


マイクの言葉に、僕は頷いた。


「ありがとう………君達がいてくれて……僕は………」


その先は言葉にならなかった。

ケルヴィンとマイクに肩を叩かれ、涙が枯れるまで泣いた。

ましろがいなくなって、泣いたのはこれが初めてで………次泣くのは、ましろをこの手に抱きしめた時だ、と決めた。




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