Loving You 3
□ホグワーツ
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僕はクディッチを辞めなかった。
キャプテンも続ける事にした。
それをスプラウトに言いに行った時、彼女は笑って頷いただけだった。
「土曜日のオーディションは忘れずに。新しいチェイサーを二人を選ばなければなりません。ビーターとキーパーも?……あぁ、今年は大変だわ」
スプラウトは指を折るのを止めた。
メンバーのほとんどが卒業してしまったので、全く新しいチームになるという事は予想できた。
その人選が難しい事も。
「先生。何人か応募はあってますか?」
「えぇ。ですが当日ぎりぎりまで締めきらずにいようと思っています。躊躇っている生徒もいるでしょうから」
スプラウトは他の選手にも見てもらった方が良いかも、と言葉を続ける。
「上手かどうかだけではなく、人間性や考え方も審査の対象となります。自分達の仲間になる人物ですから」
僕はスプラウトとしばらく話して、彼女の部屋を出た。
「よう、どうだった?」
「笑ってたよ。まるで、こうなる事は分かっていました、みたいにね」
部屋に戻り、ケルヴィンに言うと笑われた。
「かもしれないな。でも、本当にお前の事を心配してた。今頃ホッとしてるんじゃないか」
「どうだろう?」
僕は肩を竦めて机に向かった。
羊皮紙を広げ、課題に取りかかろうと教科書を広げる。
ケルヴィンも羽根ペンを手に取った。
と、マイクが部屋に戻ってくる。
「ただいまぁ〜」
「「おかえり」」
マイクは机につかず、ベッドに倒れ込んだ。
「どうしたんだい?」
何だかとても疲れているように見える。
「僕、もうミーティングに行くの止めたい」
「行く時は張り切っていたじゃないか」
マイクは放課後、今期初めてのゴブストーンのミーティングに行った。
寮や学年が関係なく所属するそこは、一種のコミュニティーだ。
マイクにとっては、様々な話が聞ける取材の場でもある。
今日だって、朝からミーティングに行く事を楽しみにしていた。
そこで何が起きたというんだろう?
マイクは起き上がって、最悪だよ、と言う。
「想像してた事だけど……口論が起きたんだよ」
「ダンブルドア派かそうでないか。だろ?」
ケルヴィンの言葉にマイクは頷いた。
「初めは良かったんだ。和やかにゲームをしてた。思い思いの場所でね。しばらくして誰かがこう言ったんだ。
”おい、そこに駒は進めないだろ?ダンブルドアか?”ってね。それでゲームは中断。
”ダンブルドアを引き合いに出すなんてどういう了見だ?”って事になって口論さ。止めに入った連中まで言い合いになって………」
ケルヴィンは羊皮紙から顔を上げた。
「で?部長さんは収めれなかったのか?」
「収めたよ。ここは政治的な話しをする場じゃないってね」
マイクはその時の事を思い出したように、苛立ったように話す。
「ダンブルドアと魔法省の話は余所でやれって言ったら、みんな黙って部屋を出てった。これが僕の初仕事だなんて、涙が出そうだよ」
マイクは大きくため息を吐いた。
「やっぱり僕に部長なんてムリだったんだ。今からでも誰かと代われないかなぁ………」
「ムリだな。部長はクラブ全員の投票で決まる。みんなお前が相応しいって思ったんだ。だからやり遂げるしかない」
ケルヴィンの言葉にマイクはまた、ため息を吐いた。
マイクはみんなと話す。
それぞれと仲が良い。
だから彼が部長に選ばれた。
「君ならまとめられるって、みんなそう思ったから君は選ばれたんだ。寮も学年も違うクラブのみんなを分け隔てなく、公平に扱うから」
「セドリックの言う通りだ。まだ始まったばかりじゃないか」
「そうだよ。僕には”困難な道”を選ばせといて、君だけ楽しようなんて、許さないからね」
僕の言葉にマイクは、口元を歪めた。
「そう……だね………僕も……僕も頑張んなくちゃね」
マイクは勢いを付けて立ち上がった。
「ちょっとみんなの様子を見に行ってみるよ。次回のミーティングの事もあるし」
「消灯時間までに戻ってこいよ」
マイクは手を上げて、部屋を出て行った。
僕はケルヴィンと顔を見合わせ、上手く行ったらしい事を確認し、課題を始めた。
羽根ペンを動かしながら、さっきマイクに言った事を思い出す。
”困難な道”か。
クディッチを続ける事もキャプテンを辞めない事も”困難な道”だ。
ましろが悪者にならない様に、僕は強くならなければならない。
何もかも放りだしたら、ましろに騙されていたからだ、とみんなは思う。
だから僕は、何もかもを完璧にこなさなければならない。
ましろを忘れた訳じゃない。
ましろを信じているから、待っているからそうするんだ、とみんなに思われたい。
昨日、ケルヴィンに言われた。
「俺、お前だけは言っても良いと思う。スノウの悪口は許さないってな。だって好きな女の事を悪く言われたら、誰だって腹が立つだろう?
それに、スノウが『例のあの人』の孫だって事を魔法省はまだ確認してないんだ。……その事で魔法省は何にも出来ないと思う」
「でも、それは魔法省の方針に反してる事にならないかな?」
「どうして?魔法省はダンブルドアを追い出したがってるだけだ。その為にスノウを悪者に仕立ててる位だぞ」
「悪者に仕立てる?」
「そうだ。いくら探しても見付からなかったスノウが、実は自分から隠れてるんだって事になったら……批判をかわせるだろ?
アイツらは”簡単な方”を選んだんだ。誘拐されたなら一刻を争うけど、捕まえるのに緊急性はそうない」
逃げたんだよ、とケルヴィンは言った。
「お前も魔法省と同じ道を選ぶのか?ダンブルドアが学年末パーティの時、言った事を思い出せ。
”正しき事と易き事のどちらかの選択を迫られた時、一人の善良で親切な少女の身に何が起ったのか”
”我が意に反し連れ去られ、今も必死で戦っているだろう、スノウ・ブラックの事を忘れるな”
正しい道はきっといばらの道だ。でも好きな女の為なら頑張ってみろよ。自分の殻に閉じこもらずに、堂々としてろよ」
誰が何と言おうと気にするな、とケルヴィンは続けた。
僕はその言葉通り、堂々とする事にした。
魔法省に盾突く訳じゃない。
だから今日の『DADA』の授業も問題なく受ける事が出来た。
「あなたがディゴリーね。お父様のお加減はどう?」
ガマガエルは僕達に教科書を読む様に指示した後、僕の傍に来た。
「問題ありません。病気で退職した訳ではありませんから」
僕は教科書から目を上げることなく答える。
「あら、そう………あなたも大変だったわねぇ。でもいつまでも引き摺っていないで、忘れた方がいいわ」
ガマガエルは作られたと子どもにでも分かる優しい声を出す。
僕は黙ったまま教科書に目を走らせる。
「お友達もそうする事を願ってるはずよ」
「勝手に俺の気持ちを代弁するな」
隣でケルヴィンが呟いた。
が、ガマガエルには聞こえなかったらしい。
僕は小さく息を吐き、顔を上げ、ガマガエルを睨んだ。
「先生。先生が何の事を仰っているのか僕には分かりかねます。が、教科書を読め、と言ったのは先生でしょう?邪魔しないで頂けますか?」
ガマガエルは驚いたように息を飲んだ。
が、すぐに表情を作る。
”優しそう”に見えるように。
心と反対の表情は醜いだけだというのに。
「えぇ、そうね………困った事があったらいつでも相談に乗りますよ。皆さんも同じです。私は皆さんと仲良くなりたいの」
僕は返事をせずに教科書を見た。
教室のどこからも返事はなかった。
ガマガエルはしばらく僕の傍にいたが、そのうち教壇に戻った。
今日の『DADA』は経験した事のない位、静かで得るモノのない2時間だった。
教室を出た時、マイクが”ロックハートの授業の方がマシだ”と呟いたので、僕達は笑った。
その後、夕食を取りに行った大広間で僕が”可哀想だ”と話していたレイブンクローのチェンバースとブラッドリーに”黙れ”と丁寧に言った。
「僕がスノウと共にいられない事を可哀想だ、と言うのなら構わない。愛する人と共に過ごせないのは何よりも苦痛だから。
でも、そのほかの事に関して僕は君に同情される覚えはないよ。違うかい?」
「スノウは『例のあの人』の孫なんだ。死喰い人の親玉なんだぞ?」
「へぇ、チェンバース。君はそれをどうやって確かめたんだい?魔法省だって正式には発表してないのに。君は独自のルートを持っているらしいね」
チェンバースは、うっと唸って黙った。
「だけど新聞に書いてあったじゃないか。君はスノウに騙されていたんだ」
「ブラッドリー。スノウが嘘を吐いていた証拠は何処にも無いんだ。だから騙されてもいない」
「どうしてそう言い切れるんだ?本当だったら?証拠が出てきて泣くのはお前なんだぞ?」
ブラッドリーは、僕を心配した様な事を言う。
が、僕は頭を振った。
「ブラッドリー、君は”恋は盲目”という言葉を知らないのか?僕はスノウを好きなんだ。それがすべてだ」
「バカだろ?」
「そうだね。それは認めるよ。バカだからこの先スノウの悪口を聞いたら、殴ってしまうかもしれない。
スノウの事を何も知らないヤツらの言う事だから、と我慢しようとしたが、限界だ。
僕の彼女の悪口を言ったヤツは、僕が腕によりをかけて復讐するよ」
僕が笑顔でそう言うと、ブラッドリーは口元を歪めた。
そのままチェンバースと二人、大広間を出て行った。
僕は二人を見送り、ケルヴィンとマイクがいるテーブルに戻った。
「よくまぁ言ったもんだ。堂々としすぎだろ?」
「あっという間に広がるよ。セドリックが狂ったってね」
マイクの言葉に僕は肩を竦めた。
「狂ってるのは今に始まった事じゃない。スノウを好きになった時からずっとさ」
マイクは、はいはい、と軽く流し、子羊の骨付き肉にフォークを指した。
「その方がお前らしい。嘘が吐けない性格だって事がはっきりしたな」
ケルヴィンはポテトを口に入れながら言った。
そう。
僕が僕らしくある事が、ましろの為になるのなら、僕は全力で”僕らしく”あり続ける。
死喰い人になるのは止めた。
僕らしくない。
それに、もし死喰い人としてましろに会った時、彼女に嫌われそうな気がした。
やっぱり闇払いになるべきだ。
その為にクディッチもやる。
全てを完璧にして、ましろを奪いに行く。
夏の間中、ほんの昨日まで悩んでふらふらしていた事が嘘のように、一気に解決した気分。
ケルヴィンとマイクには一生頭が上がらないな、と心底思う。
道は決まった。
後は進むだけ。
その道がましろに続いている、と信じて。
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