Loving You

□ハジマリ、ハジマリ
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私は常々、小説の冒頭の一文は大事だ、と思っている。

いろんな本があって、手に取り、中をぱらぱら捲り、読もう!と決める。

その決定条件の一つに、あげていいと思う程。

例えば………

”我輩は猫である”……おいおい、猫の話か?タイトルと同じ入りかよ?中身は捻ってるんだろうな?

”国境の長いトンネルを抜けると雪国であった”……なんだ?国境??どんだけ長いトンネルなんだ?

”メロスは激怒した”……何故?何故怒ってるんだ??教えてくれっ!!

………と、まぁ、その後の展開が気になる一文だ。

だから多少なりとも本を読み、小説家を目指す者は、そこに重点を置き、頭を捻る(はずだ)。

それは、私がハマりこんでいる”ケイタイ小説”の世界でも同じ。

私がハマっているのは”ハリー・ポッター”の世界。

所謂、”ハリポタ夢”だ。

数々の小説を読み、その世界を堪能する。

原作も勿論好きだが、”夢世界”では”私”が活躍し、”私”が世界を変えていく。

”私”は誰かに恋をして、もしくは誰かに恋をされ、めくるめくレンアイを楽しむ。

あぁ、なんて楽しいんだろう。

しばらくは読むだけで満足していた。

が、私は元々何かを書く事も想像(妄想ではない)する事も好きだった。

で、思い付いたのだ。

”書こう!”と。

思い付いたら、待ってられないのが私の性格。

幸いな事に、現在の私は”就活中”という名のほぼフリーター。

バイト(とたまに大学)に行く以外はネットで企業の採用情報を検索し、エントリーを繰り返す毎日。

時間は、あほみたいにある。

走り出したら止まらない、暴走列車のようだ、と家族からは常々言われている。

心外だが、生まれが”イノシシ年”なので、その言葉通り”猪突猛進”な所がある事は否めない。

さらに、”熱しやすく冷めやすい”のも自覚している。

このチャンスを逃すと、私は一生書かないだろう、と想像できた。

”チャンスの神様”は前髪を掴まなければ、引き留める事は出来ないのだ。

”冷めた”時は、止めれば良い。

自分の趣味で始めるモノだ。

気が済むまでやって、途中で放り出しても、誰にも迷惑はかからない。

となると、先ずは冒頭の一文だな。

タイトルも考えなくちゃ。

くはぁぁ!!

楽しいっっ!!

まるで自分が”創造主”になった気分が味わえる。

”夢”なので、最初から設定を考える事はない。

が、どうやってトリップするか?どの時代に行くか?誰と仲良くなるか?

考え始めると、止まらない。

今まで読んだのは………死んだから、穴に落ちて、なんてとこ。

目覚めたら世界が変わってた、ってのもあったな。

”神”が好きなとこに連れてってくれるってのも読んだ気がする。

原作知ってるかどうかってのも、ポイントだな。

ん〜〜〜………どうしよう。

全くオリジナルってのも捨てがたいなぁ。

あぁ、悩む〜〜………

言ってなかったが、私は極度の優柔不断でもある。

家にいる間は勿論、バイト先との往復の道もバイト先でも、私は悩み続けた。


「こうさん、最近様子がヘンだよ。何か心配事かい?」

「あ〜〜店長。いえ、特に心配事って訳ではないんですが、就活がですねぇ」


あまりにぼぉっとしているのを見とがめられ、とっさに口から出た事だったが、店長は同情する様な目をくれた。


「あぁ、そうか。何で企業の採用担当者は見る目がないんだろうね?僕なんか、このまま社員になって欲しいって思ってるのに」


私は店長の言葉に苦笑を返す。

この人はホント、リップサービスが多い。

実際に社員になりたい、と言えば………困った様な顔をして、だが、断固断るはずだ。


「はいはい。同情はいりませんよ。接客業が向かない事は自分でもよぉっく分かってますから」


居酒屋でのバイトは自分の口を養う為。

もう3年になるのに、お客さん達と上手くコミュニケーションを取れない。

常連さんとの軽口くらい、とは思うが、何を話していいか分からない。

”ニホンジン”はお腹の中と言葉が、若干違う時がある。

帰国子女である私には、その見極めが難しい。

一度、ジョークを本気にとられて、お客さんがすごく怒った事がある。

何を言ったかも覚えてないが、すごい剣幕で”非常識だ、失礼だ”と怒鳴り散らされた事は、はっきりと覚えている。

あれ以来、”ニホンジン”のおじさんは怖い。

逆に”エイコクジン”とは仲良くなれるのは、お腹の中を探らないでも話せるから。

それが、初対面でも、だ。

”ニホンジン”のテーブルは嫌だ、なんて、バイトだから許されるワガママだろう。

そんな愛想のない私が雇われ続けたのは、単に動きが良いから、の一言だろう、と思う。

それも見掛けだけだが。

人より少し小柄な私は、店内を移動中、小走りになる。

コンパスが狭い為、そうならざるを得ないのだが、いかにも”働いてます!”って雰囲気を出すのに役立っている。

”この店は店員がシャキシャキ働いてて、いいねぇ”と客に言われる。

その度に店長は嬉しそうな顔をして、お礼を言うのだ。

たったそれだけの為だ。

場所柄”エイコクジン”の客が多いので、店員は全員、程度の違いはあれ、エイコク語を話せる。

中にはシャイナ語、ゴリア語なんか分かる子もいる。

私の価値はそれ程……社員にしたい、と思われる程高くない。

店長は笑顔のまま顔の前で手を振って、そんな事ないよ、と返し、私の傍を離れた。

ま、こんなもんだ。

私はドリンクコーナーに入って、新しい注文が入るまで、また、悩み始めた。




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