Loving You

□ホカニシツモンガアリマスカ?
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ましろは僕が小さい頃一緒に遊んでいた女の子だった。

僕の後ろをいつもくっ付いてきて、僕と同じ事をしようとして失敗し、すぐに泣いていた、あの子だった。

ましろは大きくなっていたけど、やっぱり泣き虫で、ましろのママがいなくなった後も泣いて………

でも、ダンブルドアが笑わせた。


「さて、ましろ。お主が読んだ”本”の中身を、すこぉし教えて欲しいのじゃ。いいかのう?」

「はい。えっと、主人こ「いや、それは良いんじゃ。わしが知りたいのはもっと別の事」………何でしょう?」


ダンブルドアは笑いを止めたましろの手を取り、質問した。


「ヴォルデモートの復活は止められるじゃろうか?」


僕は体が震えた。

さっきから”例のあの人”の名前が頻繁に出て来る。

その名前を聞く度に僕は体が震えた。

怖かった。

多分………パパが僕の肩をぎゅっと掴んでなければ、そしてママが僕の手を握ってくれてなければ、叫び声を上げていたと思う。

名前を聞いただけで自然と体が震える男が、ましろの”おじいさん”だなんて。

それに、”あの”シリウス・ブラックが、ましろの”パパ”だなんて。

ましろだけでなく、僕も何かの間違いであってほしいと思った。

でも、それは紛れもない事実らしく………

僕は少し前、ましろを守る、といった自分に”ばか”と言いたかった。

この話を聞かなければ、きっと普通の女の子としてましろと話せたはずだ。

でも、今は………

なんて話したら良いんだろう?

何を話したらいいんだろう?

怒らせたら………どうなるんだろう?


「多分………出来ない事はない、と思います。でもはっきりYESとは言えません」

「どうして?」

「復活までにいくつかのプロセスがありますが、阻止しようとしても別の道が出来て結局はそうなるんじゃないか、と」

「じゃが、お主はいくつもの”本”を読んだんじゃろう?アリスに話したそうじゃないか。

その中に「あ〜〜!アレはダメですよぉ!!」何故じゃ?」


ましろは少し顔を赤くして、ダンブルドアの言葉を遮った。


「あれは”本”を基に他の人が書いたモノです。結末は幾通りもあって、”本”と同じ結末にならないモノです」

「それじゃ。わしはそれを望んでおる」

「は?」


訝しげなましろと反対に、ダンブルドアは嬉しそうにひげを触った。


「お主がアリスに話した”本”の内容は、ほんの少し。じゃが、ヴォルデモードが復活する事は分かった。わしが戦う事もな」


ましろは頷いた。


「お主はアリスにこう言った。”最後には幸せになるけど、犠牲が多いんだよねぇ”と。

”夢小説なら、犠牲もなく幸せなエンディングを迎える話もたくさんあるのに”……そうじゃな?」


ましろはまた頷いた。


「わしも多くの犠牲は望まん。誰一人傷付く事なく幸せになれる道を見つけたい。

その為にはまず”復活”を阻止すればいい、と思うのじゃ」

「で?その為に”本”以外の”本”を参考にしよう、と?」

「その通りじゃ。すでに………ましろが登場人物として”本”の中に入っておる。

これはお主の読んだ”本”にはなかった事じゃ。間違いないな?」

「はい。私はいませんでした」


ダンブルドアは満足そうに、何度も頷く。


「で、あれば、じゃ。今この世界は”本”の通りではない、という事じゃ。お主の言う”夢小説”とやらの形態に似ているであろう?

”復活”を阻止出来ぬのであれば、また違う道を見付けねばならん。その時にもお主が読んだ他の”本”が役に立つ、という訳じゃ」


ましろは頭を振って、ダンブルドアの意見を否定した。


「そんなに簡単にはいきませんよ。ヴォルデモートの復活は、多分、阻止出来ない。

そして復活した彼を倒すには、数多くの問題をクリアしなくちゃならない。

クリアする為に必要な情報は”本”にある。”夢小説”は読み物として楽しいものですが、参考にはなりません。

それに私が”本”に出て来ないのは、私がハ「ましろ、名を言ってはいかん」ぁ、はい。

あ〜〜その……主人公の傍にいなかったからでしょう?」


ダンブルドアは頭を振る。


「アリスの話を聞いておらんかったのか?出てこんかったのは、お主が世界を飛び出したからじゃ。

でなければ、お主の名は何処かに出てきてもおかしくない」

「あの男の孫だからですか?でも、それはママも同じでしょう?」


本当に”本”には私達の事は一切出て来なかった、とましろは言う。


「違う。順を追って話そう。お主の関係者があの事件に深くかかわっている事は理解できておるな?………宜しい。

まず。あの事件はこの世界をひっくり返す程の大事件じゃった。だから”本”には必ず書かれていると思うた。

その通り、書かれておった。じゃな?だからお主はヴォルデモートもシリウス・ブラックの名も知っておった。

どの程度の事が書かれていたのか想像するしかないが………かなり詳しく書かれていたはずじゃ。

例えば……誰かの体験記として。あるいは新聞記事や裁判記録などの文章が。ま、それはどうでもいい事じゃが………

とにかく。そうであるなら、主人公の傍にいるかどうかは関係なく、お主の事は書かれて当然のことなのじゃ。

誰かの口の端に必ず上るはずじゃ。シリウス・ブラックには”娘”がいた、と。シリウスの思想を受け継いでいるであろう娘だ、と。

その母はヴォルデモートの娘じゃ。これほど”闇”に染まった存在はおらんじゃないか、とな。

そして、その当事者であるお主を主人公にした”本”があってもおかしくない程、有名人になっておるはずなのだ。

じゃが、世界を出ていたお主は……最初から存在すらしておらん事になってしもうた。

アリスの存在は、わしが細工して消したんじゃ。アリスが言ったのを覚えてはおらんか?”数人しか知らない事だ”と」


ましろは眉根を寄せる。


「忘却術か何かですか?それで世界中の魔法使いの記憶からママの存在を消したの?」

「そうじゃ。わしはアリスがこの事実を直接話した人間以外の人間の記憶を消した。

今、彼女の事を覚えているのは、彼女のごく親しかった人間だけじゃ。

記録も全て消した。本当はアズカバンからも出したかったが……ディメンダーには魔法が効かん。

身代わりを立てよう、と言ったが、アリスは拒否した。アズカバンに自ら入りたがるものなどおらぬし、無理に入れたくはない、とな。

それに、アリスは本の中に体を入れる事は出来んからのう。”術”を施す為にあそこに入るのだ、とアリスは言っておった。」

「魔力なら何処でも出入り出来るから、アズカバンに体があっても問題ないって事?そんな………それでママは大丈夫なの?

魔力のままだと不安定だって……体の方だって、食べたり飲んだりしないと死んじゃうじゃない!!」


ましろは大声を上げた。

ダンブルドアが、落ち着かせるように手をぽんぽん叩く。


「ましろ、落ち着いて。確かに……確かに危険はあった。………じゃが、アリスはこれがいい、と。わしはそれに従った」

「従った?あなたが?」


ましろは信じられない、という声を出した。

ダンブルドアは頷く。


「そうじゃ。この計画は………お主を本の中に入れ”本”の情報を持って帰らせる、というのはアリスが全て考えたモノじゃ。

わしはその尻馬に乗っただけ」

「そんな………その計画、私は知る権利があると思います。話して下さい」


ましろはダンブルドアに先を促した。

ダンブルドアは少し考え、仕方なかろうな、と呟いた。


「これを話すのはわしの役目でもあった。アリスが話さなかったのはそういう事じゃろう」


ダンブルドアは言葉を続けた。


「シリウスが捕まったのは、男の叫んだ内容が原因じゃった。アリスが『死喰い人』として追われる原因もそれじゃ。

じゃが、実際に魔法省がアリスを捕まえる事は不可能だったんじゃ。

シリウスはアリスがヴォルデモートの娘だと知ってから、お主達を隠した。

誰も……わしにさえ教えてはくれんかった。シリウスは誰の事も信用しなかった。

唯一の例外が………彼の親友だったが、その男にも隠した。

じゃから、アリスは家にいる間は安全だったのじゃ。家から出る時は変身していればいい。

それまでも必要に応じてアリスは変身して出ておった。

お主がセドリックと遊ぶ時も勿論、変身しておったよ。セドリックも変身した。アーシャもな。

家から遠く離れた場所で落ち合い、そこで遊んだ。あの時代、何処から情報が漏れるか分からんかったからのう………

魔法省はアリスの居場所をシリウスに問うた。が、正気ではなかった彼からは何も聞き出せなかった。

アリスがわしの元に来たのはシリウスが捕まってから3日後。彼がアズカバンに送られてすぐじゃった。

わしは驚いた。お主を連れておらんかったからじゃ。アリスは、お主を本の中に入れた、と言った。

わしはすぐに出すように言った。小さな子どもが一人で他の世界で生きていくなんて、無謀すぎる。じゃが、アリスはこう答えた。

私も入るから心配ない。体は無理でも魔力だけは入れるから、と。そして、自分の考えた計画を話してくれた。

アリスはお主に”本”を読んでもらって……真実を教えて欲しかったんじゃ」

「真実?」

「そうじゃ。シリウスは裏切ってない。彼は誰も殺してない。裏切ったのは他の誰かだ。だが、証拠がない。真実が分かれば………」

「シリウスを助けられる?」


ダンブルドアは、ましろの言葉に大きく頷いた。

ましろは考え込む様に目を閉じた。

ダンブルドアはまた話し始めた。


「本当はアリスは自分が入ろうとした。が、魔力だけしか入れん。魔力だけでは”本”を読む事は出来んらしい。

誰かが読んだ内容を聞く事しか出来んのじゃ」


部屋の中が静かになった。

僕は喉がからからだったけど、目の前にある紅茶のカップに手を伸ばす事が怖かった。

動いたら怒られそうな雰囲気がそこにはあった。



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