Loving You

□ナニヲオノゾミデスカ?
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あの日から、私はセディの”妹”として暮らす事になった。

ママと私は良く似てたから、家の外では常時変身してる事も決まった。

何がきっかけで”アリス・こう”や”ましろ・こう”の事を思い出すか分からない。

(私達の苗字が”こう”なのは、”こう”家の跡取りだかららしい。

結婚しても”こう”の氏を変える事は禁じられているんだって。不思議……)

ダンブルドアは”この程度で思い出す様な魔法はかけとらん”と言った。

が、同時に”用心するに越した事はない”とも付け加えた。

ダンブルドアの魔法にかからず、ママの事を覚えてる人は他にもいる訳だから、彼ら対策と言っても良いと思う。

色々聞かれても答えにくい事ばかりだし、万が一、私もアズカバンに、なんて事になったらシャレになんない。

黒い瞳と髪の色をアーシャに変えてもらった。

瞳の色はグリーン、髪色は濃いブラウン。

小さい頃これに変身してセディ達と遊んでいたらしい。

色を変えただけなのに、私じゃないみたい。

役どころとしては、アーシャの遠い親せきの子で、両親が亡くなって引き取られた、ってトコ。

だから何よりも先ず、変身術を勉強する事にした。

自分で色を変えれるようになったら、ホグワーツに入学も出来る。

名前も”スノウ・ディゴリー”に変わった。

彼らの事を”家族”だと思う事は難しかったけど、”パパ”や”ママ”と呼ぶ必要はない、と言われ、何とかクリアする。

こっちの世界に来て5日目。

杖を買いに、ダイアゴンに連れて行ってもらった。

お金は……エイモスが出してくれた。

ダンブルドアがママから預かっていた、っていう”こう家”の金庫の鍵をくれたけど、それを使うのは憚られた。

そりゃそうだ。

何の為の”変身”だったり”偽名”なんだって話になっちゃう。

それに……”こう”の家は絶えた事になったいるらしい。

それでもゴリンゴッツの小鬼は鍵を返しに行かないと金庫を没収する事がないらしく、まだ金庫はあるし、中身も入ってるんだって。


<結構入ってるわよ>


とママが書いていた。

いつか出せたらいいなぁ。

金貨の山を夢見ながら、エイモスに頭を下げる。


「何もかもお世話になってすみません」

「いや、悪いのはこっちの方だ。大した事も出来なくて済まないね」


エイモスはそう言って私を抱きしめ、姿くらましをした。

姿現しで来た所は古い感じのパブ。


「ここが『漏れ鍋』。知ってるかな?」

「はい。思ってたよりも広いみたい」

「そうかい?この2階は宿になってるし、食事もイケるよ」


エイモスと話してる間にアーシャがセディと一緒に現れた。

私達は一緒に裏のドアを出て、エイモスが開けてくれた”横丁”へのトンネルをくぐった。


「とりあえず、オリバンダーの店に行こう。その後で服なんかを見たらいい」


エイモスの言葉に頷き、横丁を進む。

横丁の中の店はどこも年季入ってます!と主張するかのように古くて、でも磨きこまれた様に光ってて、素敵だった。


「さ、ここだ」


エイモスが開けてくれたドアから中に入る。

………ここがオリバンダーの杖店かぁ。

狭くて、杖の入った箱が所狭しと積み重ねられている。


「これはこれは、ディゴリーさん。良くいらっしゃいました。杖の調子が?」


店の奥から小柄な老魔法使いが出てきた。


「違うんだ、オリバンダー。今日はこの子の杖を買いに来たんだよ」


エイモスは私をカウンターの前に少し押し出した。


「こんにちは、お嬢さん。私はオリバンダーと申します。杖腕を出して頂いても?」


私は、こんにちは、と挨拶して、左手を出した。

オリバンダーはにっこり笑ってメジャーを取り出した。

メジャーは勝手に私の体中の至る所を測っていく。


「ふむ………なるほど」


オリバンダーは唸りながら店の奥に入って行った。


「ねぇ……どうして私のスリーサイズまで測る必要があるの?」


エイモスに小声で聞くが、さぁ、と肩を竦めた。


「僕の時は……足の大きさと、鼻の下の長さも測られたよ」


セディが面白そうに言う。


「きっと、彼にしか分からない”何か”が隠されてるんだろうね。僕達の体中のサイズに」

「興味本位じゃない事を祈るよ」


私が呆れて言った事に、セディはぷっと噴いた。


「あらあら、そんな事言わないの。オリバンダーの気を損ねたら、杖を売ってくれなくなるわ」


アーシャに窘められる。

………気難し屋の爺ちゃんって訳だ。

私は肩を竦めて、オリバンダーが私の為に選んでくれる杖を待った。


「さてさて、この辺りでしょうねぇ」


オリバンダーはいくつかの箱を抱えてきて、カウンターに並べた。

箱を開けながら、杖の材質や芯に何が入っているかの説明をしてくれる。


「これはブナの木、人魚の涙、10インチ。こちらがヒイラギの木、ユニコーンの角、13インチ………一寸長かったな」


次々と出て来る杖を一々手に取り、振る。

が、何も起きない。


「なるほど、なるほど。では、こちらは……樫の木、ドラゴンの鱗、10.5インチ……ダメなようですな」


振った途端、火花が飛び散り、置いてあった古ぼけた椅子に火が付いた!!

オリバンダーは慌てることなく杖を振り、火を消して、次の箱を開けた。


「これは………何でこれを持って来たのか分からん」


オリバンダーは首を捻りながら箱を閉めようとした。


「待って!それ………振ってみたいです」


今まで見たどの杖よりも短いその杖は、色が全く違う。

薄いピンク色の杖なんて、可愛いじゃないの。


「ふむ………いいでしょう。これは梅の木、天女の涙と羽衣、6.5インチ………わしのひぃ爺様がニッポンで作った物です」


オリバンダーは良い杖でしょう、と渡してくれた。


「しなやかで手に馴染む。とてもいい杖なのです。が、使い手を選びすぎるのが難点でしてな」


ふ〜〜ん、と聞きながら振った。

その瞬間、杖の先から暖かい風が吹き、優しい花の香りが辺りに漂う。


「これ………春風?」

「ブラボー!!これを使いこなす魔法使いに会えるとは、何たる幸運。お嬢さんは”梅”の事を知っていますか?」

「中国やニッポンに多くある木ですよね?」

「その通り。”春告草”の名を持つ”梅”は、長い冬を終わらせる春の使者だとも言われております。何とも素敵な香りではありませんか」

「本当だ。心が軽くなるような気がするね」


エイモスが深呼吸した。


「お嬢さん、お名前をお伺いしても?」

「スノウです。スノウ・ディゴリー」


オリバンダーは笑顔で頷いた。


「では、ミス.ディゴリー。この杖で偉大なる事を成し遂げられますよう」

「ありがとうございます」


杖の料金は15ガリオン15シックル26クヌート。

………高くない?しかも細かい。

私の心の声が聞こえたのか、オリバンダーはコホン、と小さく咳払いをした。


「申し訳ありませんが、この杖は材質も芯材も特殊でして………梅の木は樹齢500年は超えているであろう「あ〜〜そうですか」………そうなのです」


オリバンダーの話を遮り、エイモスが金貨を並べ始めた。


「私は、珍しい杖なのにそんなお値段で譲って頂いていいのか?と思った次第です」

「そうでしょう、そうでしょう。当店はお客様にぴったりの杖をお求めやすい価格でご案内する事が、創業以来のモットーですから」


オリバンダーは誇らしげに胸を張った。

面白いじいちゃんだ。


「では、何か不都合がありましたら、いつでもご来店ください」

「ありがとう」

「ぁ、言い忘れておりました。ひぃ爺様の伝言です。”嘆く事はない。永き冬が終わり、新しき時を迎えるだけなのだ”……以上」

「あ〜〜ありがとう」


それって、ただ”梅”の事を言っただけの様な気がする。

が、オリバンダーの芝居がかったセリフ回しに、ちょっと笑った。

オリバンダーは照れたのか、小さく咳払いした。


「それともう一つ。この杖には姉妹杖がございます」

「姉妹杖?」


”兄弟杖”じゃなくて?


「はい。元々この杖はある”家”の為にひぃ爺様がニッポンで作った物。出来るだけ多く作る様に、というオーダーでございました」

「どういう事ですか?」

「通常、当店では私どもが作った杖に、お客様を引き会わせます。

が、これはお客様に合わせて作った完全なオーダーメイドなのです。

材料も何もかもその”家”の方の為に用意されていた特注品。

今までに扱った事のない珍しい材料で、ひぃ爺様は苦労の末、2本作りました。

というより、普通なら8本は出来る所、2本しか出来なかったのです。それでもお客様には満足頂いたようで………

1本はお客様がお使いになり、もう1本を記念にと下さいました。

が、ひぃ爺様はこの杖を”時”が来るまでお預かりします、と言ったのです」

「”時”?」


どういう時?

何の時?


「杖は飾っておくものではございません。誰かに使われて初めて杖となります。

”時”とはこの杖にぴったりの方が来るまで、という事。

つまり……”今”なのです。先程の金額は保管料。1カ月2クヌートとなっております。

杖をお預かりしてから3928か月。先程の細かい金額になるという訳でして」


なるほど………

って、さっきの良心的な値段云々は関係なかったんじゃない?

私の疑問に気付かないのか、オリバンダーは私の持つ杖を何とも言えない表情で見た。

名残惜しそうな、それでいて、嬉しそうな。


「お嬢さんが手にされた杖にはそういう謂れがあるのです。どうぞ……大切になさってください」

「はい」


私達はオリバンダーに見送られ、店を出た。

しばらく行った所で、私はエイモスに話しかけた。


「オリバンダーって、愉快なじいちゃんなんだね」


エイモスは笑顔で頷く。


「あぁ。彼に限らず、この横丁の人達はほとんどが気の良い人達だよ。

但し、ノクターン横丁は違う。あそこに入るのは大人になっても禁止だ」

「大人になっても?」


エイモスは私の顔を真剣な表情で見た。


「そうだ。私の目が光っている間は、家の子があそこに入るのを禁止している」


覚えておくように、というエイモスの言葉に頷いた。

”ウチの子”か。

初めて言われた。

いつか………

いつか本当のパパにそう言われてみたいもんだ。

そう思ってしまった自分に驚き、それが私の本心か、と思い当たる。

シリウスの無実が証明出来れば、彼がアズカバンから出て来る事は想像できる。

それは”ママの”望みで、”私の”ではなかった。

でも、それは”私の”望みでもあった訳だ。


”本当のパパに会う”


その為に何をすべきか?

”本”の内容を思い出しながら『マダム・マルキンの洋装店』に入った。



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