Loving You 2
□敵or味方
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私があれだけ言ったのに、マルフォイは頭の包帯を取らなかった。
腹が立ったので、ヤツを見かける度にヤツの前に見えない壁を作ってやった。
勿論、ぶつかる。
で、驚いた様に目の前を触る。
が、その時には壁を消している。
大広間や廊下でもやった。
それらの場所で魔法を使う事は禁止されているが、見つからなければ問題ない。
(と、勝手に決めた)
フレッドとジョージは私とヤツの間に立って壁を作ってくれる。
「また辺りを見回してたわ」
「スノウを探してるんでしょうね」
「フレッドとジョージが丁度いい壁なんだよねぇ」
私と離れてマルフォイの様子を見ていたアンジェリーナとアリシアの報告を聞き、その度に胸がすっとする。
「アイツのおかげで『魔法生物飼育学』の授業が全く面白くなくなっちゃったんだから、これ位しても罰は当たらないはずだよ」
「スノウ、マルフォイの包帯、どんどん分厚くなってるの知ってるか?」
「知らない。何それ?」
リーがニヤッと笑う。
「見えない壁にぶつかっても包帯が衝撃を吸収してくれんだとよ。もうすぐキャップのツバみたいになるってみんな話してるぜ」
「でも、頭の周りを巻いてるんだから………帽子だね」
一瞬だけ、クィレルのターバンを思い出すが、すぐに別の画が浮かんだ。
あぁ!
いい事考えたっ!!
私はその日の夜、持ってるカタログを全部ひっくり返し、マルフォイにぴったりのモノを注文した。
3日後、届いたモノを持ってスリザリンのテーブルに行く。
「おはよう、マルフォイ」
私はマルフォイの向かい側に座った。
「………なんだ?」
マルフォイはびくっと体を揺らした後、私を見た。
今日もマルフォイは包帯を巻いている。
リーが言ったように、包帯3巻分くらいを使って厚みを作ってる。
「この前酷い事言っちゃったから、お詫びの印に、あなたにピッタリのプレゼントを用意したんだ」
ごめんなさいね、と謝りながら、持って来た紙袋を渡す。
マルフォイは訝しげな表情を作ったが、紙袋をひったくった。
「気に入ってくれたら嬉しいんだけど………」
私から目を離さず紙袋の口を開け、袋を逆様にした。
「………これ、何だ?ドーナツにしては大きいし、食べられないな」
マルフォイは出て来たピンク色のものを摘みあげた。
「あれ?知らない?シャンプーハット。髪を洗う時に泡や水が目に入らない様に頭にかぶるやつ」
マルフォイは私に目を向けた。
「僕には必要ないモノだ」
「そうかな?毎朝包帯巻くの大変でしょ?取るのもね。これなら簡単にかぶれるし……
頭のガードにはもってこいじゃない?何かにぶつかってるって聞いたからさ」
これを言う為に、ウレタンの様な柔らかい素材でできたモノをわざわざ選んだ。
数人がぷぅっと噴きだした。
マルフォイは私を睨みつける。
「白々しいっ!お前がやってるんだろうっ?!」
「何を?」
私はとぼける。
「僕が歩いていると目の前に何かが現れてぶつかる。それはすぐに消える。お前がやってるんだろう?!」
「私が?どうして?こうしてシャンプーハットまで持って来たのに?」
「お前以外にやる人間に心当たりがない!」
「そうかなぁ?私はマルフォイに何かをしようなんて思ってないけど………”見えない何か”はもっと前からあったんじゃないの?」
「そんなものある訳がないっ!」
「だってあの時、頭ぶつけたって大騒ぎしてたじゃない。そうでしょ?」
マルフォイは黙った。
私は心配そうな表情を作る。
「ねぇ、マルフォイ。あなた、呪われてんじゃないの?それで何かにぶつかってるんだよ」
私はそこまで言って、はっ!と何かに気付いた振りをする。
マルフォイが、なんだ?と小さな声で言った。
「もしかしたら……いいえ。そんなバカな事ない。じゃ、私は行くよ。それ、使ってね」
席を立とうとすると、マルフォイは慌てた様に手を伸ばした。
「待て!最後まで言ってから行け」
私はしょうがないなぁ、と席に座り直した。
この頃には、私達の周りにいた人の耳はダンボになっていた。
「知ってるかどうか分からないけど……ヒッポグリフって賢い生き物なんだよね。人の言葉が分かるでしょ?」
マルフォイは頷いた。
「バックビークはその中でも特に賢い子だった。ハグリッドの事が大好きで………もしかしたら彼が恨んでるんじゃないかって思ったんだ」
あり得ないとは思うけど、と付け加える。
「それ………本気で思ってるのか?あの怪物が?」
「しっ!そんな事言って、バックビークに聞こえたらどうするの?」
私はその瞬間、膝の上に置いてた手をポケットの中に入れ、杖を握った。
5センチ四方の空気を固め、マルフォイの頭の上に落とす。
「いっ!何かが僕の頭の上に落ちて来たっ!!」
マルフォイは頭の上を摩りながら、何が落ちて来たのか?と辺りを見た。
私は勿論、周りの人間もそれを不思議そうに見る。
「マルフォイ、なにしてんの?」
「何って、頭の上に何かが…………見てないのか?」
「何を?」
マルフォイは周りを見るが、勿論誰も見ていない。
「………そんな……」
マルフォイは泣きそうな顔になった。
「もしかして嘴でつつかれたんじゃない?シャンプーハットじゃ頭の上は守れないね。ヘルメットにすれば良かったかな?」
もう私の言葉も聞こえてない様だった。
「じゃね」
私は手を振って席を立ち、グリフィンドールのテーブルに行く。
みんなはくすくす笑いながら私を待っていた。
アンジェリーナの隣に座ってご飯を食べ始めた。
「スノウ、見てみろよ!」
フレッドの言葉に指の先に目をやる。
「………あれ、何してんの?」
そこには包帯を取り、代りにシャンプーハットを被ったマルフォイがいた。
更にマルフォイは、頭の上に分厚い本を載せ、ボディーガードの子にそれを包帯で頭に括りつけさせていた。
「きっと上からの攻撃から頭を守ろうとしてるんだよ」
ジョージが笑いを堪えながら私に言う。
「バカだな」
リーがぽつりと零す。
「あそこまで行くと憐れな気さえして来た」
「じゃ、止めるの?」
アンジェリーナが首をかしげる。
「何を?マルフォイはバックビークの呪いを解く運命にあるんだよ」
私は杖を振り、マルフォイの頭の上に大きな空気の塊を落してやった。
本を通してもその衝撃は伝わったようで、ふらついている。
………一々作るのはめんどくさいな。
時限式で塊か壁を現すようにしよう。
時間を見付けて、ロンと話す。
話題は勿論、スキャバーズの体調の事。
「そっか………まだ回復しないんだね」
私はスキャバーズの体を撫でながらロンに聞いた。
スキャバーズは体を震わせている。
「スノウがくれた餌も食べないくらいさ」
「あ〜〜じゃ、今度『超!高級・ネズミの餌』と『老ネズミ用栄養ドリンク』を買ってみようかな……」
「スノウ、ありがとう。スキャバーズの事をそんなに気にかけてくれるのは君位だよ」
ロンはスキャバーズに目を向けた。
「………この子まで死んじゃったら悲しいから」
私は理由を捻りだす。
「君の猫はどのくらい生きたんだい?」
「ん〜〜4、5年くらいかな?まだ若かったのに………首輪してなくてさ。野良ネコと間違われて捕まって……処分されたんだ」
ロンは息を呑んだ。
「そんな!………ごめん。辛いこと思い出させて」
「いいんだ。ここに来てパーシーがこの子の名前を呼ぶのを聞いた時は、運命だと思った。きっと、巡り会う運命だったんだよ」
私がスキャバーズの鼻先を突くと、スキャバーズは震えあがった。
「具合悪いんだね。震えてる。……私、注文して来るよ」
「ありがとう、スノウ」
ロンにスキャバーズを返して私は部屋に戻った。
かなり憔悴してる。
シリウスの事と、私が”ましろ”だと気付いたからだ。
ジョージが、家族中で君の写真を見た、と言っていた。
多分、スキャバーズも見てる。
それでも逃げないのは……私が真実を知らない、と思っているからだろう。
ママが言ったように、今逃げられたら面倒だ、とは思う。
でも何時でも動きは押さえられるんだから、しばらく放っとこう。
注文書を書き、ハリーにふくろうを借りに行った。
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