Loving You 2

□友or親
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私は毎晩、スキャバーズの居場所を確認した。

大抵は薄暗い所に小さくなっているので、見た目ではどこだか分からなかった。

だから”臭い”を嗅ぐことにした。

で、ハグリッドの小屋に隠れている事が分かる。

ここから移動する必要がない程、満ち足りた空間なんだろう。

今はハグリッドとバックビークが裁判でロンドンに行ってるから、更に快適なはず。

ファングに気を付けてさえいれば、自由に動ける。

念の為私は、外には恐ろしい魔物がいてお前を食べようと待っている、と深層心理に働き掛ける。

こうしとけば、万が一にもハグリッドの小屋から出ようなんて思わなくなる。

その時が来るまで、小者は大人しくしてくれなくちゃ。

忙しくってしょうがない。

”こう”の術をフル活用してシリウスを助けつつ、話の筋を大まかに変えないでいられる方法を私は探り始めていた。

理由は一つ。

ヴォルデモートに会わなきゃいけないから。

きっかけは、おじいちゃんとおばあちゃんの日記。

二人の日記を読んで行くと、とてもいびつな恋愛関係が見えて来た。

おばあちゃんの日記は卒業と同時に終っていたが、それは”杖”をトム・リドルに渡したからだろう、と思う。

その後の二人の関係は、おじいちゃんの日記に詳しく書いてあった。

おばあちゃんは”杖”がないから、と婚約を破棄しようとした。

でも”こう”の嫁になる事はその血を絶やさない事が目的だったから”杖”の有無は関係なかったのだ。


『力の強い”光”側の家系から”こう”の跡取りと年の近い人間を”許婚”とする』


おばあちゃんは”こう”の子を産む為の”生贄”のような立場だった。

おじいちゃんはそれを憐れんだ。

自らの血を疎ましく思っていた節もある。

だから結婚した後もトム・リドルと会い続けたおばあちゃんを責める事が出来なかった。

愛していたのに。

幼い頃から”許婚”としてではなく、一人の女性としておばあちゃんの事が好きだったのに。

おじいちゃんはトム・リドルがヴォルデモートだと知っていた。

彼を止める事が出来ないか?と考えていた。

そして一つの案を思い付いた。

おじいちゃんは、おばあちゃんの存在がヴォルデモートを変えられるかもしれない、と考えた。

おじいちゃんは英国への引っ越しを決めた。

おばあちゃんが彼と会い易くなるように。

ママの教育の為じゃなかった。

おじいちゃんの予想通り、おばあちゃんとトム・リドルとの関係は、ママが生まれ英国に引っ越した後も続いた。

おばあちゃんはトム・リドルに会いに行く時、ママを置いて行った。

その事が逆に二人が男女の関係であり続けたことを意味した。

だが、効果はなかった。

むしろおじいちゃんは自分を狙う”闇”の存在に気付き始めた。

ヴォルデモートはおばあちゃんを(多分ママも含めて)手に入れよう、と考えたらしい。

おじいちゃんは情報を得る為に魔法省に入り、自らの身の安全とママを守る為、ヴォルデモートと戦う事を決めた。

その頃、ママはおじいちゃんから”こう”の血を受け継いでいたから。

ママの病気を知り、その治療法を知った時、おじいちゃんは”こう”を絶やせないのだ、と悟ったらしい。


”まるで神か仏が、私の浅はかさを窘めに来た様な気がした。私一人が絶やしたい、と思っても、自然の摂理が”こう”を生き永らえさせようとする。”


おじいちゃんは手術の前日、自嘲気味にそう書いていた。

”こう”が絶える事は”光”と”闇”と戦いが終わらないことを意味する。

おじいちゃんにとって、それは大した問題じゃなかった。

いつか人々が愚かさを捨てた時、争いのない平穏な日々が訪れるはずだ、とおじいちゃんは思っていた。

でも、”こう”が”闇”の手に渡ってしまう事は”光”の滅亡を意味した。

それほどに”こう”の血は”闇”と闘う為に特化された血だったから、ママが”闇”の元に行く事だけは阻止しなければならなかった。

おじいちゃんはママが成長して”こう”の力を使いこなす様になるまでに、彼女に”光”の側にいるんだと認識させなければならなかった。

”こう”の血を持つ者は”光”の未来を担っているのだから。

おばあちゃんはおじいちゃんが”闇”と戦い始めたのを見て、トム・リドルに会いに行かなくなったらしい。

おじいちゃんは何も言わなかった。

ただ、時々誰かから送られてくる手紙を握り締め、じっと窓の外を見るだけのおばあちゃんを見続けた。

”闇”との戦いで死ぬ前日で日記は終わっていた。


”明日、プルウェット家が襲撃される、という情報が入った。ギデオンとフェービアンは共に優秀な魔法使いだ。心配はいらないだろう。

が、私は彼らの家族を保護する必要があると思った。万が一、二人が破れた後、ヴォルデモートはその家族にまで矛先を向けるやもしれない。

クラウチ部長に話したが、人員は割けない、との事だった。万全の状態で動ける闇払いの数は限られている。私が一人で行く事になった。

愛子に話すと初めて”そこに行くな”と言った。”悪い予感がするから”と必死になって止めた。私は確信した。

ヴォルデモートが私を殺す為に撒いた餌だと。恐らく彼から何らかの知らせが来たのだろう。”間もなく迎えに行く”と手紙が来たのかもしれない。

私が殺されに行く事を愛子が止めてくれた。それだけで十分だった。私が死んで後、愛子が彼の元に行く事があっても恨む事などない。

むしろ、今まで行かずにいてくれてありがとう、と感謝したい位だ。行かせてやれずにすまなかった、と謝罪もしたい。

愛子。お前が他の男を愛している事を知った上でお前の人生を”こう”に縛り付けてすまなかった。

私の傍にいる事を求めてすまなかった。すべて私の利己主義が悪いのだ。どうしてもお前を手放す事が出来なかった。

すまなかった。すまなかった。すまなかった。何度謝っても許される事ではない事は分かっている。それでも私はお前に許しを請いたい。

お前が私に秘密を持った事で苦しんでいる時に手を差し伸べなかった私を許して欲しい。アリスを”こう”の子にしてしまった私を許して欲しい。

自分勝手でわがままな私を許して欲しい。お前の優しさにつけ込んだ私を許して欲しい。この事を口に出せない弱虫な私を許して欲しい。

そして、愛子。私を止めてくれてありがとう。アリスを、ましろを私の元に連れて来てくれてありがとう。

明日、私は死ぬ。ヴォルデモートに殺される為に行くのだ。愛子が私と彼のどちらを想って止めたのかは分からない。

だが、私が死ぬかもしれないのを愛子が黙って見過ごさなかった事は私の救いとなる。ありがとう。ありがとう。ありがとう。”


多分………トム・リドルをおばあちゃんは一生愛し続けた。

そんなおばあちゃんを、おじいちゃんは愛した。

おばあちゃんがおじいちゃんを止めたのは……

ヴォルデモートがおじいちゃんに殺されるのを止めたかったからじゃないかと思う。

おじいちゃんもそれが分かってた。

だから……殺されに行ったんだ。

おばあちゃんを”こう”から解放する為に。

ママを”こう”に縛り付ける為に。

ママはおじいちゃんを殺したヴォルデモートを決して許さないだろう、とおじいちゃんは思っていた。

実際その通りになった。

おばあちゃんがヴォルデモートの所に行かなかったのは謎だ。

もしかしたら、おじいちゃんの事を好きになってたのかな?と思う。

ママと敵同士になりたくなかったのかな?とも。

その辺をヴォルデモートに聞いてみたい。

おばあちゃんはその理由をヤツに伝えているはずだ。

………はぁ。

ヴォルデモートが復活したら、”闇”の勢力は勢いを増すんだよなぁ。

ヴォルデモートが復活したらその話聞いて、みんなが傷付く前にやっつけられないかなぁ。

そんなに早くハリーは成長出来ないよなぁ。

やっぱり復活させない方が良いよなぁ。

はぁ………


「何故そんなにため息を吐くのだ?特別難しい調合ではなかろうに」


顔を上げるとパパが眉根を顰めていた。


「あ〜〜今読んでる本の続きが気になって、気になって……続編が出ないから」


パパは呆れた様に私を見た。


「確認なのだがね、ましろ。この調合は君がやりたい、とねじ込んで来たものだったな?」

「うん。昔からつくってみたい薬の一つだった。作らせてくれてありがとう、パパ」


パパは小さく頷いた。


「では、この薬は拘束時間が長いから休日にしか作れない。よって……我輩も休日返上で付き合っている事は覚えているかね?」

「勿論だよ。私もみんながホグズミードに遊びに行ってる間に作りたい、と思ってた」


セディは残念がってたけど、他の日はみんなの勉強の手伝いをしたいから今日のホグズミード休暇を狙ってた。

セディが夕方お土産持って迎えに来てくれる事になっている。


「よろしい。では、本の事は頭から追い出して、大鍋に集中するように。特別難しくはないが、普通に難しく、神経を使う調合なのだ」

「はい、パパ」


私は頷いて薬をかき回す。


「………で?どんな本なのだね?」


調合がひと段落してパパが私に聞いた。


「なに………あぁ、さっきの話?」


パパは頷いた。

私は次に必要な材料を揃えながら答える事にした。


「恋愛小説。許婚に好きな男がいて……でも自分も彼女の事が好きで……そういう話だよ」

「その続きが刊行されないのかね?」

「うん。著者が亡くなってしまったから。彼女が結局どちらの男を選んだのかが気になって、気になって」


私は天秤秤を出して材料を計る。

これの量を間違えたら、患者さんを殺してしまう。


「君はどう思うのだ?どちらを選んだと?」

「あ〜〜そうだね……ちょっと待って………これでぴったりっと………」


薬液の温度を確認してトリカブトを鍋に入れ火を点けた。

撹拌しながらパパを見る。


「好きな男の方。ただ、許婚に情が移ってしまったのかも?と思われる節もあるんだよね」


パパは私の言葉を聞いて目を閉じた。

話が終わったんだろう、と思って私は鍋に集中する。


「ましろ、君は本の中で小説家志望だったそうだな?」

「え?ぁ、いや。そんな大層なものじゃないんだ。何か書いてみたいなぁって思ってただけだよ」


トリカブトが均一に混ざったのを確認して顔を上げた。

しばらくは放っておいていい。


「では、その話の続きを考えてみてはどうだね?自らが思う様な結末を作りだせば……続編など気にならなくなるであろう?」


なるほど………

って、そんなに簡単な事じゃないよ、小説書く事なんて。


「そんなに難しく考えんでも良いではないか。自分が望む様な結末を考えるだけでいいのだ。ほんの……1、2行でいい」

「え?」

「”彼女は好きな男の元に走った”でもいいし、”許婚と共に人生を歩んだ”でもいい。すっきりするであろう?」

「そんな簡単に?そこに至るプロセスも重要でしょ?」

「過程……確かに………」

「でしょ?むしろそこが大事なんだよ。パパは分かってないなぁ」


私が持論を展開しようとしたら、研究室のドアがノックされた。

私は口を閉じ、鍋を見た。


「入れ」


パパの声にドアがばっと開いた。


「スネイプ先生!ポッターの生首が!」


飛び込んできたのはマルフォイだった。

あ〜〜今日が見付かる日だったのか。

ハリーも調子に乗り過ぎるから面倒な事になる。

パパはマルフォイに落ち着く様に言った。


「順を追って話したまえ」


マルフォイは『叫びの屋敷』でロンと会い、話していると泥の塊が頭の後ろに当った、と話した。

そして、ハリーの首が空中に浮かんでいた、と。

ちらっと目を上げるとマルフォイの髪は泥で汚れていた。


「ぷぷっ」


私はおかしくなって笑ってしまう。

何と言うか、ざまぁみろって感じ。

見付かったのは頂けないが、こっそり泥を投げつけるなんて、ハリーもなかなか悪どい所がある。


「なにがおかしいのだ?ディゴリー?」

「え?おかしくないですか?ハリーの首が浮いてただなんて。バタービールの飲みすぎじゃない?マルフォイ」


マルフォイは不愉快そうな顔をした。


「僕が酔って幻覚を見たとでもいうつもりか?」

「じゃなきゃバックビークの呪いだね」


マルフォイは頭に手をやった。

………突かれるとでも思ったか?


「森番は助かっただろう?あれは僕が父上にお願いしたからだ。もう恨まれる事はないはずだ」

「だったら頭に載せた手を下ろしたら?手が泥だらけになっちゃってるよ」


私の言葉にマルフォイが下ろした手を見て、うえっっという顔をした。


「二人ともそこまでだ。マルフォイは部屋に戻ってそれをどうにかしたまえ。ディゴリーは調合の続きを」

「先生は?」


行くのか?


「用事が出来た」


行くのか。

私は頷いて二人が研究室を出るのを見送った。

ハリーが怒られるの、見たくないなぁ………

が、そうそう都合良く行くはずもなく、しばらくしてパパはハリーを連れて研究室に戻ってきた。




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