Loving You 3

□ホグワーツ
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夏休みが終わり、特急に乗り込む。

両親とは家を出る時に別れを告げて来た。

少し早めに来たので、まだコンパートメントは空いている。

僕はなるべく先頭の方に空いていたコンパートメントを見付け、そこに入った。

荷物から本を出し、読む。

しばらくするとノックと共にドアが開き、マイクが入ってきた。


「久しぶり、セドリック」

「うん。元気だったかい?」


マイクは頷いて、荷物を片付けると僕の向かい側に座った。


「ケルヴィンは首席になったそうだね」

「うん。手紙が来た?」


マイクの問いに頷く。


「きっと過去最高にハチャメチャな首席の誕生だって両親と話してたんだ」

「僕もそう思うよ。ここに来るかな?」

「ちょっとくらい顔を出すかも。でもほとんどは一番前のコンパートメントだろうね」


マイクは、そうだよねぇ、と呟いて黙ってしまった。

しばらくその場を沈黙が支配する。


「マイク、僕は君に謝らなければならないんだ」


僕はマイクの辛そうな顔を見ていられなくて、声を出した。

マイクが訳が分からない、と言う顔をする。


「せっかく君が書いてくれるという記事を僕は拒否した。君の好意を無にする様な事をして、ごめん」

「セドリック、それは僕のセリフだよ」


マイクは慌てたように話した。


「僕は怖気づいたんだ。僕が書いた記事が魔法省で話題になってるって聞いて……だから君からの手紙を読んでホッとしたんだよ」

「それは怖気づいたんじゃないさ。君がそう考えるのは当然で……色々言われたただろう?」


マイクは頭を振った。


「両親は分かってくれた。僕がどうしてあの記事を書いたのか説明したから。でも、これ以上新しい記事を書くのは止める様に言われたよ。

クゥイラーさんから、僕がホグワーツを辞めさせられるかもしれないって聞いた所為だよ」

「クゥイラー?」

「記者だよ。ママの友人の。彼が色々と教えてくれたんだ」


僕は思い出した。


「そう……彼の名前を忘れてたよ。羽根ペン(Quill pen)って名前だったね」


マイクがくすくす笑う。


「そう。まるで記者になる為にある名前だってスノウが言って………ごめん」


マイクはしまった、という顔をした。

僕は頭を振る。


「気にしないで。今まで僕達と一緒に過ごして来たんだ。彼女の名前が出なくなる事の方が寂しいよ………どんな形でもね」


マイクは無理やり口元に笑みを浮かべた。

本当の事なのに。

マイクはきっと、ましろの事を話すと僕が悲しむと思っているんだろう。

確かに彼女の名を聞くと、傍にいない事が意識されて、胸の所に痛みが走る。

でも、ましろの事を話さなくなったら、彼女の存在をみんなが忘れてしまったように感じて、余計に辛くなる、と思う。


「それで……クゥイラーさんは君になんて言ったんだい?」


僕は話しを続ける為に聞いた。

二人で暗くなっていても良い事はない。

少なくとも、マイクがあんな顔する必要はないんだ。


「あ〜〜彼はダンブルドアを信じてるんだ。それに彼はスノウと面識があっただろう?

だから、何って言うか……彼女を悪者扱いする事に反対してたんだ。

彼は僕が新聞社に送った記事を読んでいた。それで、アレは本当の事だって信じてくれたんだ。だから手紙を載せる時も反対したらしい。

クラウチの手紙は筆跡が本人のモノだって確認出来たけど、内容が本当かどうか分からないうちは載せるべきじゃないって。

でも上の方から圧力がかかって、トップニュースになって、凄く怒ってた。スノウや君の事を心配してた。おじさん達の事もね。

それで……彼は新聞社を辞めたよ。新聞社にいたらジャーナリズムとは何か?って事を忘れそうになるんだって。

僕は彼に感銘を受けた。彼に倣って僕も記事を書こうとしたけど、彼から魔法省の事を聞いた両親に止められたんだ。彼にもね」


そこで一旦口を閉じたマイクは僕を窺うような目で見た。


「君はルーピンが学校を追われた事を知ってるよね?」


僕は頷いた。


「ショックだったよ。あんなに良い先生は今迄にいなかったのに」


マイクは何度も頷いた。


「ぼくもそうさ。それで……後任は誰か知ってるかい?」

「いや……新しい教科書を揃える様に指示があったから誰か決まったんだろうけど……本を読んで幻滅したのは確かだ」


『上級 防衛術の理論』


理論ばかりを学んで何の役に立つというのだろう?


「指導要領が変わったんだ、セドリック。魔法省がホグワーツに干渉し始めた。その為の第一歩なんだよ」

「新しい教科書が?」

「新しい先生が、さ。『DADA』の新しい教師は、アンブリッジ。ドローレス・アンブリッジ。魔法大臣上級次官。ファッジの手下だよ」


マイクはうんざりだ、という顔をした。


「クゥイラーさんは、その女について色々調べたんだ。どうやら本当は校長になりたかったらしい。

でも、ダンブルドアがいるだろう?ルーピンの事で責任を取らせようとしたけど、上手く行かなかった。

それでホグワーツに乗り込んで、ダンブルドアを追い出す口実を見付けるつもりだって言うんだ」


僕は頷いた。


「僕も父さんから似た様な事を聞いたよ。ファッジはダンブルドアを良く思ってないって」

「そうなんだ、セドリック。それで……その所為で僕はもう動けないんだ。

僕が記事を書いたら、ダンブルドアが怒られるかもしれないから」


マイクは情けなさそうな声で呟く。


「僕がホグワーツを辞めさせられるのは覚悟してた。

自分の信念を貫く為には多少の犠牲は必要だ。でも、ダンブルドアは犠牲にしちゃいけない」

「それは僕だって一緒さ。魔法省に目を付けられない様にするって父さんに約束してきた。後一年で卒業だ。それまで我慢するってね」

「セドリック………」


僕はマイクに笑いかけた。


「僕は決めたんだよ、マイク。スノウを取り戻す為ならどんな事でもするってね。

魔法省にへつらう事なんか簡単だよ。スノウの置かれている状況を考えたら簡単すぎて笑っちゃうくらいだ」

「そうか………君は強いんだね、セドリック」

「強くはないよ。でも強くなりたい、とは思ってる」


そうでなければ、ましろを取り戻せないから。

彼女を支え、守れない。


「そうだね………僕も強くなりたい。クゥイラーさんの様に信念を曲げずに生きていける程に」


僕達は頷きあって、いつの間にか動きだしていた汽車の窓の外を見ていた。





予想通りケルヴィンがコンパートメントに来たのは、ほんの少し。


「見周りやら指示やら忙しくって………こんなに大変だとは思ってもなかった。今までの首席経験者を尊敬するぜ」


入ってきてすぐに椅子に倒れ込む様に座ると、僕のおやつを奪った。


「お昼は食べなかったのかい?」

「ん?食ったけど、途中で何度も中断させられてさぁ。ほんの一寸した事も報告しろって言ったら、その通りにするんだよ、監督生のヤツらが」


食った気がしない、と言うケルヴィンに、マイクはくすくす笑ってカエルチョコを差し出した。


「これもあげるよ………で、グリフィンドールの監督生がポッターじゃない理由は?」


監督生バッジを付けて見回りに来たのは、ウィーズリーズの弟だった。

確か……名前はロン。


「分かんなかった。まさか本人に”どうしてだ?”って聞けないだろ?お前よりポッターの方が適任じゃないか?なんてな」

「まぁ……そうだね。マルフォイが監督生なのは親のコネだろうけど、ウィーズリーはそれもないし……不思議だ」


マイクは頭を捻りながらケルヴィンと話す。


「我がハッフルパフの監督生の仕事ぶりはどうだい?」

「アーニーとハンナ?アイツらは可もなく不可もナシ、だ。うるさいのはスリザリンのマルフォイ。

ポッターがコンパートメントにいた。ポッターが臭液まみれになっていた。ポッターが車販でかぼちゃパイを買った。

ポッターが、ポッターが、ポッターが!お前はポッターの事がどんだけ好きなんだ?と言ってやったら、やっと口を閉じやがった。

初恋か?って聞いたら顔を真っ赤にして出て行った。ホッとしたぜ」


ケルヴィンはうんざりした様な顔で、後はグレンジャーだ、と言う。


「彼女は真面目だし、ぴったりだと思うけど?」


僕は驚いた。

彼女が見回っているのを見た時、彼女以外に適役はいない、と素直に納得できた。


「ぴったり過ぎんだ。規則を1から100まで覚えてるんだ。で、それに無いヤツを俺に聞きに来る。

通路でおしゃべりしているだけでも、進路妨害になるのか?とか、他人のコンパートメントに無断で侵入するのを減点して良いか?とか。

とにかく細かい。で、俺はそれに答えなくちゃいけない。だろ?俺は彼らを指揮する立場にあるんだから。

羊皮紙を広げて規則を確認して……そんな規則が何処にも無い事を彼女に指摘される訳だ。

だから俺はこう答える事にした。”規則に無いなら減点してはいけない。臨機応変に対応しろ”ってな。おかげでここに来れた」

「真面目過ぎるのも大変だな」

「あぁ。同じ才女でもスノウとは大違い。もう少しくだけてないと、ありゃ大抵の男は近寄んないぜ」

「ケルヴィン!」


マイクがケルヴィンを窘めたが、僕は笑った。


「ケルヴィン、僕は君のそういう所が好きだよ」


気負わず、飾らず、今までと変わらない率直さ。

マイクとは違う気の遣い方。


「は?何言ってんだ?お前、まさかスノウがいないからって、男に走る事にしたのか?」


ケルヴィンが僕の隣からマイクの隣に席を移した。

僕は笑いながら手を振る。


「僕がスノウ以外の人を愛する日が来ない事くらい分かってるだろう?

ただ、君達の優しさが嬉しかっただけさ。君達と会えた自分の幸運に感謝してるんだ」


向かい側の二人は照れたように笑う。

僕は笑いを収めて、ケルヴィンに手紙には無かった事を聞いた。


「ところで、ケルヴィン。ヴァカンスは楽しかったかい?」


ケルヴィンは顔を赤くすると、思い出したように懐中時計を引っ張り出した。


「悪い。もう戻る時間だ」


ケルヴィンはろくに時間を確かめもせずにドアを開けて出て行った。


「逃げなくてもいいのに」

「ま、この後問い詰める時間は一杯あるよ」


マイクはくすくす笑いながら言葉を続ける。


「ケルヴィンがあんなに慌てたとこ初めて見た。上手くいってるんだね」

「し〜〜っ、マイク。本人は隠してるつもりなんだから、騙されてあげないと」


僕達の笑いはしばらく収まらなかった。

その後、ケルヴィンが僕達のコンパートメントに来る事はなかった。

部屋でいくらでも会える事を思えば、笑っちゃうほどの抵抗だった。




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