Novel

□スナオなココロ
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 目を背けて、耳を塞いで。そうすれば逃げられると思ってた。


 このままでいられると。

 このままが幸せだから。

 このままでいたいと。


 気付かないフリで目を逸らしてた。

 それなのに、どうして。
 どうして今、胸が苦しいんだろう。


「馬鹿みたい……」

「誰が馬鹿だって?」

「――っ!?…いたの?」

「おかげさまで、さっきから。呼びかけてもお前返事しねぇんだもん」


 呆れたような彼の目に、困惑した、それでいてどこか嬉しそうな私が映る。……何か悔しい


「で?誰が馬鹿だって?」

「別にアンタのことじゃないわよ」

「…ふーん。じゃ、誰?」

「別に。アンタには関係無い」


 顔を背けようとすれば、すいと細められた彼の瞳がそれを許さない。

 ……何で、そんな不機嫌そうな顔するのよ。


「……私って、馬鹿だなぁと思って、ね」

「んー…まぁ、間違っちゃいないわな」

「そんなハッキリ言わないでくれる?落ち込むから」

「だってお前、こっちが見てらんなくなるくらい馬鹿なんだもん」

「……は?」


 むすっとぶすくれたような表情で私を見下ろす彼に困惑する。

 だから、何で、アンタがそんな顔するのよ。


「何で俺に話してくんねぇの?」

「そ、れは……」

「何で?」


 彼の手が、いつの間にか私の手を掴んでいて、離れることを許してくれない。至近距離で絡む視線に、鼓動が速まる。

 言えるわけがない。

 アンタが好きだから、このままでいようとしたのに、堪えられなくなった、なんて。自分の馬鹿さを差し引いても言えない。


「ねぇ、言えない?」

「い、言えないっ」

「……そっか」


 彼の手から私の指が滑り落ちる。離れた体温を名残惜しい、と思ってしまう。


「じゃあ、俺が言うけど」


 真っ直ぐに私に注がれる眼差しが痛くて、熱い。


「好きな女が目の前で落ち込んでんのに何も出来ない俺自身のことを…俺は馬鹿だと思うよ」


 目の前が、一瞬真っ白になった。


「何、言って…」

「お前が好きだ」


 追い撃ちのように投げ掛けられた言葉。理解するのに時間がかかった。


「え…っと……ホントに??」

「嘘であんなこと言えるかよ」

「そ、そうだよねっ。じゃ、じゃぁ……」

「何回も言わせんな」


 徐々に顔が熱くなっていく。きっと今、私の顔は真っ赤だ。

 チロリと彼を上目遣いに見遣れば、彼も少し頬を赤くして、それでも目は逸らさずに、私を見ていた。


「どうしよう。嬉しい……」


 自然と口元が緩んでしまう。


「つか、俺にばっか言わせんな。お前も言え!」


 笑う私に、拗ねた彼の声が重なる。どうしよう、やっぱり嬉しい。


「私も、アンタが好きよ」


 にっこり笑ってそう告げると、彼は満足げに笑う。


 指先がどちらからともなく絡まった。






スナオなココロ
嬉しくて、少し照れ臭い。




『xxx.IV』様提出作品

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