Novel
□月夜に乗じて逢いましょう
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「あ……」
今日も、いる。
窓から見える小さな公園。ベンチに座るその姿を月明かりが照らす。
黒く黒く、ともすれば闇に溶け込んでしまいそう。だけどその瞳が宿す、美しい金の光が彼の存在を主張していた。
彼は多分知らない。私が彼を見ている――いや見つめていることを。
彼の視線はただただ、上空に向けられていたから。
私からは彼の目が何を追っているのか分からない。だけど、その真っ直ぐで、それでいて焦がれるような金の瞳に、私はどうしようもなく魅せられていた。
ただ、美しいと思う。闇夜に紛れてしまいそうなその姿も、真っ直ぐな眼も。
その金の瞳に、私が映ることはない。映ればいいのに。そしたらきっかけになるのに。
「……無理、ね」
自嘲気味に微笑った、その時。
「――っ!」
その美しく真っ直ぐな眼が、私を捉え…いや、捕えた。
驚いたように一瞬目を見開き、次いですっと私を射抜く。
「………」
ここからでは彼の声は聴こえない。でも、間違っていないのなら。
月夜に乗じて逢いましょう
そう言った彼の瞳は、微笑んでいるように見えた。
『xxx.IV』様提出作品。