Novel

□桜霞みの森
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 桜が散る。
 花弁が舞い上がり、視界が薄紅に染まる。

 住宅街から少し離れたこの桜の森に一軒の洋館がある。

 煉瓦調の壁に蔦が張り巡らすこの洋館。長い間住人のいないままで寂れる一方だが、桜咲くこの期間だけピンク色に染まる。


“桜霞みの森には魔が住まう”


 そんな話を子供の頃、祖母に聴いた。
 この辺の住人は皆そう聴いて育つ。――だから森には近付くな、と。どこにでもある地域の教訓話だ。

 だけど私は昔から、この“桜霞みの森”が好きだった。

 花咲き誇る春も。
 青葉萌ゆる夏も。
 枯れ葉散る秋も。
 綿帽子被る冬も。

 洋館を囲むこの桜の森が四季に合わせて表情を変える様を見るのが、小さな頃から好きだった。勿論、この洋館も。


 その洋館に人が住むことになったと聴いたのは、高校1年生の蕾もまだ固い、初春のことだった。



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