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□Cry Day
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 今から約4年前。一人の忍者が姿を消した。
名を―――うずまきナルト。九尾の器として親もなく、火影により保護を受け育ち、里人からの理不尽な暴力の中、まっすぐ成長した、かつての少年。
生きていれば、20歳。生きているか、なんて定かではないけれど。

 彼は火影になるのが夢だった。

 生まれて間も無く、九尾を封印された彼は、「化け狐」と罵る里人たちに自分を認めさせてやるんだと健気に叫んでいた。
 彼を「狐」と言わない里人は一様にこう言う。あの子は、本当に純粋でまっすぐな子だ、と。
 でも、私はそれが違うと知っていた。
そんな環境で育った子供が、あんな風に育つわけがないのだ。
 彼は、光のように輝く色を持ちながら、闇に生きる人だった。
強くて儚くて、悲しくて優しい人だった。自分よりも他人を優先して、いつも死を願っていたけれど、死ぬこともできない人だった。
 5歳の頃から暗部として里を守り、その一方で無邪気で無知な無謀な子供を装い、里人の悲しみ憎しみの捌け口として暴力を甘受していた。
表では、”ドベ”の仮面を被り蔑まれ、裏では”守護神”として暗部の総隊長を務めていた。

葬華(ソウカ)。

その暗部名を知らない忍を、私は知らない。
 裏と表。まったく正反対の人物を演じ続け、さらに総隊長の激務をこなし、里人からの暴力に耐え続けていた。
―――だからなのかもしれない。彼は、私の前でさえ演じているようだった。
 彼はいつも笑っていた。
いつでも、どんな時でも。まるで作り物の笑顔。初めて出会ったときもそうだったし、私が彼と共に行動するようになっても変わらなかった。
本当の表情を見せることは稀だった。
 彼はある意味ではとても純粋だった。でも、まっすぐではなかったと思う。むしろ、とても歪んでいた。
いつでも笑顔をうかべ続ける。その姿は彼の素性を知る者から見れば、異常以外の何物でもなく。
自身の“本当”を晒さず、仮面の上に仮面を重ねるように演じることをやめない彼を、どうすればまっすぐだと言えるだろうか。
ひたむきにただ里に尽くす彼の姿は、純粋な忍の姿そのものだったけれど、人間としては歪んでいたように思うのだ。
 いつか、その歪みに無理が来ることは分かっていた。
どんな環境で育とうとも、彼は一人の人間だった。いくら「化け狐」と罵られようとも、九尾が封じられていようとも、それだけは変わらない事実だったのだから。
 それを分かっていたのに。

私は―――何もできなかったのだ。




* * *




「今、時間ある?」

 私はしばらくぶりに顔をあわす同期にそう声をかけた。

「あぁ、ちょうど次の任務までの待機中だ。ひさしぶりだな、イノ」
「えぇ、本当に。シカマルも、忙しそうね」

 待機室には、私と彼以外誰も居ない。
シカマルは一冊の本を片手にソファーにだらけた体勢で座っている。机の上には、作成途中の書類が投げ出されている。
 彼は読書を中断することなく返事を返す。私は、ひとつだけある窓にちらりと視線を向け、自嘲的な笑みを浮かべた。

「……ねぇ、何故なのかしら? 貴方たちなら答えを知っている? 怜遥(レイヨウ)」

私は意図的に彼のもうひとつの名を呼ぶ。本名ではなく、暗部名を。彼らはすばやく眼つきを変え、書籍から顔を上げ、私を咎めるように見つめた。

「イノ、今は」
「わかっているわ、怜遥。でも心配ないわよ。防音結界を張ったもの」
「相変わらず、用意周到だな。香璃(コウリ)」
「貴方ほどじゃないわよ。それに忍だもの、当たり前のことよ」

私が結界を張ったことを伝えると、シカマルが呆れたように笑いため息を吐く。手に持っていた本を閉じると、私に向き直った。
 シカマルは長い髪を高い位置で纏めていた紐を解き、再びゆるく結びなおす。そして、瞳を蒼に染める。かつて暗部時は、術で見た目の年齢を上げていたが、今ではその必要は無く色を変えるのみだ。それだけ自分たちは成長したのだと実感する。私も彼に倣い、暗部姿へと変化する。白金の髪をさらに薄め、銀髪へと変える。シカマル同様、瞳を蒼に変える。
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