story

□ふたり
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張り詰めた空気の漂う休憩時間。
直の心は参っていた。
自分さえ信念をしっかり持っていれば、
大丈夫だと信じていたはずなのに。
その信念を崩そうと、いかにも正論らしく攻められたり、
胡散臭がられたり、疑われたり.....
強い負の力をかけられると、
やっぱり参ってしまう。
ただでさえ薄暗い空間で、
一人きりになってしまった様な気分だ。
俯いて目を伏せる。
―しかし彼が直を一人きりにはさせなかった。
彼、秋山は静かに側に寄ると、
‘気にするな’と声をかけた。
腕を引き、隅の方へ移動すると、
腕を離さないまま言葉を続ける。
「今までだってお前の信じるままに
やってきたじゃないか。
それに状況は常に変わるし、変えられる。
何も不安がる事はないさ。
わかった?」
温かい言葉に、温かい手.....
そうだ、そうだったんだ。
私は信じるままに進めば大丈夫。
直は見失いそうになった自分を見直せた。
それに状況は確かにどのゲームでも
随時変わっていたし、
二人が変えた事も多々あった。
そして自分には秋山がいた。
思い出した彼女はゆっくり顔を上げた。
「ありがとうございます、秋山さん。
私、見失いそうになってました。
けどもう大丈夫です!」
「そ。」
秋山はやっと腕を掴んでいた手を離し、
そのまま手を背中の方へ回し、
軽く抱き込んだ。
そして安心させる様に、ポンポン、と
背中を軽く叩いた。
まるで子供をあやす様な行為なのに、
秋山の臭いや体温が一気に近づいて、
緊張した直の白かった顔がパッと赤くなる。
「顔色も良くなったみたい様で」
からかう秋山の手が、今度は頬に向かう。
「お前は俺が守るから。だから笑って」
短い言葉が優しい。
そっと触れてる、
少ない面積の体温が温かい。
二人は目を合わせて、
同じ安心感を共有した。
そして静かに願った。
孤独を知ってる二人が、
この温度をいつまでも保てるように、と―。二人は同じ願いを抱き、ゲームに戻った。
 

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