勿忘草

□名前を呼んでみる。
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『……こういうことになってしまうよね。』


黙って去った事に対しての結果は覚悟していた。

私は理由があれど1度約束を破った人間だ。

そう簡単に許してもらえるなんてことはないかもしれないと心の中では理解しているつもりだった。


『意外と物分りが悪いから辛いな。』


こぼれてくる涙を無理矢理笑顔を作ってとめる。そして、まだ引越したばかりで整っていない部屋の片隅を眺める。


『さ、片付けしないと。ここが今日からの私の家なんだから。』


池袋にあるマンション。譲お兄ちゃんが用意してくれた。“遊枝を護るのが兄だ”とか…。相変わらず心配性なお兄ちゃんだ。


そんな兄に感謝しつつ、私は部屋の片付けを始めた。


ピンポーンとチャイムが部屋の中に響く。インターフォンを出てみれば、そこにはあの人の姿が見えた。




『どうしたんですか?』



「どうしたって…手前が自分の住所を俺に渡したんだろうが。」



『だから、来てくれたんですね。やっぱり貴方は優しい人なんですね。

すぐにロックを解除しますね。』


モニター越しの静雄先輩は、どこか落ち着いているように見えた。


セキュリティーを解除してから、先輩が私の部屋に到着するまでに慌てて出来るだけ片付けた。


「よう。」


『…すいません。散らかっているのですが、入ってください。』


引越したばかりの部屋は、まだ整っていない。



「……引越したんだよな?」


疑問系で私の部屋を見渡した静雄先輩が聞く。


『これから引越すならわざわざ前の住所を教えたりしません。今日からここに住むんです。


お茶飲みますか?そこに座ってください。』



私は、大きなソファーに座るように伝える。静雄先輩は、ドカッとそのソファーに座り込む。



「…いい。

それよりも2年前のことを話せ。」



静雄先輩は、サングラスをかけなおして私にそう言った。



『……分かりました。』



昨日までのことを私は語り始めた。










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