勿忘草

□名前を呼んでみる。
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2年前…

あの日、私は高校3年生だった。


『静雄先輩。』


「高校生がこんな所に遊びに来ていいのか?」


当時の静雄先輩は、色んな職業に挑戦してやっと落ち着いた職業がバーテンダーだった。


そして、私はそのバーに時々遊びに来ていた。



『私服を着ておけば高校生とは分かりません。』


「いや、お前はちんちくりんだから余計に幼く見えるぞ。」



『いいんでーすー。いつか誰もが振り返る素敵な人になるんですから。今はちんちくりんでもいいです。』



恋は人を綺麗にするとか言う言葉があったけど私は何にも成長なんてなかった。でも、いつか静雄先輩につりあうような素敵な人になるという目標があった。




『それより静雄先輩。どうしたんですか?そのバーテン服。カッコいいです。』


その前に静雄先輩を訪ねてきたときは、ネクタイのバーテン服を着ていたのに、先輩の服は蝶ネクタイのバーテン服になっていた。



「ん?アイツが買ってくれたんだ。

最近、学校には来てるのか?」


静雄先輩の言うアイツとは、私と同じ来良学園に通っているクラスメイトの平和島幽くんのことだ。彼は大人気俳優の羽島幽平の正体で静雄先輩の弟だ。



『幽くんもう1ヶ月は会ってませんね。一応、ノートとかは取ってありますけど。』


同じ高校生でも彼は人気俳優。学校に中々登校することは無い。授業にも参加できない彼に代わって事情を知っている私は彼の分の進んでノートを取っていた。



「悪いな。」


『いいですよ。幽くんは大事な友達ですし。時より静雄先輩。幽くんからなんて言われたんですか?』



死蔵先輩を見たらククッと楽しそうに笑いながら…幽くんのことを話してくれた。



静雄先輩とはいつもこうだった。


私が静雄先輩に会いに行って、他愛の無い会話をする。そんな関係だった。



そんな日々を過ごしていた。




『ちょ、それってどういうこと?!』



電話の相手は笑っていた。



「だーから、これから君の大好きなシズちゃんは逮捕されるんだよ?遊枝。」


臨也くんは面白そうに私の名前を呼ぶ。




『……前々から思っていたけど、臨也くんは何で人の幸せを壊そうとするの?』


私は興味本意で、遠縁の臨也くんの提案に乗って高校を決めたけど、彼の行動に疑問を持っていた。



「君は人は誰でも幸せになれると考えているみたいだけど、そんなことなんてだたの理想郷だとは思わないの?ていうか、そんなことってまずありえないよね?時より人はいろんな感情を抱きながら生きている。人を愛している俺は、そんな人のいろんな表情を見たいんだよ。分かるかい?」


電話の向こうで楽しそうに持論を語る臨也くん。




『知りたくない。

……これ以上静雄先輩の人生を邪魔するようなことをしたら殺す。知ってるでしょ?情報屋なんだから。』




「君には、俺を殺すことは出来ないよ?


それに、シズちゃんが逮捕されることをとめることもできずに君は失望する。」



私は静雄先輩に事を伝えるべく、携帯を切った。



そして、静雄先輩の職場に走り出した。



この時点で彼の術中に嵌っていることを知らずに……。



何人もの警察官に囲まれている静雄先輩を見たときに私は、



『先輩は何もしていません!!

だからやめてください!!』



と叫ぶことしか出来なかった。


私は警察官に取り押さえられたいて、その叫びなんて届くことなく涙を流すことしか出来なかった。




その後、警察官に私は実家に送られた。臨也くんの術中で城崎財閥令嬢の私が静雄先輩に脅迫したという容疑までも追加されていたことを知らずに…





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