狐へ嫁入り

□陸
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「はぁ…はぁ…もうすぐ…佐助様…」

「あ…!!姫様、後ろ…あれはもしや、」

「!!」


背後がいつの間にかざわざわしている。

間違いなく、家の男衆だった。


「…急がなければ…!!」


焦る雨瑠璃達の前に、例の陰陽師が現れた――――。


「ッッ!!!」

「何処へ行かれる」

「…っ社へ…参拝に…」

「男衆に何も言わず?」

「…彼等は…私を外には出しません…」


女中達が右往左往しているのを感じる。


視線が下がってしまう。これでは後ろめたい事があると言っているようなものだ。そう思っても最早雨瑠璃は、"男"を見るのが怖くなってしまっていた。


「…お父上が許可なさらないならば、殊更行かせる訳には参りませぬ」

「…お願い、通して…!約束している人が居るの…お父様達が私を外に出さず何をなさるおつもりなのか、貴方もわかるでしょう…?」


その言葉に、陰陽師がぴくりと反応する。


「…しかし "人"、ではありますまい…」

「…ッッ!!!」

「それでも…私は…」


後ずさってしまう。

逃げなければ、逃げなければ。
もうすぐ竹林。そこを抜ければまた、あの優しいすすきに会える。愛しいお狐様に会える。


どうやってこの陰陽師を振り切る。

いくら陰陽師は高齢とはいえ、着物を着た雨瑠璃はそう早くは走れない。


もっと身軽な格好で来れば良かった。


けれど、慕っている方に嫁入りするのに、粗末な格好で行く訳には行かなかった。


「…それでも…私は…」

「生肝を食べられるとはお思いにならないでか」


「それでもいいの…あの方の糧となれるのなら…私は…」


小さくなる声。こんなんでは駄目だ。でも。






ふぅ…と陰陽師が溜め息を吐いた。



 

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