KRB夢

□8th
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青峰は腹を括った。

できる限りのことを黄瀬に話す覚悟をした。

黄瀬が正直に自分の気持ちをぶつけてきたから。

自分がこのような立場だからこそ、対等であるべきだと思ったのだ。


青峰「…俺とゆづは、恋人とかそういうんじゃねぇのは本当だ。」

黄瀬「…じゃあやっぱりセフレっスか?」

青峰「…セフレでもねぇよ。…ただ…」

黄瀬「ただ…?」


黄瀬は、青峰の次の言葉を聞くのが少し怖かった。


青峰「お互いが必要な時には求め合う。そんな関係だ。」

黄瀬「!?…それは、セフレとは違うんスか…?」

青峰「セックスはしてねぇからな。」


青峰が妙に冷静な反面、黄瀬は平静を保つのに必死だった。

息が詰まりそうだった。


黄瀬「セックス”は”って…手前まではやってるんスか…」

青峰「それ、言った方がいいのか?」


遠慮しとく、って言った。

マジで、想像するだけで胸の奥がえぐられる…


黄瀬「ていうか…なんでそもそもそんな関係になったんスか…?」

青峰「…去年の事件のこと、さつきに聞いたんだろ?」

黄瀬「!…昨日、聞いたっス。…」

青峰「…本当、とんでもねぇ奴らでな。退部だけじゃなくて退学してもいいくらいな連中だった。」


俺も昨日同じように思った。

青峰っちは、そいつらのことボコボコにしたんスよね…?

その事件以来、藍っちとの関係も変わったって桃っち言ってたっけ…


青峰「俺は、実際に見ちまったからよ。ゆづが、ボロボロんなって傷つけられたところを。倒れてんの見て、抱きしめてやるしかできなかったんだよ。」

黄瀬「!…」

青峰「俺がもう少し早く見つけて助けてやればよかったのにって、何度も思った。ゆづの傷はきっと今も癒えてはいねぇ。けど…あいつは強がってばっかりで…いつ壊れてもおかしくなかったよ。」


藍っちの目がどこか寂しそうに見えるのは、まだその痛みのせいなのかもしれない。

絶望感、恐怖感…

色々なものが傷として残っているのかもしれない。


青峰「それで、ある時…強がって我慢してた糸が切れた。ゆづは過呼吸になって、すげぇ苦しそうにしてた。」

黄瀬「過呼吸…」

青峰「俺が近くにいたからゆづを医務室に連れて行って、落ち着くまで傍についててやって。…その頃から一緒にいることは確かに増えた。」

黄瀬「…状況はわかったっス。そこから何で今みたいな関係になったんスか?」

青峰「…お前さ、いいのかよ?ゆづのこと好きなのにこんな話聞いて。嫌じゃねぇの?」

黄瀬「!…」


青峰っちの言う通りだ。

確かに、気になる子の好きな奴の話なんて本当は聞きたくない。

でも、真実は知りたい。

藍っちが幸せじゃないのは、もっと嫌だから。


黄瀬「知りたいんス。本当のこと。…気になってるからこそ、知りたいんス。」

青峰「!…そうかよ。…じゃあ言うけど、正直なところ、俺だってゆづに好きとか言われたわけじゃねぇよ?」

黄瀬「!?」

青峰「ゆづはあの時男に傷つけられたのに、直後でも俺らのことは平気だった。特に俺はしつこいくらいゆづの側にいて、登下校はもちろん…とにかく一緒にいたな。」

黄瀬「…藍っちも、青峰っちのことを信頼してたってことっスね。」

青峰「どうだか。ゆづは多分、俺のことを男として見てる訳じゃねぇ。…もしかしたら誰でもよかったのかもしれねぇな。傍にいてくれる奴なら。…」


青峰っちのこんな顔は初めて見た。

何かを諦めたような、力ない笑顔。

きっと、青峰っちは本気で藍っちのことが好きなんだ…


黄瀬「それで…なんでセフレみたいな関係に?」

青峰「!…セフレじゃねぇよ。キス止まりだ。」

黄瀬「!?…キス友ってやつっスか。」

青峰「そんなのあんのか?知らねぇ。」

黄瀬「なんでキスするようになったんスか!?」

青峰「してぇからした。それだけだ。」

黄瀬「!?…それ、許される理由なんスかね…自分の欲を押し付けただけじゃないんスか?」

青峰「…」


数秒の沈黙の後、青峰っちはギロリと睨むように俺を見た。


黄瀬「…好きだって伝えないんスか?」

青峰「!」

黄瀬「恋人の真似事はやめて、ちゃんとぶつかれば藍っちと…」

青峰「ゆづはそれを望んでなかったとしたら?」

黄瀬「!?…え…」

青峰「ゆづの、俺に対する気持ち云々はわかんねぇ。けど、二人でいる時は素直に求め合えんだよ。それが正しいとは言わねぇ。でも、俺らがそれでいいならいい。それじゃダメなのかよ!」


思わず口をつぐんでしまった。

きっと、青峰っちと藍っちの間には見えない絆みたいなものができているんだ。

それは、他人がどうこうしようと壊れない絆…

むしろ、壊してはいけないものなのかもしれない。

でも…!


黄瀬「…藍っちの本当の気持ちを知るのが、怖いだけっスよね?」

青峰「!」

黄瀬「青峰っちは、藍っちと繋がっていられなくなるのが怖いだけだ。だからはっきりさせないんスよね!?」

青峰「…っ、そうだよ。それの何がいけねぇんだよ!…お前にはわかんねぇよ!今更純粋な恋人になんかなれるわけねぇだろ!?」

黄瀬「あぁ、わかんないっスよ!気持ち伝える前に身体で繋がること自体っ…」

青峰「…!」


黄瀬はいたたまれない気持ちを我慢するのが精一杯だった。


青峰「黄瀬…俺もわかんねぇんだよ。一線を越えたあの時から間違ってたのかもしれねぇ…けど、俺だって、ゆづが好きだからそうしたんだよ…」


理屈じゃない、ってことか…


黄瀬「…青峰っちの気持ちはよくわかったっス。…じゃあ俺ら…恋でもライバルっスね。」

青峰「!…何か、まとめに入ったな…黄瀬。」

黄瀬「もう、ウジウジするのはやめにするっス。全部わかって、吹っ切れた。…俺、青峰っちと勝負するっス。」

青峰「勝負って…(苦笑)決めんのはゆづだぞ?これは付き合えたら勝ちなのか?」

黄瀬「藍っちを幸せにできる方が勝ちっス。今は俺の方が不利だけど…俺も容赦しないっスよ。青峰っちは”キス友”だからねっ。」

青峰「何か他にもっと表現ねぇのかよ。」

黄瀬「恋人じゃないなら遠慮しないってことっスよ。じゃ、今日だけは見逃してあげるっス。一緒に帰るんでしょ?藍っち、もう待ってるんじゃないっスか?」


気付けばあれからかなり時間は経っていた。

学校から出るタイミングをずらす為に、ゆづきには先に近くのカフェで待っててもらってはいた。

さすがに待たせ過ぎたかもしれないと、青峰も支度を急ぐ。


黄瀬「じゃあ、また明日っス。青峰っち、俺、マジで遠慮しないっスよ?」

青峰「…はぁ。甘く見んじゃねぇよ…俺だって遠慮しねぇよ。」


俺はもう吹っ切れた!

青峰っちとキス友だろうがもう関係ない!

藍っちが少しでも俺を選んでくれる可能性があるならば、俺は必死でがんばるよ。

振り向いてもらえるように。


本当の恋愛ってやつを、俺と一緒にしてほしいっス。



















つづく
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