KRB夢
□9th
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あと数分後にはゆづきの家に着く。
青峰はどう話を切り出そうかとあれこれ考えていた。
だが、ゆづきもゆづきで、別のことを考えていた。
「…ねぇ。」
青峰「!…ん?」
「家、寄っていく?」
青峰「!?…え…」
思いもよらないゆづきの一言に、動揺を隠しきれない青峰。
自分が今考えていることからかなり飛躍した内容だったから。
「マッサージの約束。口実だったかもしれないけど、腰が良くないのは事実よ?」
青峰「いや…それはありがてぇし、やってもらいたいのは山々だけどよ…ゆづ、自分で何言ってっかわかってんの?」
「ん?」
青峰「家あがって、マッサージして、それで終われると思ってんのかよ?」
「…大輝のこと、するのは嫌じゃないもん…」
青峰「!…するのはって…逆のことは考えねぇのかよ?俺だって一応健全な男なんだけど。」
青峰は必死で理性と戦っていた。
ゆづきを傷つけたくはない。
けれど、
家に上がってしまったらこれまでと同様にキスをしたくなって、胸に触りたくなって…
それ以上のことをしたくなってしまうことが予想できた。
「…大輝は…してほしかったんじゃないの?本当に、マッサージだけのつもりで私に頼んだの?」
青峰「あれは口実だって言ったじゃねぇか…」
しばらくの間沈黙が流れたが、先に口を開いたのはゆづきだった。
「…そっか。じゃあ、いいよ。もう。」
青峰「!?…ちょっ、待てよ。」
「何?マッサージしてもらいたかった訳でも、それ以上のことしたかった訳でもないんでしょ?だったらもういいじゃない。」
ゆづきはこれまでの態度とは打って変わって、青峰のことを突き放すかのごとく早足で歩き出す。
青峰は予期しないゆづきの態度に驚き、無意識のうちにゆづきを追った。
だが、ゆづきのスピードはなかなか落ちなかった。
青峰が少し走るくらいのスピードでようやく追いつく。
青峰「ゆづ、待てって。何怒ってんだよっ…!?」
ゆづきの手を引っ張り、自分の方に向かせようとする。
そこには目にうっすら涙を溜めたゆづきの姿が…
「嫌だっ…見ないでよっ…!」
青峰「!?…ゆづ…お前…なんで…」
「何でもないっ!ほっといてよ!帰りたいんでしょ?早く帰ればいいじゃない!」
青峰「…!」
「っ…大輝も結局っ…!大輝とはっ…ただ一緒に居られると思ってたのに…っ!」
ゆづきは涙が零れ落ちるのをこらえているようだった。
青峰「ゆづ…っ」
ゆづきを抱きしめる青峰。
ゆづきの泣きそうな顔を見るのは去年のあの事件以来だった。
ゆづきを悲しませない為に今まで一緒に居たにも関わらず、
関係を変えようとしたらこの有様だ。
青峰は後悔しようとしていた。
青峰「ごめんっ…」
ゆづきは青峰の腕の中で一つ咳払いをした。
もう、いつものゆづきだった。
「…大輝は悪くない。ごめん。私が弱いだけ。」
青峰「ゆづは弱くねぇよ。…俺が悪かった。お前の気持ち、ちゃんと汲み取ってやれなかったから。…しかも、俺が余計なことを口走ったせいで…気遣わせたんだよな。」
「ううん…。大輝に必要とされなくなるのが怖かった。私のわがままを、大輝に押し付けるみたいにしちゃった…本当最低だよね。ごめんなさい。」
お互いに謝り合う二人。
青峰はもう難しく考えるのはやめたかった。
青峰「ゆづ、はっきり言ってくれて構わねぇ。これから先も、俺と一緒に居てぇって思ってくれるのか?」
「…大輝が、私を必要としてくれるなら…」
青峰「俺はゆづのこと必要だ。」
「そう思ってくれるなら…一緒に居られるんじゃないのかな…?」
青峰「ゆづの気持ちが知りてぇんだ。そこに、俺のことを”好き”っていう感情はないのか?」
「!…」
青峰「俺はゆづと一緒に居てぇ。ゆづのことが…好きだから。…普通の恋人になれねぇかな?」
ついに青峰はゆづきへの気持ちを言葉にした。
ゆづきは目を見開いてかなり驚いている様子だ。
「…恋人…?」
青峰「返事はすぐにくれとは言わねぇ。ゆづなりに考えてみてほしい。ただ…」
青峰はゆづきの目をまっすぐに見て言った。
青峰「俺は、ゆづから離れねぇ。それは信じててくれ。」
「大輝…」
青峰「もし、俺とは普通に付き合えねぇって思うんなら、もう手は出さねぇ。ただのチームメイトだ。」
「!…」
青峰「でも、もし…俺のことを選んでくれるんなら、ゆづのこと全力で幸せにする。悲しませたりしねぇよ。」
「大輝…」
青峰「今まで…付き合ってもいねぇのに色々させちまって悪かったな。…じゃあ、今日のところは帰るわ。答えが決まったら聞かせてくれ。…じゃあな。」
青峰は行ってしまった。
青峰の本当の想いが、ようやくゆづきに伝わった…
つづく