KRB夢
□10th
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次の日の部活は午後からだった。
だが、昨日のことでずっと考え事をしていたゆづきはあまり眠れず、
予定よりも早く学校に向かうことにした。
他の部活動が行われている傍ら、ゆづきは誰もいないであろう第三体育館に向かった。
バスケットボールを倉庫から出して、静かな体育館にドリブルの音を響かせた。
ゴールに向かって投げたボールは綺麗な弧を描いて、スパッとリングに入った。
ゆづきも実は、小学生の頃に特設バスケットボール部に入っていたから、そこそこの技術は持っていた。
「…ふぅ。」
黒子「ナイッシューです。」
「!?…テツヤ、くん…!」
背後から突然声がすると思えば、そこには黒子が立っていた。
黒子「すみません、驚かせて。」
「びっくりしたよ。いつからいたの?」
黒子「30分程前からいました。さっき、トイレに行っていたので、その時に藍川さんが来ていたんでしょう。」
まだ驚きの余韻を残したままのゆづきに対して、黒子は異様な落ち着きだった。
「ごめんね、邪魔だよね。すぐどくから…」
黒子「いえ。そのままでいいです。何も邪魔はしていませんから。」
「でも、テツヤくん練習するでしょ?すごいね、こんな朝早くから自主練に来てたんだ。」
黒子「ボクは皆の何倍も練習しないと試合に出るのもやっとですから。それより藍川さん、何かありましたか?」
「え…」
黒子「何か、大きなことを悩んでいそうな顔だったので。」
ゆづきはまさか自分の態度が表情に表れていたとは思ってもみなかった。
そして、それを黒子に見破られてしまったことに動揺を隠しきれなかった。
「…ん。ちょっとね…」
黒子「…ボクでよければ、お話聞きますよ。力になれるかどうかはわかりませんが。」
ゆづきは今まで何かに悩んだ時、人に話して解決しようとはしてこなかった。
最後に決めるのは自分ということがわかりきっていたからだ。
けれど、これも何かの縁かもしれない。
今ここにいる黒子に話してみることで何か変わるかもしれない。
そう思っていた。
「…テツヤくんは、恋人っている?」
黒子「!…いませんよ。」
「じゃあ、好きな人は?」
黒子「好きな人も、今はいません。」
「!…今はってことは、前はいたことがあるの?」
黒子「…はい。小学生の頃、いたことはあります。片思いのまま終わりましたが。」
黒子の意外な過去の話に、ゆづきも少し驚いていた。
それと同時に、少し微笑ましく思っていた。
「そうなんだ…」
黒子「…恋のお悩みですか?」
「…私ね、今まで男の子と付き合ったことないからよくわからないんだけど…テツヤくんは女の子と付き合ったことある?」
ゆづきはあれから青峰の言葉を考えていた。
普通の恋人になる、とはどういうことなのかと考え込んでいた。
黒子「ボクも女性とお付き合いはしたことがありません。ですが…好きになった人とより親密な関係になりたいと思ったことはあります。」
「!…それは…恋人になって、付き合いたいってこと…?」
黒子「はい。…小学生でしたので、付き合うと言っても友達の延長のような関係なのかもしれませんが。」
「それは、さ…付き合ったら、何か変わるの?」
黒子「変わると思いますよ。お互いの想いを通わせることによって、その後の二人は恋人同士としてより親密でいられます。」
「…ただ、二人で一緒にいるのは、ダメなのかな。」
黒子「…と言いますと?」
「…好きとか、好きじゃないとか、そういう括りじゃなくて…ただ一緒にいるの。」
黒子は、青峰とのことを言っているのだと察していた。
黒子「…お互いにそれでいいなら、成り立つことだと思います。けど…」
「…けど?」
黒子「一緒にいるのは、”一緒にいたいから”、そうしてるんじゃないんですか?」
ゆづきの表情はまだ曇ったままだった。
黒子は続ける。
黒子「一緒にいる、という理由は何ですか?一緒にいたいから、なんじゃないですか?」
「…そう、だと思う。…」
黒子「一緒にいたい、という理由は何ですか?」
「…」
黒子「一緒にいると心地良いから、楽しいから、幸せを感じられるから…色々あるかもしれません。こんな風に思ったことはないですか?」
「…」
黒子「…青峰くんはきっと、藍川さんと一緒にいるとこんな風に感じているんだと思います。」
「!…テツヤくんっ…私、大輝くんのこととは言って」
黒子「青峰くんのこと、”好き”ではないんですか?」
思いがけないことをストレートに黒子に聞かれ、動揺するゆづき。
以前にも青峰との関係を怪しまれたことはあったが、ゆづきは思わず少し参ったような表情になった。
黒子「青峰くんと一緒にいて、さっき僕が話したように感じたことがあるのなら、”好き”に繋がると思います。」
「テツヤくん…」
ゆづきは黒子の言ったことを心に刻もうと思った。
黒子「…すみません。でしゃばり過ぎましたね。」
「!…ううん。そんなことない。…ありがとう。また考えてみる。」
ゆづきはそう言うしかできなかった。
黒子の、青峰に対する信頼のようなものも感じられた。
改めて、青峰のこと、青峰との今後のことを考えようと思った。