KRB夢

□12th
4ページ/4ページ

まさかの事態に私の方が驚いてしまった。

当たり前だけど、征の涙はこの時初めて見た。


赤司「あれ…参ったな…」

「!…っ、あ、あか…しく…っ」

赤司「っ…すまない…最後まで冷静に話すつもりだったが…」

「どうして…っ、泣いて、るの…?」


征の頬に手を添えるようにして聞いた。

征は私の手を握って、また静かに涙を流した。


赤司「どうしてか…君の涙の理由と同じかな…?」

「!?…っ、絶対、違うよっ…」

赤司「どうしてそう言えるんだい?」

「っ…」

赤司「俺は…君とは兄妹になりたくなかったよ…」

「!…っ、わ、私みたいな、庶民とは…っ」

赤司「そういう意味じゃないさ。…血の繋がりがあるということが、問題なんだよ。…」


征はまたぎゅっと腕に力を込めて私を抱き寄せた。

私は、自分の気持ちを言いたくなった。

嫌われるかもしれない。

引かれるかもしれない。

でも、

ちゃんと向き合いたいと思ったんだ。

この現実を受け入れるためにも。


「あか、しくん…っ」

赤司「ん…?」


征は少し腕を緩め、私の顔を窺う。

涙はまだ止まってはいなかった。


「私も…っ、兄妹だと思いたく、なかった…っ。嘘だと思いたかった…っ」

赤司「…」

「私…すき、だったの…っ」


言った瞬間、また視界が狭くなった。

今までで一番強く抱きしめられた。

何が起きたのか一瞬わからなくなった。


「!?…っ、あ、かし…く」

赤司「それ以上、言わないでくれ…っ」

「!」


この時私は、自分の気持ちを言うべきではなかったと後悔した。

やっぱり、困らせるだけだったんだ。

引かれるだけだった。

けど…

どんどん強くなる征の力に、私は本気でどうしていいかわからなくなった。


「あ、赤司、くん…っ、ちょっと、痛い、よ…っ」

赤司「!…っ、すまない。…」


腕の力が弱まった。

でも、依然私を抱きしめた状態のままだった。

どうして解放してくれないの?

私の告白を拒否したんじゃないの?

そんな風に考えていた。


「…ごめん、なさい…っ、変なこと言って…」

赤司「…」

「言わない方がいいってわかってたけどっ…言わずには、いられなかった…。勝手でごめん、なさいっ…」

赤司「…勝手なんかじゃないさ。」

「…え…?」

赤司「…言ったはずだ。俺だって、同じ理由で兄妹になりたくなかったと。…」


どういう、こと…?


赤司「君の気持ちを先に言わせてしまったことを情けなく思うよ。すまない。…俺も、君のことが…好きだったんだ。一人の女性として。」


時が止まったかと思った。

頭の中が真っ白になった。


「!…っ…う、そ…」

赤司「嘘じゃないさ。好意を抱いていなきゃこんな風に抱きしめようとは思わない。…君こそ、本当に俺のことを…?」

「っ…うぅ…赤司くんは…最初からずっと…特別で…っ、他の人とは違う存在で…っ、気づいたら、恋、してた…っ」

赤司「…そうか…」


私は一呼吸おいて、ようやく少し落ち着いていられた。

自分の本当の気持ちを伝えるんだ。

今だけでもしっかりしなくちゃ。


「…今思えば、血が繋がってたから、特別に感じたのかな…?他の人とは違うって思ったのは…兄妹だったからなのかな…っ?」

赤司「…皮肉なことに、俺も同じように考えていたよ。…初めて君を見た時から、惹かれるものがあった。君も同じ気持ちだったとは正直驚いたが…互いにそのように思うのは、やはり縁があったからとは言えるのかもな。…」

「…っ、でも、ちゃんと、恋だと思ってたよ…っ。そう信じてた…っ」

赤司「俺も同じだよ。」

「っ…なん、で…っ!こんなことに…っ」

赤司「…っ、ああ…」


ぎゅっと抱きしめあった。

今度はお互いに。

涙を流しながら、きつく抱きしめあった。


「うぅっ…好き、なのに…っ!好きになって、もらえたのに…っ」

赤司「…っ…好きだよ…俺だって…」

「許されない、恋…なんでしょ…っ?」

赤司「っ…ああ。…こればかりは、許されないことだ。…俺と君は、兄と妹…」

「っ…諦めなくちゃ、いけない…?」

赤司「…ああ。…諦めなくちゃいけない。…」

「…っ、もう誰も好きになれないよっ…!」


初めて知った恋。

あまりにも辛すぎる結末だった。


赤司「…ゆづき。」

「!?…っ…」

赤司「俺を好きだと言ってくれて、本当にありがとう。…俺も、本当にゆづきのことが好きだ。でも、俺達は恋人同士にはなれない。」


見つめ合い、私の涙を指の腹で優しく拭いながら話す征。


赤司「…いつかまたきっと、他に愛する人が現れる。そう信じて…っ、お互いの気持ちを胸にしまっておこう。そして、家族愛に変えていこう。…」


征は冷静に私をなだめようとしてくれていた。

その優しさと思いやりを、踏みにじるわけにはいかない。

きっと、自分が男であり、兄であることの示しだ。

征の思いを、ちゃんと大事にしよう。


「…っ、わかった…」

赤司「…俺も、がんばるから…っ。ゆづきも、一緒に、がんばろう…っ」

「う、ん…っ」


二人で涙を流しながら抱きしめあった。

そして、今日の中で一番近い距離で見つめ合った。


赤司「…今日だけは、ゆづきを恋人と思ってもいいかい…?」

「!…っ、征…っ」


私の唇を指でなぞる征。

ドキドキしながら目をゆっくりと閉じた。

あたたかくて柔らかなものが重なり合った。


初めて好きになった人と、初めてキスをした。

私はもう、このキスを一生忘れない。

そう心の中で呟いた。















つづく
次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ