KRB夢

□13th
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時が止まったように感じた。

目が合ったまま、もう何分も口を開いていない。

お互いに。


俺は正直、心臓がバクバクいってて、

平静を装うのに必死だった。

彼女の口から何を言われるのか、怖くて仕方なかった。

これじゃあ青峰っちのこと言えないな。

あの時喝入れたのは俺だったのに…


黄瀬「…そろそろ、帰ろうか。もう遅いし。」

「!…」

黄瀬「ごめんね、遅くまで付き合わせて。…送っていくよ。」


俺は、彼女に何か言われる前に先に口を開いた。

きっと、彼女を困らせてしまった。

なんともいえない複雑な表情だった。

多分、さすがに、

俺の気持ちには気付いたと思う…


店を出て、彼女の家の方に向かって歩く。

隣に並んで歩くのは初めてじゃないけど、

こうして二人きりで歩いていると、

はたから見たら恋人同士に見えるのかな?なんて、叶わない妄想をした。

束の間の彼女とのデート。

帰り道。

俺の思い出として心にしまっておこう。


そんなことを考えながら歩いていたら、

ずてっ

と鈍い音がした。


「っ…い、ったぁ…」


彼女が転んでしまったようだった。


黄瀬「大丈夫!?」

「…ん、ちょっと痛いけど…平気。大丈夫よ…っ」

黄瀬「わー!血が出てるじゃないっスか!ちょっと待って!あっ、あそこ、公園の水道でタオル濡らして…とにかく、一回ベンチに座ろう!立てるっスか!?」

「大丈夫、だから…黄瀬くん、ごめんね。気にしないで…」

黄瀬「何言ってるんスか!気にするに決まってるじゃないっスか!謝ることないっスよ。ほら、つかまって!」

「!?…」

黄瀬「この方が早いっスよ!ほら、早く乗って!?」


無我夢中だった。

彼女は少しためらいながらも、

俺の背中に乗っかって身を委ねてくれた。

小さくて軽い身体。

女の子ってこんな華奢なんスね。

肌は柔らかくて触れているところが気持ちよかった。

…決してエロい下心はないっスよ!?

ただ、彼女と一緒にいられる幸せを知ってしまったような気がしたんだ。


公園のベンチに彼女を座らせ、

俺は水道でタオルを濡らして、

再び彼女のいる場所へ走った。

白いワンピースには似つかわしくない、

赤いすり傷が膝にできてしまっていた。


黄瀬「ちょっと染みるっスけど…いいっスか?」

「うん。…っ」

黄瀬「ごめんねっ…砂とか落とさないとバイ菌入っちゃうからね…」

「っ…ふふ。」


傷口が絶対に染みるはずなのに、彼女は小さく笑っていた。


黄瀬「!?…な、何で笑ってんスか。痛くないんスか?」

「痛かったよ?すっごく。」

黄瀬「あっ…ご、ごめん!ごめんね!?」

「あはは。冗談。痛いのは黄瀬くんのせいじゃないし。…ありがとう。」

黄瀬「!…」


店を出て以来、初めて彼女の笑顔を見れた。

やっぱり、彼女にはこんな風に笑っててもらいたい。

俺が出しゃばったら、

その笑顔を奪うことになっちゃうんスかね…?


黄瀬「…ていうか、何でさっき笑ってたんスか!」

「あぁ、あれは…黄瀬くんが、私をまるで子どものように扱ってたから。」

黄瀬「!?…そ、そんな子ども扱いなんてしてないっスよ!」

「でも、親が自分の子どもにするような感じと、少し似てる気がしたの。真剣に、手当てしてくれたのが伝わってきたの。…嬉しかった。」

黄瀬「!…そりゃ、真剣っスよ。大丈夫かなって心配するのが当たり前でしょ?」

「黄瀬くんは当たり前って思ってるかもしれないけど、私にとっては自分を真剣に助けてくれる人がいるなんて、当たり前じゃないの。」


あぁ…思い出しちゃったっス。

去年の事件のこと。

彼女にとっての救世主は、あれ以来ずっと青峰っちなんスかね。

それはこれからも変わらないのかな…?

俺が、なれないのかな…?


黄瀬「藍っち…これからは、俺を頼ってくれないっスか。」

「え…」

黄瀬「…今は青峰っちが一番かもしれないっス。けど…俺も、いるっスから。」

「!?…何で、大輝…くんのこと…」

黄瀬「藍っち見てたら嫌でもわかっちゃうんだ。青峰っちと、そういう関係なんでしょ?」

「!…」

黄瀬「でも、いいんス。今は。…けど、俺も本気っスから。」

「…黄瀬く」


俺は彼女を抱きしめた。

ぎゅっときつく、

想いが少しでも伝わるように。


黄瀬「本気だから、今は言わないっス。本気で、藍っちと恋愛したいから。…だけど、ほんの少しだけ、もう少しだけ、このままでいさせてくれないっスか…」

「!…黄瀬、くん…」

黄瀬「…わがまま言って、ごめん。…」


彼女の身体は俺の腕にすっぽり収まっていた。

このまま時が止まればいいのに。

そしたら彼女が俺のものになるのに。

そんなことを考えながら、彼女の温もりを感じていた。
























つづく
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