KRB夢

□13th
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結局過去のことを思い出してしまった。

今隣にいるのは兄としての征だ。

部活中の赤司くんでもない。

この人は兄…私のお兄さんなんだ…


もう、その唇にキスしてもらうことはない。

もう、その身体でぎゅっと抱きしめてもらうこともない。

あの温もりは今でも私の記憶の中で残っているよ。

きっと、一生忘れることはできない…


征は…もう記憶から消してしまっているのかな…


赤司「き…ゆづき?」

「!」


気付いたら車は停まっていて、征が私の顔を覗くように見ていた。

運転手さんが私達の座る後部座席のドアを開けて待っているようだった。


赤司「大丈夫かい?なんだか顔色がよくない気がするよ。」

「だ、大丈夫よ。ごめんね、ちょっと考え事してて…」

赤司「…そうか。店に到着したが、行けそうかい?」

「うん。もちろん。…」


車から降りると、いかにも高級そうな料亭が目に入った。

店の中に通されると、奥の方にある個室に案内された。


赤司父「やあ。二人とも。待っていたよ。」

赤司「父さん。待たせてしまったようだね。」

「!…こ、こんにちは。ご無沙汰しています。お待たせしてしまい申し訳ありません。」

赤司父「これこれ、そんな堅苦しい挨拶はやめなさい。さあ、二人ともこちらに座って。腹も減っているだろう?話はそれからだ。」


お父さんと会うのは約半年振りだ。

ちょうど、私の誕生日が近かったこともあってこのワンピースをプレゼントされたんだ。

その時の私ってどんな対応してたかな…


赤司父「ゆづき。その洋服は私が贈ったものかい?よく似合っているじゃないか。」

「!…あ、ありがとうございます。こんな高級な物、私には不釣り合いかと思ったのですが…」

赤司父「いいや、とてもよく似合っているぞ。なぁ、征十郎?」

赤司「!…あぁ、そう思うよ。俺も会った時に同じことを言ったよ。」


恥ずかしくなって顔が赤くなった気がした。

征やお父さんからしたら、こういう風に女性の服装とかを褒めるのは挨拶代わりってわかってるのに。

征の視線が、いつもより優しい気がしてならないの。

でも、それは気のせいだ。

妹に向ける視線、ってだけだ。


豪華な食事が運ばれてきて、征と私も料理をいただく。

普段見たこともないような珍しい食材や美しい盛り付けに驚かされたが、それ以上に美味しさにも驚いた。

できることならば、お母さんにも食べてもらいたかったな…

いつも私が作る料理は庶民的な物ばかりだし。


数十分後…

それまでなされていた会話とは違って、少し空気が変わるような話題になった。


赤司父「ゆづき。茗子は元気にしているかい?」

「!…はい、元気です。ここのところ、仕事が忙しいようで…今日も来られずにすみません。」

赤司父「ゆづきが謝る必要はない。私も電話では話しているからな。…私は、茗子には本当に頭が上がらないんだ。ゆづきを産んでからずっと独りでがんばらせてしまったからね…」


お母さんは、自分が選んだ道だからと、今まで必死に突っ走ってきた。

それは、私が幼い頃も同じだったんだろう。

中学に上がるまでは私との時間も今より多かった。

なるべく私に寂しい思いをさせたくなかったらしい。

本当に、私も、頭が上がらない。

だからこそ、お母さんには少しでも楽をさせてあげたいし、幸せになってもらいたい。


赤司父「これからは、改めて私が茗子の支えになりたいんだ。」

「!…それは…」

赤司父「結婚したいと考えている。」

「!」

赤司「…」

赤司父「もちろん、ゆづきと征十郎の気持ちを第一に考える。それは茗子の条件でもあるんだよ。」

「お母さんにも、すでに結婚の意思を伝えているんですか?」

赤司父「あぁ。先日、プロポーズをしたよ。今まで何度か結婚の申し込みをしているが、毎度断られていてね。今回もすぐに断られるかと思ったが、ようやく”考えさせて”という返事をもらったんだよ。」


知らなかった…

お母さんも、ちゃんと決まるまでは私に話さなかったんだろうな。


「…征、は…?知ってたの?」

赤司「あぁ。俺はその日のうちに父さんから聞いていたよ。でも、その後のことは聞いていない。」

赤司父「その後、茗子から改めて言われたんだ。”子ども達が反対するうちは絶対に結婚しない”とね。」

赤司「それで、俺達の意見を今日聞こうって訳か。」

「…」


思わず口をつぐむ私を見て、征は続けた。


赤司「…父さん、俺達も少し考える時間をもらえないかな?」

「!…」

赤司父「あぁ、もちろんだ。今日急に言われても色々思うことはあるだろう。よく考えてみてくれ。」

赤司「ありがとう。ゆづきもそれでいいかい?」

「…う、ん。…」


征がそう言ってくれたおかげで、その場はなんとか収まった。

正直、急なことで混乱しかけていたから助かった。

やっぱり私、征にたくさん助けられてばっかりだ。

甘えてばっかりだ。

頼れる存在…

”兄”として、頼っている分には問題ないのかもしれないけど…

私、頼りない”妹”だな…
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