KRB夢

□14th
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ゲーム中の皆から離れた体育館の端の方で、彼女は俺の怪我の手当てをしてくれた。

二人きりの空間みたいだった。


「…染みるけど、いいかな?」

黄瀬「うん…っ、つ…」

「ごめんね、痛いよね。…もう終わるから。ちょっと我慢してね。…」

黄瀬「大丈夫…っス。…」


膝を擦りむいた。

消毒液は染みて痛かったけど、彼女の処置は丁寧で素早かった。


「…デジャヴだね。」

黄瀬「!?…えっ…」

「昨日の。…立場逆転だけど。」


彼女は少しだけ笑った。

あぁ、俺は本当に意気地なしだった…

彼女から話を振ってもらうだなんて。

情けない。


黄瀬「…昨日の怪我、大丈夫っスか?」

「うん、大丈夫。黄瀬くんに手当てしてもらったからね。」

黄瀬「!…俺は、今の藍っちみたいに消毒もしなかったし、テキパキとやれなかったよね…ごめん。」

「ううん、そんなことないよ。本当に感謝してる。だから謝ることなんてないよ?」


また目が合った。

そうか…わかった。

目が合わなかったのは、俺が合わせようとしなかったからだ…

彼女はこうして普通にしてくれるじゃないか。

逃げちゃダメだ。

自分で蒔いた種だ。

自分で何とかしなきゃ。


「…はい、終わり。血がまだ出るみたいだから絆創膏もするね。待ってね。…」

黄瀬「藍っち…!」

「!…な、に…?」


俺は少し大きい声で彼女を呼んだ。

ゆっくりと目を合わせると、彼女も少し構えるような態度をとっているように見えた。


黄瀬「昨日は…急に、ごめん。身勝手なことして。…」

「!…ううん。」

黄瀬「今日も、いっぱいすれ違ったりしたけど、避けるような態度とってた…本当ごめん。」

「…ううん。いいよ、謝らなくて。」

黄瀬「正直、藍っちと顔合わせるの、怖かった。避けられたらどうしようって。それが怖くて、俺の方から避けてた…」

「…ん。わかってたよ、黄瀬くんが気まずそうにしてたのは。でも、こうして話してくれた。ありがとう。」

黄瀬「!?…お礼を言うのは俺の方っスよ!藍っち…普通にしてくれて…俺…」


上手く言葉が出てこない。

こんな時、どう言えばいいんだろう。

彼女を困らせることになりそうで、

バカ正直じゃないこと、なんで言えないんだよぅ…


「…黄瀬くんと話せなくなるの、私、嫌なんだ。」

黄瀬「!…え…?」

「…普通で、いたい。…勝手かもしれないけど…」

黄瀬「勝手じゃないよ!俺…俺が、勝手なこと言ったり、しちゃったりしたから…っ。藍っちが、今までみたいに普通に俺と接してくれるんなら、俺は嬉しいし、ありがたいっス…」


俺はずるかったと思う。

告白みたいなことしておいて、今は言わないとか言って…

彼女にハッキリとした返事を求めなかったから。

それでも、彼女はこう言ってくれてるんだ。

俺は感謝しなきゃ…


「ん。…黄瀬くん、ありがとう。」

黄瀬「!…こちらこそ、ありがとう。」


俺は、彼女の笑顔を見るのが好きだった。

いつか、その笑顔を彼女から奪ってしまうかもしれないと考えるとものすごく怖かった。

彼女には笑っててほしい。

俺は、密かに想うから。

今は自分のものにならなくてもいい。

傍で想い続けさせて…



























つづく
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