KRB夢

□17th
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屋上には先客がいた。

彼女と、彼だった。


「だから何にもないって言ってるでしょ?何でそんなに疑うの?」

青峰「じゃあ何で朝一緒にいたんだよ?和気あいあいと楽しそうに。」

「たまたまよ。私も調べ物あって部室に早く行ったの。その後体育館寄っただけ。そこで会っただけよ。」

青峰「仲良く長々と話してたじゃねぇか。たまたまのわりに。」

「話すのがそんなにいけない?同じチームメイトだよ?会ったら話するのは自然じゃないかな?」

青峰「過剰に接してんじゃねぇか。特にアイツとは。」


俺と紫原っちは、二人からは見えないその場で立ち尽くすしかできなかった。

立ち聞きなんて、本当はするつもりなかった。

できれば、しない方がよかったと思う。

でも、もう、

足が思うように動かなくなってたんだ。


だって、その話に出てきてる”アイツ”って、

俺のことでしょ…?


「…またその話。大輝は何でそんなに黄瀬くんのことになると熱くなるの?過剰なのは大輝だよ。」

青峰「ゆづが無防備にアイツと関わるからだろ?」

「無防備って何?警戒する理由がないじゃない。相手はチームメイトの…」


ドンッ

と鈍い音がした。


その瞬間、俺も紫原っちも、身を震わせて二人の方向を見てしまった。

全てが見えた訳ではないが、

目に映ったのは彼女が壁に押し付けられている光景。

彼の腕は彼女の肩に伸びていて、

強引にそうしたのがわかった。


黄瀬「っ…!」


俺はすぐに彼女の元へ行こうとした。

彼女を助けるために。

でも…


黄瀬「!?…っ、なん…」

紫原「しっ。…今行ったら余計こじれるよ。多分。」


紫原っちの手が俺を制止した。

どうにも煮え切らない状況に、

俺は素直に耐えるしかなかった。


「痛っ…ちょっと、何するの…っ!」

青峰「…っ」

「んっ…んー…」


二人が何してるかは、見なくてもわかった。

俺はすぐにでも止めに行きたかったのに。

紫原っちの手がいまだにそうさせてくれない。

彼女がそのキスを拒んでいるように感じた。

きっと、そう。


青峰「…これが無防備っつーことだよ。アイツに力づくでこうされたら逃げらんねぇだろ?」

「っ…大輝…なんで…?なんでこんなこと…」

青峰「ゆづが何もわかってねぇからだよ。」

「…こんなの、嬉しくないよ。こんな風にキスされたって、全然嬉しくない!」

青峰「!…ゆづ…?」

「っ…大輝が、怖いよ…もう、わかんない。」

青峰「ごめんっ!?ゆづ…っ」


パシッ

と腕を振り払う音がした。


「…わかんないよ…。愛してもらえてると思ってたけど…違ったの…?結局、前と同じ…?身体目当てだった…?」

青峰「違ぇよ!前も今も、そんなんじゃねぇよ!俺、マジでお前のことが好きだから…っ!」

「好きだから、こんなことするの…?他の男の子のマッサージするのもダメ、他の男の子と話すのもダメ…壁に押し付けて、詰め寄って、無理矢理キスして…これも好きだから?」

青峰「!…ごめん、ゆづ、本当にごめん…っ。俺、理性失って…身勝手なことしたってわかってる。わかってはいるけどっ…!」

「…」

青峰「黄瀬だけは…っ」


その瞬間、

俺はまた身を震わせた。


青峰「…黄瀬は、ゆづを好きなんだよ。」

「!」


俺を制止していた紫原っちの手はもう下ろされていた。

でも、俺はそこから一歩も動けずにいた。


まさか、他人に自分の思いを伝えられてしまうとは…

しかも彼女の彼氏に…


彼女は少なからず俺の気持ちはすでに知っていたと思う。

だけど、

こんな風に”好き”だと決定的なことを言われたのは初めてなんじゃないかな。

俺が言う前に、言われちゃった。

…彼女はどう思ったのかな。


青峰「だから、アイツの前でゆづが楽しそうにしてるのを見ると、どうにも興奮が収まらねぇんだ。」

「…」

青峰「黄瀬には、とられたくねぇんだ。」


俺は、二人の仲を引き裂こうとする、

悪役みたいだな…


奪いたくなった、

なんて…

言ったら本当に罰当たるよね…


幸せを壊してまで、奪う気はないよ。

でも…

藍っち、

今、本当に幸せ…?


予鈴が鳴り、

俺と紫原っちは静かに屋上を後にした。


























つづく
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