KRB夢

□19th
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彼女の目には涙が溜まっていた。

一粒零れた後は、もう片方の目からまた一粒…

こんなにも静かに涙を流す人を見たのは初めてだ。

不謹慎だけど、そんな彼女がまた綺麗だと思った。


黄瀬「…改めて言うっス。俺のこと、男として考えてもらえないっスか?」

「!…っ」


”付き合いたい”

そう言ってしまうには、まだ早いだろうか?

彼氏がいることをわかってるのに、

告白してる時点でアウトか…?


黄瀬「俺は、藍っちのこと、悲しませたり傷付けたり、怖い思いさせたりなんてしないっス。」

「!…黄瀬く…」

黄瀬「今すぐ、じゃなくてもいいっス。今は…彼氏がいるのも、わかってる…」

「っ…なん、で…?」

黄瀬「!?」


重みを感じたと思ったら、

彼女の手が俺の制服の腕のところを掴んでいた。

視線は下に向いていた。


「っ…なんで、私なんか…っ」

黄瀬「!…藍っちを好きな理由は色々あると思う。けど、一番は、一緒にいたいって思うからっス。俺が、藍っちといて、幸せだからっス。」

「!…っ」

黄瀬「そうやって言うと、なんか自己中野郎に聞こえるかもっスけど…もちろん、藍っちの笑った顔をずっと見ていたいって思ってるっスよ。」

「…!」

黄瀬「そのためには、藍っちを幸せにする。幸せにしたいんス。」


俺の、気持ち。

ちゃんと彼女に伝わってるかな…?

俺は本気だよ?

少しでも可能性ないかな?


そう思っていたら、

彼女が少しずつ顔を上げて、

最後には俺の目を見てくれた。


「…っ、私、大輝と、付き合ってるんだよ…?」

黄瀬「知ってるよ。でも俺も好きなんスもん。」

「付き合ってる人が、いるのに…他の男の子と、抱き合ったり、キスしたりしちゃう…女だよ…?」

黄瀬「!…それって、俺のこと?」

「…っ、う、ん。…」

黄瀬「俺以外と、そういうことした?」

「してないよっ…!?黄瀬くん、だけだよ…っ」


ヤバイ。

ちょっとキュンときた、それ。

でも、あくまで俺のポジションはセフレ未満だ。

ううん、正確には前の青峰っちのポジション以下だ。


「それに…黄瀬くんも知ってた通り、恋人じゃなくても身体を許せる、そんな最低な女だよ…?」

黄瀬「…最低、じゃないっスよ。藍っちはなんだかんだ言っても、ちゃんと一線は置いてる。」

「え…?」

黄瀬「俺とハグしたりキスしたりしたのは、少しでも俺を許してくれたから、じゃない?」

「!」


そう、信じたかっただけ。

だけなのに、試すような言い方しちゃった。


黄瀬「身体を許したって言ってたけど、それも未遂でしょ?青峰っちが言ってたっスよ。セフレではないって。」

「…」

黄瀬「…まあ、セフレだったとしても、俺の気持ちは変わってないと思うっスけどね。…そんくらい、藍っちにゾッコンなんスわ。」

「!…っ、黄瀬、くん…っ」


なんか、話してるうちにスッキリしてきちゃった。

やっと、ちゃんと伝えられたからかな?

自己満足に過ぎないかもしれないけど、

今まではぐらかしてた分、

今は何でも包み隠さず言えることが、

なんか気持ちいいっス。


「…しい…」

黄瀬「!?…えっ、今なんて…」

「っ…ごめん…やっぱり私、最低…。黄瀬くんの気持ち…っ」


彼女は自分の目元を腕で隠すようにして、

俺から視線を外した。

そして、言葉が止まってしまった。


黄瀬「何スか!?何でも言って!?俺、もう全部受け止める覚悟…できてるからっ…!」

「…っ」

黄瀬「!…」


彼女は首を横に振って、また涙を流しているみたいだった。

さっき、彼女が何を言おうとしたのか、

聞きそびれてしまった。

もしかしたらそれが、答えだったのかもしれないのに…


そうだ。

わかってたけど…

俺とどうこうってことは、

青峰っちとケリつける必要があるってことだ。

彼女にとって、それは最大の難関だろう。

普通に考えたら、そうまでして俺とどうこうしようとかはないよね…

それがきっと、無難な選択だ。


黄瀬「…俺、藍っちには無理させたくないっス。余計な心配も気遣いも、いらないっス。…青峰っちと、これからも上手くやっていけるんなら、俺は…」

「…っ」

黄瀬「俺のことは…友達でいいっス。それで十分。ちょっとでも頼りにしてもらえて、嬉しかったっス。…」


これが俺の、本音…

なのか…?


付き合いたい、って、

思ってたじゃないか。


いいのか…?


黄瀬「…もう結構暗くなってきたから、歩かないっスか?ちょっと寒くもなってきたし…!?」


彼女と目を合わせているのが気まずくなって、

俺が後ろを向いて歩き出そうとしたその時だった。


昨日と同じ、彼女の体温を感じた。
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