KRB夢

□20th
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あれから、

俺は彼女を家まで送り届けた。

彼女がマンションのエントランスに向かおうとした時、

思わず呼び止めてしまった。


黄瀬「俺…信じてて、いいんスよね…?」


そう言った後に思った。

俺、ちょっとかっこ悪いなって。

不安を彼女にぶつけるつもりはなかったのに、

つい、本音が漏れてしまったのだ。

でも、彼女は…


「…ちゃんと、ケリつける。そしたら…」


彼女の言葉がそこで止まった。

彼女もきっと、不安なんだ。

これから待ち受けている壁を

ちゃんと乗り越えられるかどうか。


黄瀬「…そしたら、俺のところに来て、ほしい。」

「!…」

黄瀬「待ってるっス。どれだけでも。」


そう言うと、彼女は少しだけ笑ってくれた。

ありがとう、とつぶやいて。



私は、最低な人間…

今まで、そう思ったことは何度もあったけれど、

そう思う原因が恋愛だなんて自分でも驚いた。

やっぱり私には、

ちゃんとした恋愛なんて向いてないのかもしれない…


今思うと、大輝と恋人同士になる前は

恋愛で傷つくことも、失うものも、

何もなかったような気がする。

あったのは、身体の快感。

大輝と抱き合って、キスして、

お互いの大事な部分に触れ合って快楽を得て…

それが唯一の”繋がり”だと思っていた。

私が一人の人間として此処に在ると実感できる、

そのツールだった。


でも、時間が経って、

大輝から好きだと言われて、

恋人同士になった。


大輝はもしかしたら最初から…

”それ”が普通じゃなくて異常なことだと思っていたのかもね。

だから関係を変えようとしたのかな…


あの時…

私が襲われてから、ずっと傍に居てくれたのは大輝だった。

過呼吸で倒れた時も、

私が目を覚ますまで傍についててくれたのも大輝だった。

あの時、私にとって大輝は、

救世主のような存在で、

居ないことが怖くなってた。

だから、

大輝の自主練が終わるまで待つことも、

何も苦じゃなかった。

待っていれば、大輝は一緒に帰ってくれた。

しばらくの間、心配だからと家にまで送ってもくれた。

自然と二人でいる時間が多くなって、

ある時の帰り道で、大輝と抱き合ってキスをした。

大輝から、だったけれど、

お互い目が合って、意思疎通していたと思う。

私も、嫌じゃなかった。

むしろ、その日をきっかけに、

大輝の匂いや肌の感触、唇の感触が好きだと思った。

あくまで自然に…

そういう行為をする頻度が高くなり、

しまいには身体のあらゆる箇所に触れるようにもなった。



青峰「ゆづはマッサージの天才だな…あー、気持ちいい。…」

「そう?喜んでもらえて何より。…あ、脚やる?数値低い。」

青峰「数値低いって(笑)その能力もなんなんだろうな、すげぇとしか言えねー…あー、そこそこ。痛気持ちいー…!」


例の部室の一角で、

練習終わりにマッサージをしていた時のことだった。

青峰の太もも辺りを入念にマッサージしていたら、

違和感を覚えた青峰。


青峰「…ゆづ、もうそこはいいからよ。か、肩、やってくんねぇか?」

「え?でもまだ数値回復してないし…肩ならさっきもやったじゃない?またやるの?」

青峰「いやー、マジでそのまま続けられたら…」

「ん?…!?」

青峰「だから言ってんだろ…そんなに見んな、いくらなんでも恥ずかしいっつーの…」


青峰の太ももから視線をずらすと、

明らかに通常とは違う様子のものが目に入った。


「…」

青峰「…なんか、わりぃ。」

「ううん?謝らないでよ。別に、悪いことしてないじゃない。…」


ゆづきが目をそらし、

立ち上がろうとした時だった。


がしっ

と掴まれた腕。

目が合う二人。


青峰「…ゆづに、してもらいてぇって言ったら、引く?」

「!…ううん。引かないよ…」



私はあの時、嫌悪感なんて感じなかった。

そういう行為自体、知識としてはあったけれど、

興味があったわけでもなかったわけでもなかった。

大輝だから、できた。

それははっきりそう言える。

こんなことするのは、こんな風に思えるのは、

後にも先にも大輝だけだと思っていたのに…

大輝のことを怖いと思ってしまった。

快楽を得ていたキスも、

嬉しいと感じなかった。

怖かった。

あの時を少し思い出した。

そして…

私は、大輝じゃない人と抱き合ってキスをしてしまった。

拒めなかった。

拒まなかった。

黄瀬くんの匂いと肌の感触が、

心地よかった。

黄瀬くんと一緒に過ごす時間が、

心地よかった。

黄瀬くんといると、安心できた。


大輝を手放して、黄瀬くんとどうにかなるなんて、

虫がよすぎる話だとわかってる。

でも、

もう大輝との関係は、続ける資格がない…
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