KRB夢

□21st
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お互いに目を合わせた時のことだった。

別れを切り出したゆづきにも、

覚悟を決めていた青峰にも、

一粒の涙が頬をつたっていた。


「!?…大、輝っ…?」

青峰「あぁ、わりぃ。…こんなつもりじゃなかったんだけどよっ…はは、ダセェな、俺は。…」


すぐさまその涙を拭った青峰。

ゆづきと合っていた目も、自分からそらしていた。

一方で、

青峰の涙を初めて見たゆづきは、

動揺を隠し切れずにいた。


「ごめん…私…っ」

青峰「謝るなよ。…続けてくれ。」

「…でも…っ!」

青峰「覚悟できてるって、言っただろ?…ちゃんと最後まで、聞くからよ。」


再び目を合わせたら、

もう青峰は涙を流していなかった。

それどころか、いつも以上にその表情は凛々しく思えた。


言葉に詰まるゆづき。

しかし、もう後戻りはできないところまで来ていた。

重たい口を開く…


「…ごめん、なさい。」

青峰「…」

「今まで通り、大輝と恋人として付き合うのが…怖くなっちゃったの。」

青峰「…昨日のことが、大きな原因か…?」

「…きっかけにはなったかもしれない。…昨日は、大輝のことが怖いと思っちゃった。」


屋上での、無理矢理されたキスは、

ゆづきにとって、例の事件を彷彿させる引き金になったのも

事実ではあった。


青峰「…昨日は本当に、悪かった。謝ってもどうにもなんねぇかもしれないけど、これだけは言わせてくれ。…傷つけて、ごめん。」


青峰は本気で謝ってくれている。

ゆづきにはそれが痛いほどわかった。

もしかしたら、この先同じようなことにはならないかもしれない。

今まで見てきた優しい青峰と

また上手くやっていけるかもしれない。

そう思うことだってできなくはなかった。

でも…

ゆづき自身の気持ちの変化。

それは疑い無く認められるものだった。


「…もう、大丈夫。大輝がああしたのは、私を好きでいてくれてたからって、わかったから。」

青峰「それでも、もう信じられねぇんだろ…?俺のこと。」

「…信じようと思えば、信じられるかもしれない。でも、私は大輝を裏切ってしまったから。」

青峰「!?…え…」


問題は大輝じゃない。

私だ。

原因は、私にあるんだ。

大輝を責めるような言い方はしてはいけない。


ゆづきはそう感じていた。


「…私ね、やっぱり最低なの。大輝は私のことこんなにも想ってくれて、恋人になりたいとまで言ってくれたのに…」

青峰「…何か、あったのか…?」

「…大輝以外の人と、キスしたの。」

青峰「!?」


付き合ってる人がいるのにそういうことするのは裏切り行為…

私は大輝だけを好きでいればよかったのにね…


「だから、大輝に付き合ってもらう資格ないの。好きでいてもらう資格も、ないの。…」

青峰「…それ、合意のキスってことなのか…?」

「…うん。」

青峰「…好き、なのか…?そいつのこと…」

「…うん。多分、そうなんだと思う。…大輝を裏切ってしまったこと、本当に申し訳ないって思ってる。」


青峰は茫然としていた。

自分自身のことが全ての原因だと思っていたから、

それ以上のことを聞かされるとは予想していなかった。

ただ、

ゆづきの言う”好きな人”が、

黄瀬だという予想は嫌でもついていた。


「勝手なことばかり言って、本当にごめん。でも、こんな私じゃ大輝には釣り合わないよ。大輝にはもっと…ちゃんと恋ができる子が合ってるよ。私にはやっぱりそれができないみたいだか」

青峰「黄瀬と、付き合うつもりかよ…?」


急に青峰の声色が変わった。

顔は俯いている。


「!…え…」

青峰「黄瀬なんだろ?その相手。…ゆづ、正直に言ってくれよ。」


目が合うと、青峰の真剣さが伝わってきたのが

ゆづきにはわかった。

そらすこともできない。

嘘をつくこともできない。

そう確信した。


「…そうよ。」

青峰「!…」

「…でも、誤解しないで。黄瀬くんは何も悪くない。大輝との間には色々あったみたいだけど…黄瀬くんを責めたりは絶対にしないで?それと…」


ゆづきはもう一つ、大きな決断をしていた。

それは後に黄瀬本人にも話さなければならないことだった。


「付き合うつもりはない。」

青峰「!…何でだよ。お互い、好き合ってんだろ?」

「それでもっ…それはできないよ…」

青峰「…俺がいるから?」

「!」

青峰「…遠慮してんのかよ。何だよ、変に気遣うんじゃねーよ!そんなん、俺だってわかってたよ!黄瀬とゆづが良い感じだって…俺らが付き合う前からわかってたよ…っ」

「大輝…」

青峰「俺に変な気遣うな。黄瀬にも言っとけ。…」

「…大輝に悪いからっていうのは嘘じゃない。だけど、私自身、付き合うっていうのを改めて見直したいの。黄瀬くんにもちゃんと言うつもり。」

青峰「…」


ゆづきは少しだけ後悔していた。

同じコミュニティの中で恋愛したことを。

そして、好きな人が二人できてしまったことを…


「…大輝には本当に感謝してる。それは今も、これから先も変わらないよ。あの時救ってくれたのが大輝でよかった。…大輝と仲良くなれてよかった。」

青峰「…やめろよ、なんか…遠くに行くみたいな言い方じゃねぇか。永遠の別れ、かよ?」

「ううん、違うけど。…こう言うのはずるいかもしれないけど、大輝のことは今でも嫌いじゃない。むしろ…好きなままだよ。でも…」

青峰「もういいって。ゆづの気持ちは十分わかったよ。…それに、本当にずりぃな、お前は。…」


立ち上がった青峰。

そのままゆづきのところまで行き、

ゆっくりとゆづきの背中に腕を回した。


「!…大輝…」

青峰「最後にすっから、ちょっとだけこのままでいさせてくんねぇ…?」

「ん。…」


ゆづきもまた同じように青峰の背中に腕を回し、

ぎゅっと優しく抱きしめた。


大好きだった、彼、彼女の匂いを、

お互いに記憶させていた…
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