KRB夢
□23th
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その日、部活の開始時刻に彼女の姿はなかった。
どうしたんだろうと心配していると、
ミーティングで彼女が遅刻してくることを知らされた。
理由は語られなかった。
俺は、すぐにでも彼女に電話かメールをしたかったが、
練習がすでに始まった以上それは不可能だった。
彼女がいない練習は、
なんだか物足りなかった。
*
数時間後…
休憩中、ベンチに座ってスポドリを飲んでいると、
体育館の入口に彼女を見つけた。
しかし…
黄瀬「!?」
その異様な光景に、俺は思わず彼女の元へ走って行ってしまった。
彼女の隣には桃っちもいたのに。
黄瀬「っ…どうしたんスか…!?」
「!…あ…黄瀬くん。…」
桃井「!…あ、私ちょっとドリンク作ってくるね〜…」
気を利かせてくれたであろう桃っちは、
俺と彼女を二人きりにさせてくれた。
後でお礼言っておこう。
黄瀬「マジで、それ、どうしたんスか…?怪我…?」
「…うん、ちょっと、転んじゃってね。軽い捻挫。あ、見た目より大したことないのよ?大袈裟に包帯巻いてるだけ。ほら、びっこ引きながらだけど歩けるし!」
彼女の手には1本の松葉杖、
そして、その側の足首には包帯がぐるぐると巻かれている。
珍しく遅刻してきたと思ったら、
こんな痛々しい姿で現れるなんて。
俺は動揺していた。
黄瀬「本当に大丈夫なんスか…?折れてはいないの…?」
「うん、折れてないから平気よ。じきに治るわ。だからそんなに心配そうな目で見ないの。」
彼女は笑ってそう言ったけど、
俺は心配でたまらなかった。
黄瀬「…無理して部活来なくても…」
「捻挫しててもできることはあるし。あんまり休みたくないの。ただでさえ人手不足なのに、さっちゃん達にも迷惑かけちゃうし。」
黄瀬「…それは、部員としては、すみません。…」
「いや、謝らないでよ(笑)」
彼女は笑っていた。
無理に笑わなくてもいいのにね…
黄瀬「…ねぇ、藍っち。今日、一緒に帰ろう?俺、送ってく。」
「あ…ありがとう。気持ちはとても嬉しいけど…今日は、迎えに来てもらうことになってるの。柳さんに…」
黄瀬「!…そうっスか。それなら少し安心だけど…」
「うん。だから心配いらないよ!ごめんね。ありがとうね。」
車なら安心…
だけど、
そうじゃなくて、
俺は今日どうしても彼女と二人になれる時間が欲しかった。
一緒にいたかった。
なんか、嫌な予感がしたから…
黄瀬「あの…やっぱり俺、藍っちのこと見届けたいっス…!」
「!…」
黄瀬「少しでいいから、二人になれないっスか…?」
「…ごめん。今日は…まっすぐ帰って安静にしなくちゃ…」
黄瀬「!…そうっスよね。ごめん。わがまま言って…」
俺、ダサいな…
彼女は怪我人なのに、
二人になりたいとか…そんなわがまま言って。
二人になって、イチャイチャしたいとかそういうんじゃないよ?
ただ、一緒にいたかったの。
彼女の目の奥が、悲しそうだったから。
彼女が何かを抱えているようで、
不安だったから。
「…黄瀬くん、ありがとう。二人になるのは、また今度…ね?」
黄瀬「…うん。…」
ちょうどそのタイミングで休憩時間が終わった。
俺がコートに戻ると、
ミニゲームを終えた黒子っちと入れ替わりになった。
黒子っちはタオルを首にかけると、
他には目もくれず、彼女の元へ一直線だった。
黄瀬「!?…」
黒子っちも心配だったのかなって、
最初はそうとしか思っていなかった。
仲良さげに話す、彼女と黒子っち。
俺は横目で見た後、練習に集中しようと意識を変えた。