KRB夢

□16th
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ノートと赤ペンを切らしていたことを思い出し、途中で迂回をすることに。

文房具や日用品などが揃っている店へと向かった。


黄瀬「(そういやこの辺って、藍っちの家の近くだっけ…前に通った覚えがあるや。)


あの時、俺はちゃんとした告白はしなかった。

ずるい言い方をして、彼女を困らせた。

それでも、彼女は俺と友達でいてくれている。

それ以上の関係を望むのは、ダメなことなのかな…


相変わらず彼女のことを考えながら歩いてる時のことだった。

まさか、その彼女に出くわすなんて思ってもみなかった。

しかし、それは決して良い形ではなかった。


少し離れたところで、複数の人達がいるのに気付いた。

何やら騒がしい。

周りにはほとんど人がいなかったから余計に目立っていたし、

喧嘩とかだったら嫌だけど、俺もついそっちを見てしまった。


でも、

見てよかった。


彼女がいた。


彼女に気付いて、

本当によかった。


彼女が複数の男達に囲まれていたのだ。

明らかに嫌がっている様子なのがわかって、

俺は無我夢中でそこに走って行った。


「…どいてください…帰れないじゃないですか…」

「「だから後でちゃんと送ってあげるから、俺らといい所行こうよ?」」

「「こんな遅い時間に一人で出歩いてるってことは、あれでしょ?夜遊び慣れてるんでしょー?」」

「「最近の中学生は、無防備だね〜…」」

「っ…!?触らないでよ…っ」

「「あー、ちょっと待って。勝手に一人で行かないでよ?一緒に遊ぶんでしょ?」」

「「ほら、行くよ〜。お手て繋ごうか〜…」」


バシッ


「!?」

黄瀬「触んじゃねぇよ。」


俺はとにかく夢中だった。

彼女を守ることに全ての力を注ぐことにした。


「「なんだ、テメェ。邪魔すんじゃねぇよ。」」

黄瀬「邪魔はあんた達だろ?ナンパなら別でやってよ。この子には関わるな。」

「「あーあー、どっかで見たことあると思ったら…モデルやってる黄瀬なんとかって奴じゃねぇ?」」

「「あー!本当だ。あれ?黄瀬くんってバスケ部入ってキセキの世代とかなんとか言われちゃってる、あの黄瀬くん?」」

「「そうだそうだ。俺らが卒業した後に入ったらしいな?」」

黄瀬「(”俺らが卒業した後に入った…?”もしかしてこいつら…例の…!?)」

「っ…」


ぎゅぅ

っと、制服の腕のところを掴まられる感覚があった。

彼女が震えながら俺の制服を掴んでいた。

この様子からしても考えられるのは、

こいつらは過去に彼女を傷つけた奴らかもしれないってこと。


「「ちょうどいいや。今日はその女じゃなくて、黄瀬くん、キミと遊んであげるよ。」」

黄瀬「…そんなヒマねぇんだよ。…行こ、もう帰ろう。」


掴まれていた彼女の手を握りしめて、

その場から離れようとした。

が…


ボコッ

と背中に痛みを感じた。

多分、蹴られた。


「「待てって言ってんだろ?そのまま帰れると思ってんのかよ。黄瀬くんよぉ。」」

黄瀬「痛ぇな。…喧嘩なら断るっスよ。面倒だし。厄介なことになりたくないんでね…」


バシッ

ボコッ


「!…や、やめて…っ!やめてー!」

「「うるせぇな、おい。お前、あいつ縛っとけ。」」

「「はいはい。…おとなしくしてろっつーの。敏腕マネージャーさんっ」」

「いやっ…!」

黄瀬「彼女に触るなっつってんだろっ!!」


ドンッ


俺は、どうなってもよかった。

彼女を守れるのなら。

ただ、暴力沙汰になるのは避けたかった。

バスケ部に迷惑がかかると思ったから。

俺が殴られて、彼女を守れるなら、

殴られる分にはよかったんだ…


あー、痛ぇな。

でも、手出したらダメだよなぁ…

あ、そういやこの前スタッフさんに教えてもらった護身術、

やってみるかな…


黄瀬「よっと…」

「「!?…っ、痛ぇー」」

黄瀬「痛いんだ?へぇー…もっと力入れようか?」

「「テメェ、この野郎。調子乗ってんじゃねぇよ…あぁっ!痛っ」」

黄瀬「痛いよねー、でも、自分達がしたことで傷ついた子はもっと痛かったと思いますよ?…」

「!…」


すると、

近くを通った大人のおばさんが大声でこちらに向かってきた。

「「やべぇ、あのババァ、警察関係者だぜっ!」」

「「マジかよ!?逃げるぞっ!」」

「「おいっ、待てよ!…」」


奴らは足早に逃げていった。

おばさんは俺達の元に来ると、色々心配してくれた。

警察に行くか?とも言われたが、

大丈夫です、と一言言ってその場を離れた。


再び、彼女の手を握りしめて、

歩き出した。

明るい道を選んで通る。

彼女の手をとって、なるべく歩幅を合わせて歩く。

向かう先はもう、例の店ではなかった。


手を繋いだまま、俺達はあれから一言も発していなかった。

だが、ふと彼女の足が止まった。

俺もつられるようにゆっくりと足を止めて、

彼女の方を向いた。


黄瀬「…大丈夫、だった?」

「!…っ、うん。…黄瀬くん、ごめん、ね…っ」


俯く彼女。

押し殺すような声で、そう言った。

俺は、彼女を抱きしめた。

そうせざるを得なかった。


黄瀬「…謝んないでよ。藍っちは何も悪くないよ?…」

「…っ…」

黄瀬「怖かったね。ごめん、俺、もう少し早く行ってれば怖い思いせずに済んだよね…」

「黄瀬くんが謝るのはもっと変だよっ…私…っ、黄瀬くんが来てくれて、本当によかった…っ」


涙まじりの声でも、彼女はハッキリとそう言ってくれた。

俺も、思った。

彼女を見つけられて、よかったと。


俺達は近くにある公園に立ち寄った。

ベンチに座って、

彼女の頭を撫でながら彼女を見つめた。

涙はもう流れていなかったけれど、

顔を見られないようにしていたのか、少し俯いていた。


黄瀬「…何も、変なことされなかった?」

「…ん…大丈夫。…」

黄瀬「そっか。ならよかった…」

「黄瀬くんは…っ!?痛い思いしたの、黄瀬くんの方だよねっ!?」

黄瀬「あー…でも大したことないよ?多分向こうの方が痛い思いしたかも(笑)」


護身術、効いただろうなー。

あの痛がり方は。


「本当に…?あっ、でもここ血が…!」

黄瀬「あ、本当だ。気付かなかったっス。これぐらい大丈夫っよ。」

「手当てしなきゃ…!あ、絆創膏あるから待って!?」


ゴソゴソと自分のカバンをあさり、

可愛らしいドット柄のポーチを見つけると、

中から絆創膏を取り出して、俺の腕の傷に手際よく貼ってくれた。


なんか、もう…

彼女のことが愛しくて仕方ないや…


「とりあえず、応急処置ってことで…!?」


ぎゅっ

と、彼女をまた抱きしめてしまった。

もう、このまま放したくないよ…


「黄、瀬くん…?」

黄瀬「…藍っちが怪我しなくて、本当よかった。…」

「!…黄瀬くんに、怪我させちゃったのは、私のせいだよね…ごめんなさい。…」

黄瀬「ううん?藍っちのせいじゃないよ。…藍っちのこと、守りたかったから…」

「…守ってもらったよ?ありがとう。本当にありがとう。」

黄瀬「…あいつら、昔バスケ部員だった先輩?」

「!?…うん、よくわかったね。知ってたの?」

黄瀬「いや、なんとなくね。俺のこともバスケ部員ってわかってたし、藍っちと知り合いってことも途中で気付いたしね。…」

「そう…黄瀬くんが入部する前にいた先輩達。…もう会うことなんてないと思ってたのに…!」


彼女はまた涙を目に溜めていた。

今にも零れ落ちそうな涙を見まいと、

また彼女の顔を胸板に押し付けた。


「!…」

黄瀬「ごめんね、思い出させちゃったね…」

「…黄瀬くん、去年のこと、知ってたんだね…?」

黄瀬「!…うん、ごめん。前に、話聞いてね。誰にも言ってないからね!?その人も、俺が無理矢理聞いてっていうか…」

「いいよ、大丈夫。黄瀬くんのことは信頼してるから。」

黄瀬「!」


”信頼”か…

嬉しい言葉だな…


「…もう、会いたくない。あの人達に。」

黄瀬「俺がついてるからさ。っていうか一人で帰るの危ないから、これからは絶対ダメっスよ?俺、いつでも送るから!…あ…」

「?…どうかした?」


また出しゃばっちゃったかな。

彼女にはよく一緒に帰ってた奴がいるじゃん。

でも…


黄瀬「…青峰っちとは帰らなくなったんスか?」

「!…え…」

黄瀬「…っていうか、ごめん。青峰っちの告白を断ったの、知ってるっス。」


なんで知ってるの?

って顔をしてた気がした。

俺には知られたくなかったのかな?


「…知ってたんだ。」

黄瀬「うん。」

「…そっか。…」


それ以上何か言う訳でもなく、

彼女は視線を俺から外していた。


黄瀬「…明日は?誰かに送ってもらえそう?」

「…特に決まってないよ。…」

黄瀬「…じゃあ、俺が藍っちのこと送るっス。」

「!…」


彼女は目を見開いて、俺の顔をじっと見つめた。

俺も見つめ返した。

真剣な気持ちが伝わるように。

でも、

彼女がその後、少し複雑な表情をしたのがわかった。

俺は咄嗟に口を開く。


黄瀬「…なんてね。冗談。むしろ迷惑ってやつ?また勝手なこと言っちゃってるね、俺。…!?」


その時、

確かに人肌を感じた。


さっきと同じように、

制服の腕のところをつまむ彼女。


細くて華奢な腕が、少し震えていた。

俺はその震えを止めるように、

彼女の手の上に自分の手を重ねた。


「…して…くれる…?」

黄瀬「えっ!?」

「…そう、して、くれるの…?」


あー、一瞬エロいことを考えてびっくりした俺はやっぱりアホだ。

下心ありありじゃねぇーか!

っていうか…!


黄瀬「…いい、の…?」

「…うん。」

黄瀬「俺で…?」

「…黄瀬くんは嘘で言ったんだ?」

黄瀬「!…いやっ、本当にそう思ったから言った訳であって、決して嘘ではないし…」

「…ふふ。」


あ、またこのパターン…

俺、からかい甲斐あるんだろうなぁ(苦笑)

自分で言うのもなんだけど。


「ごめん。不謹慎だったね。…でも、黄瀬くんにそんな風に言ってもらえて、嬉しいと思っちゃったんだけど。」

黄瀬「!…迷惑、に、ならないっスかね?」

「こちらこそ、だよ。…黄瀬くん、遠回りになっちゃうし。」

黄瀬「でもっ、考えてみれば、部内では家近い方だしっ…!俺は全然平気っスよ!?」

「…そう?…じゃあ…明日、お言葉に甘えてもいいかな…?」

黄瀬「うんっ!もちろん!…」

「…ごめんね。今は、正直、怖いの。…あの人達が。」


傷つけてきた張本人だもんな。

怖くて当然だよ。

俺が力になれるんなら…!

守りたい。


黄瀬「…俺が、いるっス。」

「!…ん。ありがとう。黄瀬くん。…」


ぎゅっ

と彼女をまた抱きしめた。

俺は正直めちゃくちゃドキドキしていた。

だって、

彼女はさっきから全然拒まないから…


その時だった。

まだ、あれこれ考えてる途中だった。

彼女はそっと俺から離れて、

上目遣いで見つめてきた。


あぁ…もうダメだよ。

そんな顔されちゃったら。

俺…


「…!」


彼女の唇を、

自分の唇で塞いだ。

そっと触れるだけのキス。

顔を離して目が合うと、

彼女は潤んだ瞳で口を開く。


「…黄瀬、くん…?」


俺の名前を呼ぶ、声。

拒まない、彼女。

俺の理性は、とっくに吹っ飛んでいた。


黄瀬「…ずるいっスよ…」

「…ん…」


再び重なる唇。

もう、どうしようもなかった。

ただただ、

彼女を好きな気持ちが抑えられなかった。


抱きしめ合って、

深いキスを交わす。


彼女も俺の舌の動きに応じてくれた。


甘く、とろけそうなひと時だった…























つづく
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