KRB夢

□19th
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俺の腕がつかまれ、踏み出した足が止められた。


黄瀬「!?…藍っち…」

「…っ」


彼女の腕が、俺の右腕の肘のあたりをつかんでいる。

今回は制服じゃなく、腕に直接力を感じた。

昨日と同じように震えている。


黄瀬「…藍っち…?」

「っ…待って…っ」

黄瀬「!?…」


涙目で訴える彼女。

決して大きくはなかったけど、

はっきりとそう言って俺を呼び止めた。


「…っ、ごめんっ…私、どうしたらいいか、わからないの…っ」

黄瀬「…俺への返事はいらないよ。…青峰っちがいるから、できないでしょ?」

「…」

黄瀬「あ…違うか。青峰っちがいるから、返事できるじゃんね。…」


俺の方がずるかった。

自分は言いたいこと言っといて、ちゃんとした答えを聞くことから逃げてた。

もう、はっきり言ってもらった方がいいかもな…


黄瀬「…言って?俺のこと、振って…?」


怖い。

本当は、怖い。

藍っちのこと、ずっと諦められなかったのに…

これで本当に、諦めなくちゃいけなくなっちゃった…


「…っ…黄瀬、くん…っ」

黄瀬「…」


俺の腕をつかむ彼女の力が強くなっているのがわかった。

ずっと下を向いていた彼女だったけど、

ゆっくりと顔を上げて、俺の顔を見上げた。


黄瀬「…あー、もうっ!」


ぎゅぅっ

と、文字通り、力強く彼女を抱きしめてしまった。

もう、俺の負けでいいよ。

でも、本当ずるいよ。

理性なんて、もたないよ…


「黄瀬くんっ…!」

黄瀬「藍っちはずるいっス。本当に、ずるいっス。」

「!…っ…え…?」

黄瀬「そんな目で、上目遣いで見つめられたら、どんな男でも落ちちゃうでしょ。ねぇ、今まで何人の男にそうやってしてきたの?」

「!?…そんなことっ」

黄瀬「あーあ。彼氏いるのに、抱きしめられたからっていって拒まないし、キスされても拒まないし、なんならディープキスまでしちゃうし?彼氏いるのに?」

「…」

黄瀬「こんな風に、何度抱きしめても、全然拒む様子ないし。むしろ自分から引き止めるようなことしてるし。得意の上目遣いで。しかも涙目うるうる。あー、本当小悪魔。どっかの誰かさんが言ってた通りのことになってるじゃん。」

「…え…?」

黄瀬「小悪魔ちゃんの彼氏さんが言ってたっスよー?無防備だとか、力づくでこういうことされたら逃げられないだとかなんとか。」

「!…」


彼女はゆっくりと俺の胸板から顔を離し、

俺の顔をじっと見た。

さっきのような上目遣いとは違う、少し力強い目つき。


黄瀬「勘違いされても、文句言えないよ?」

「…う、ん。」

黄瀬「"うん"って…それじゃあ勘違いして下さいって言ってるのと同じだよ?」

「…うん。…」


…えっ!?

どういうこと!?

何言っちゃってるの…?


黄瀬「…か、勘違い、していいんスか…?」

「…私…黄瀬くんの気持ち、無駄にしたくないの…」

黄瀬「!?…え?」

「勝手なこと言ってるってわかってる。さっき、黄瀬くんが言ってたように、自分のしてることは普通じゃないって…わかってはいるの。でも…」


彼女は一呼吸おいて、言葉を続けた。


「黄瀬くんと一緒にいるのが心地いいって…そう思っちゃうの。…」

黄瀬「!」

「…本当、最低だよ。さっき、改めて色々はっきり言われて身にしみた。思えば、私、黄瀬くんのこと拒もうとなんてしたことなかった。」

黄瀬「!?」

「むしろ、その時…黄瀬くんと抱き合った時、キスした時、心地いいなって思っちゃう…ような、最低な女。」

黄瀬「…」

「最低だし、変態だよね、私。…幻滅した?」


俺は屈んで、彼女の顔の目の前に自分の顔を近付けた。

嫌でも目が合う状態。

今にも唇と唇がくっつきそうだ。


黄瀬「幻滅なんて、しないっスよ。だって、その最低で変態な女の子、好きになっちゃったのは俺なんスから…」

「!…」

黄瀬「俺の方がもっと変態でしょ?」

「…そうなの?」

黄瀬「そうっス。…」


その瞬間、

俺は彼女の唇に自分の唇を重ねた。

もう準備は十分に整っていたから、

くっついては離し、くっついては離しで何度もキスを交わした。


彼女に腕をつかまれた時から、

俺はとうに理性の限界を超えていた。

目の前の彼女を力づくでも奪い去りたかった。


今、彼女と抱き合い、キスしてる。

もう、いいよ…

はっきりさせるのは後でも。

今はただ、こうしていたい。


黄瀬「好きだよ…」

「ん…私、も…」


キスが深くなっても、

その場で抱きしめ合ったままだった。
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