KRB夢

□21st
2ページ/4ページ

その日の帰り道、

急遽姉ちゃんからメールで買い物を頼まれ、本屋に寄り道をした。

平たく言えば、パシられたんだな、俺は…(苦笑)

ま、末っ子はこんなもんか。


寒い冬空の下、

普段はあまり通らない、堤防沿いの道を早足で歩く。

あたりはすっかり暗くなっていたけど、

所々にある街灯がぽつぽつと綺麗に光っていた。


ふと目に止まったのは、

見覚えのある白い猫のチャームがついたバッグ。

と、その横に座っている人物。

紛れもない、

彼女だとすぐにわかった。


黄瀬「藍っち!!」


俺は周りのことなど気にせずに大声で彼女の名前を呼んだ。

ゆっくりだが、確実にこちらを振り返ってくれたのは、

やはり俺の思った通り、彼女だった。

ものすごく驚いた表情をしてる。


「!?…黄、瀬くん…!」

黄瀬「何やってるんスかこんな所で!?寒いでしょ!?風邪引いちゃうよ!?大丈夫!?」


俺はすぐさま彼女のもとへ駆けつけた。


「!…どうして、ここに…?」

黄瀬「それはこっちのセリフっスよ!藍っちの家の方向と違うじゃないっスか。またこんな遅くに一人で…危ないっスよ!?」

「…ごめん。」

黄瀬「!…」


あれこれ言った後になんだけど、

俺、出しゃばり過ぎたかも…?


「心配かけて、ごめんね。…」


彼女は小さな子どもが叱られた時のような顔をしていた。


黄瀬「…いや、ごめん。俺、つい興奮して…言い過ぎた、よね。」

「ううん?黄瀬くんが謝る必要はないよ。…心配してくれてありがとう。私、今日は大丈夫って言ったしね…本当ごめん。」

黄瀬「藍っちが謝るのはおかしいっス。…で、どうしたんスか?こんな所で座って…」


俺は静かに彼女の隣に腰掛けた。

彼女はずっと、川の方を見ていた。

その横顔は相変わらず凛としていて、綺麗だった。


「…ちょっと、ボーッとしたくなってね。」

黄瀬「!…そうっスか。…でも、本当に風邪引いちゃうよ。ん…とりあえず、これ巻いて!」

「!…でもっ、そしたら黄瀬くんが風邪引いちゃう」

黄瀬「俺は大丈夫っス。あ、カイロも持ってるし。」


ゆづきの首にかけたマフラーをぐるぐると巻いてあげる黄瀬。

最初は驚いていたゆづきだったが、

素直にマフラーに顔を埋めた。


「!…黄瀬くんの匂い。」

黄瀬「わっ!?お、俺…汗臭かった…?シャワーは浴びたんだけど…」

「ううん(笑)…とってもいい匂い。好きなんだ、この匂い。」

黄瀬「!…お、俺の匂い、が…?」

「うん。…あ、今変態だと思った?(笑)」

黄瀬「いやっ、そうじゃなくて…う、嬉しいなと、思ったっス…」


恥ずかしいけど、嬉しい。

俺の匂いとか、自分ではよくわからないけど、

彼女が好きだと言ってくれるのは素直に嬉しかった。

ただ、やっぱりちょっと照れるが。


「ふふ。ありがとう、あったかいよ。」

黄瀬「それはよかったっス…(照)」


しばらくの間、二人で肩を並べて、

文字通りボーッとしていた。

ただただ、二人で川の流れを見つめていた。


「…あ…ごめんね、なんか、付き合わせたみたいになってて…」

黄瀬「いや、俺が勝手に並んじゃってるだけっス。…むしろ、ごめんって感じ。ここまできてなんだけど、一人で、いたかった…?」

「…ううん、黄瀬くんといるの、心地いいから。大丈夫よ。」

黄瀬「!…また、そうやって…」

「ん?何か言った?」

黄瀬「っ…何でもないっス!」


彼女はどこまで計算で、

どこまで天然なんだろうか?

でも、

どっちみちかわいいんだけど。

恋は盲目ってやつ!?(笑)


「…聞かないんだね。」

黄瀬「えっ?」

「大輝くんとのこと。」

黄瀬「!」


聞きたくなかった訳じゃない。

むしろ、聞きたかったんだと思う。

部活の時からずっと、

気になっていたのは事実だし。

でも、

聞くのが怖かったんだと思う。


「…嫌な想像、してた?」

黄瀬「…そういう訳じゃないっスけど…」

「…ケリ、つけてきたよ。恋人、やめてきた。」

黄瀬「!」


あれから、

青峰っちのことを見つけて話してきたんだ…

勇気いっただろうな…


黄瀬「…大丈夫…?」


俺は何を言ってるんだー!

大丈夫じゃないからこうして非日常空間を欲したんじゃないか!

あー、もっと気の利いたこと言えばよかったのに…


「…大丈夫よ。ありがとう。」


彼女は力なく笑ってくれた。

ああ、気を遣わせたのは俺の方だ…


「…ちゃんと、スッキリ終われた。と思う。…大輝くんは、最後まで優しかった。…」

黄瀬「…そっか。…後悔、してない?」

「!…してないよ。他の人好きになっちゃったのは私だもの。」

黄瀬「!…そ、それって、俺のこと…?」

「うん、そうよ。…大輝くんにも、バレてたみたい。」

黄瀬「えっ!?俺だって!?」

「うん。だから…二人の間に何かあったとしたら、私のせいだ。これからもチームメイトなのに…」


青峰っちはやっぱり全部見透かしていたみたいだ。

俺は、前にライバル宣言して、

負けて、

でも諦められなくて、

最終的に彼女に振り向いてもらえた。

青峰っちから彼女を奪ってしまったことには変わりない。

俺のこと、これからもチームメイトとして付き合ってくれるかな…?

許してくれるのかな…?


黄瀬「…藍っちは自分を責めないで?誰も悪くない。悪くないよ…」

「…でも…」

黄瀬「俺達のことなら心配しないで?きっと大丈夫だから。ちゃんと、チームメイトとして上手くやっていく。約束するからさ。」

「…ん。」

黄瀬「だから、藍っちもなるべく普通にしててほしいな。青峰っちとも、俺とも、部活ではチームメイト。ね?」

「…うん、わかった。私もそうしたい。」


ちょうど良いタイミングだと思った。

ゆづきは自分の決断を黄瀬にも話すことにした。

黄瀬は最後まで黙って聴いていた。


「だから…また勝手なことばかり言ってるけど…」

黄瀬「…青峰っちの手前、付き合ってるのを隠すっていうのは難しそうだから、そもそも付き合ってなきゃいいってこと?」

「…うん、平たく言えばそう、かな。あとは、私もちょっと考えたいっていうのがあるから…」

黄瀬「俺と付き合うのが嫌な訳じゃないっスよね?」

「!…うんっ、もちろん。むしろ、黄瀬くんと付き合いたいって思うよ。だけど…」

黄瀬「付き合って、また同じようなことになるのが怖い?」

「!…うん…」


好きとか付き合うとか、

よくわからないって言っていた彼女だから、

いざ付き合った関係で怖い思いをしたから、

そうやって怯えるのも頷ける。

俺は、彼女を尊重したい。


黄瀬「…わかったっス。藍っちの気持ち。」

「!…黄瀬くんのところに行きたいっていう気持ちは本当なんだよ。」

黄瀬「うん、ありがとう。だから、俺はやっぱり待ってるっス。藍っちが自分なりに考えを整理できて、青峰っちとも自然と距離ができて…ってなると、引退した後か?(苦笑)」

「…結構長いよね。黄瀬くんにそんな風にずっと待っててもらうなんてやっぱり」

黄瀬「待ってるよ。」

「!?…黄瀬くん…」


俺の想いが真剣に伝わるように、

まっすぐ彼女の目を見つめた。


黄瀬「言ったでしょ?どんだけでも待ってるって。…あと約半年?練習して、全中行ったらあっという間っスよ。きっと。ね?」

「!…っ、黄瀬くん…」


ぎゅっ

と、彼女の方から抱きしめてくれた。

俺も同じように、ぎゅっと抱きしめ返した。

腕の中の彼女が愛しくてたまらなかった。


どちらからともなく自然と解放し、見つめ合う。


黄瀬「…ちゅーしたいんスけど…こういうのはどうなんスか?(苦笑)」

「ふふ。…いいよ。二人きりの時は、してもいいよ。」

黄瀬「!…好きだよ、藍っち…」


ちゅ


「…私も。好きだよ…」


唇を重ね、深いキスもした。

今は、今だけは、

恋人と思ってもいいよね…?


「…ん…っ…」

黄瀬「…っ…ん…?」



リップ音と共に唇が離れた。

そして、彼女のおでこが俺の方に向かって来た。


黄瀬「!?…ちょ…藍っち!?どうしたんスか!?」

「…ん…はぁっ…はぁっ…」


よく見たら目はうつろ、

顔は赤くなってて、明らかに普通じゃない。

おでこに手を当ててみたら…


黄瀬「あっつ!わー、どうしよう!?藍っち、大丈夫!?しっかりしてー!?」


ベストだったかはわからない。

でも、俺は彼女を家までおぶって連れていく以外考えられなかった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ