KRB夢
□21st
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その日の帰り道、
急遽姉ちゃんからメールで買い物を頼まれ、本屋に寄り道をした。
平たく言えば、パシられたんだな、俺は…(苦笑)
ま、末っ子はこんなもんか。
寒い冬空の下、
普段はあまり通らない、堤防沿いの道を早足で歩く。
あたりはすっかり暗くなっていたけど、
所々にある街灯がぽつぽつと綺麗に光っていた。
ふと目に止まったのは、
見覚えのある白い猫のチャームがついたバッグ。
と、その横に座っている人物。
紛れもない、
彼女だとすぐにわかった。
黄瀬「藍っち!!」
俺は周りのことなど気にせずに大声で彼女の名前を呼んだ。
ゆっくりだが、確実にこちらを振り返ってくれたのは、
やはり俺の思った通り、彼女だった。
ものすごく驚いた表情をしてる。
「!?…黄、瀬くん…!」
黄瀬「何やってるんスかこんな所で!?寒いでしょ!?風邪引いちゃうよ!?大丈夫!?」
俺はすぐさま彼女のもとへ駆けつけた。
「!…どうして、ここに…?」
黄瀬「それはこっちのセリフっスよ!藍っちの家の方向と違うじゃないっスか。またこんな遅くに一人で…危ないっスよ!?」
「…ごめん。」
黄瀬「!…」
あれこれ言った後になんだけど、
俺、出しゃばり過ぎたかも…?
「心配かけて、ごめんね。…」
彼女は小さな子どもが叱られた時のような顔をしていた。
黄瀬「…いや、ごめん。俺、つい興奮して…言い過ぎた、よね。」
「ううん?黄瀬くんが謝る必要はないよ。…心配してくれてありがとう。私、今日は大丈夫って言ったしね…本当ごめん。」
黄瀬「藍っちが謝るのはおかしいっス。…で、どうしたんスか?こんな所で座って…」
俺は静かに彼女の隣に腰掛けた。
彼女はずっと、川の方を見ていた。
その横顔は相変わらず凛としていて、綺麗だった。
「…ちょっと、ボーッとしたくなってね。」
黄瀬「!…そうっスか。…でも、本当に風邪引いちゃうよ。ん…とりあえず、これ巻いて!」
「!…でもっ、そしたら黄瀬くんが風邪引いちゃう」
黄瀬「俺は大丈夫っス。あ、カイロも持ってるし。」
ゆづきの首にかけたマフラーをぐるぐると巻いてあげる黄瀬。
最初は驚いていたゆづきだったが、
素直にマフラーに顔を埋めた。
「!…黄瀬くんの匂い。」
黄瀬「わっ!?お、俺…汗臭かった…?シャワーは浴びたんだけど…」
「ううん(笑)…とってもいい匂い。好きなんだ、この匂い。」
黄瀬「!…お、俺の匂い、が…?」
「うん。…あ、今変態だと思った?(笑)」
黄瀬「いやっ、そうじゃなくて…う、嬉しいなと、思ったっス…」
恥ずかしいけど、嬉しい。
俺の匂いとか、自分ではよくわからないけど、
彼女が好きだと言ってくれるのは素直に嬉しかった。
ただ、やっぱりちょっと照れるが。
「ふふ。ありがとう、あったかいよ。」
黄瀬「それはよかったっス…(照)」
しばらくの間、二人で肩を並べて、
文字通りボーッとしていた。
ただただ、二人で川の流れを見つめていた。
「…あ…ごめんね、なんか、付き合わせたみたいになってて…」
黄瀬「いや、俺が勝手に並んじゃってるだけっス。…むしろ、ごめんって感じ。ここまできてなんだけど、一人で、いたかった…?」
「…ううん、黄瀬くんといるの、心地いいから。大丈夫よ。」
黄瀬「!…また、そうやって…」
「ん?何か言った?」
黄瀬「っ…何でもないっス!」
彼女はどこまで計算で、
どこまで天然なんだろうか?
でも、
どっちみちかわいいんだけど。
恋は盲目ってやつ!?(笑)
「…聞かないんだね。」
黄瀬「えっ?」
「大輝くんとのこと。」
黄瀬「!」
聞きたくなかった訳じゃない。
むしろ、聞きたかったんだと思う。
部活の時からずっと、
気になっていたのは事実だし。
でも、
聞くのが怖かったんだと思う。
「…嫌な想像、してた?」
黄瀬「…そういう訳じゃないっスけど…」
「…ケリ、つけてきたよ。恋人、やめてきた。」
黄瀬「!」
あれから、
青峰っちのことを見つけて話してきたんだ…
勇気いっただろうな…
黄瀬「…大丈夫…?」
俺は何を言ってるんだー!
大丈夫じゃないからこうして非日常空間を欲したんじゃないか!
あー、もっと気の利いたこと言えばよかったのに…
「…大丈夫よ。ありがとう。」
彼女は力なく笑ってくれた。
ああ、気を遣わせたのは俺の方だ…
「…ちゃんと、スッキリ終われた。と思う。…大輝くんは、最後まで優しかった。…」
黄瀬「…そっか。…後悔、してない?」
「!…してないよ。他の人好きになっちゃったのは私だもの。」
黄瀬「!…そ、それって、俺のこと…?」
「うん、そうよ。…大輝くんにも、バレてたみたい。」
黄瀬「えっ!?俺だって!?」
「うん。だから…二人の間に何かあったとしたら、私のせいだ。これからもチームメイトなのに…」
青峰っちはやっぱり全部見透かしていたみたいだ。
俺は、前にライバル宣言して、
負けて、
でも諦められなくて、
最終的に彼女に振り向いてもらえた。
青峰っちから彼女を奪ってしまったことには変わりない。
俺のこと、これからもチームメイトとして付き合ってくれるかな…?
許してくれるのかな…?
黄瀬「…藍っちは自分を責めないで?誰も悪くない。悪くないよ…」
「…でも…」
黄瀬「俺達のことなら心配しないで?きっと大丈夫だから。ちゃんと、チームメイトとして上手くやっていく。約束するからさ。」
「…ん。」
黄瀬「だから、藍っちもなるべく普通にしててほしいな。青峰っちとも、俺とも、部活ではチームメイト。ね?」
「…うん、わかった。私もそうしたい。」
ちょうど良いタイミングだと思った。
ゆづきは自分の決断を黄瀬にも話すことにした。
黄瀬は最後まで黙って聴いていた。
「だから…また勝手なことばかり言ってるけど…」
黄瀬「…青峰っちの手前、付き合ってるのを隠すっていうのは難しそうだから、そもそも付き合ってなきゃいいってこと?」
「…うん、平たく言えばそう、かな。あとは、私もちょっと考えたいっていうのがあるから…」
黄瀬「俺と付き合うのが嫌な訳じゃないっスよね?」
「!…うんっ、もちろん。むしろ、黄瀬くんと付き合いたいって思うよ。だけど…」
黄瀬「付き合って、また同じようなことになるのが怖い?」
「!…うん…」
好きとか付き合うとか、
よくわからないって言っていた彼女だから、
いざ付き合った関係で怖い思いをしたから、
そうやって怯えるのも頷ける。
俺は、彼女を尊重したい。
黄瀬「…わかったっス。藍っちの気持ち。」
「!…黄瀬くんのところに行きたいっていう気持ちは本当なんだよ。」
黄瀬「うん、ありがとう。だから、俺はやっぱり待ってるっス。藍っちが自分なりに考えを整理できて、青峰っちとも自然と距離ができて…ってなると、引退した後か?(苦笑)」
「…結構長いよね。黄瀬くんにそんな風にずっと待っててもらうなんてやっぱり」
黄瀬「待ってるよ。」
「!?…黄瀬くん…」
俺の想いが真剣に伝わるように、
まっすぐ彼女の目を見つめた。
黄瀬「言ったでしょ?どんだけでも待ってるって。…あと約半年?練習して、全中行ったらあっという間っスよ。きっと。ね?」
「!…っ、黄瀬くん…」
ぎゅっ
と、彼女の方から抱きしめてくれた。
俺も同じように、ぎゅっと抱きしめ返した。
腕の中の彼女が愛しくてたまらなかった。
どちらからともなく自然と解放し、見つめ合う。
黄瀬「…ちゅーしたいんスけど…こういうのはどうなんスか?(苦笑)」
「ふふ。…いいよ。二人きりの時は、してもいいよ。」
黄瀬「!…好きだよ、藍っち…」
ちゅ
「…私も。好きだよ…」
唇を重ね、深いキスもした。
今は、今だけは、
恋人と思ってもいいよね…?
「…ん…っ…」
黄瀬「…っ…ん…?」
リップ音と共に唇が離れた。
そして、彼女のおでこが俺の方に向かって来た。
黄瀬「!?…ちょ…藍っち!?どうしたんスか!?」
「…ん…はぁっ…はぁっ…」
よく見たら目はうつろ、
顔は赤くなってて、明らかに普通じゃない。
おでこに手を当ててみたら…
黄瀬「あっつ!わー、どうしよう!?藍っち、大丈夫!?しっかりしてー!?」
ベストだったかはわからない。
でも、俺は彼女を家までおぶって連れていく以外考えられなかった。