KRB夢

□22nd
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付き合ってはいない、

恋人ではない、

そんな肩書きにとらわれないような、

幸せな日々が順調に続いてると思っていた。

少なくとも俺は俺なりに納得していたし、

練習や日々のトレーニング、

学校の勉強やごくごくたまにあるモデルの仕事など…

恋愛以外にもやることはたくさんあったから、

上手く気が紛れていた。

それに、毎週楽しみもあったから。

週に一度は彼女と二人きりになれる時間があった。

皆にバレないように一緒に帰ったり、

うちの生徒があまり行かない、

ちょっと離れた所で待ち合わせして話したり。

そういう時間があったから、

俺にとっては彼女が恋人に思えるほどだった。

付き合っていないのは本当にただの名目上。

世の中にいる、ごく普通のカップルと

さほど変わらない。

彼女と一緒にいるのが本当に幸せだと思っていた。

けれど…


俺の知らないところで、彼女が傷ついて苦しんでいたなんて。

その悲しみを、早くわかってあげたかったよ。

早く拭い去ってあげたかったよ。

本当にごめんね…



大輝と恋人関係を解消し、

黄瀬くんと想いを通い合わせてから数ヶ月後…

季節は春に近付いていて、

もうすぐ春休みに入ろうとしていた時期だった。


私は、何も気にしなさ過ぎていたらしい。

黄瀬くんと仲良くすることが、

どういうことに繋がるのか。

黄瀬くんと付き合おうとするのが、

どういうことを意味しているのか。

彼は、学校ではおろか、外でも有名人なんだから。

校内で一番と言っていいほど女子人気の高い彼と

ただのマネージャーである私が恋人みたいに接することは、

彼を好きな多くの女の子達の反感を買うこととなった。


ある日、私は下駄箱に手紙を入れられた。

いわゆる、呼び出しをくらったのだ。

差出人は不明。

それを無視することだってきっとできた。

去年の嫌な事件を思い出したから。

でも、私は変わりたかった。

もうウジウジした弱い自分とさよならしたかった。

だから、勇気を振り絞ってその指定場所に向かった。

すると、そこには同じ学年と思われる女子が3人いた。

皆、顔は見たことがあったけれど友達ではなかった。


深雪「来たんだ、藍川さん。」

和美「えらいじゃない、ちゃんと一人で。」

知代「まあ一人で来いって言ったしね?」

「…何の用事?」


私にはどうしてこの人達に呼び出されたか、

この瞬間までわかっていなかった。


深雪「2、3質問があるの。正直に答えてちょうだい。」

「…何?」

深雪「あなた、黄瀬くんとはどういう関係?」

「!」


この時、一瞬だけドキッとしてしまった。

でも、ありのままを伝えればそれで十分だと、

そう思い込んでいた。


和美「前から少しは噂あったんだけど〜、最近また素行が目立つようになってきたらしくてね?」

知代「よく話に聞くのよ。あなたと黄瀬くんが、異様に距離が縮まったってね。」


私は、下手に出るつもりなんてなかった。

何も悪いことはしていないのだから。


「…あなた達が何をもってそう言ってるのかはわからないけど、私と黄瀬くんはただのチームメイトよ。それ以上でもそれ以下でもないわ。」

和美「二人で一緒に帰ってるのを見たって言ってた人がいるの〜。」

「それが何?一緒に帰ったりしたこともあるよ?」

知代「手繋いでたとか、腕組んでたとか、そういう話も聞くわよ?」

「…それ、本当に私のこと言ってるの?そんなことしたことない。」


事実、あれ以来外で会う時も、

そのようなスキンシップはとったことがなかった。

こういう時のことを見据えて、

恋人にならなかったのだから。

私には無実を主張する自負があった。

なのに…


深雪「やり口がきたないのよ、藍川さん。マネージャーとしてならいくらでも黄瀬くんに近付けるものね?そうやって言い訳もできる。」

「…何言ってるの?私はそんな理由でマネージャーやってるんじゃないよ。それに、言い訳も何もしてない。私は事実を言ってるだけ」

和美「うるさいわよっ!」


ドンッ

と左腕の付け根あたりを押された。

思いのほか強い力に耐え切れず、

そのまま後ろによろけ、石段に躓いて予想以上に派手に倒れた。


「いっ…た…」

知代「!?…ちょっと、まずいんじゃない?」

和美「!…お、大袈裟に転びやがって。…ねぇ、どうするっ!?」

深雪「…いい気味だわ。行くわよっ」

「!…ちょっ…待ちなさいよ…!っ…痛い…っ」


足をひねったのか、その場から動くことすらできなかった。

こんな人目につかない場所で…

どうしたらいいんだろう。


「…っ」


最低、あの人達…

勘違いしてた上に、勝手なこと言って、

暴力まで振るうなんて…!


黄瀬くんのこと好きでいるの、

そんなにいけないこと…?

普通に接してるつもりなのに。

私が何したっていうのよ…


すると、足元に人影が見えた。

恐る恐る見上げてみると…


黒子「藍川さん!どうしたんですか!?」

「!…テツヤくん…どうして、ここに…」

黒子「上の渡り廊下を掃除していたら、座り込んでる藍川さんを見つけて、それで…藍川さんっ!?」


頬に涙がつたったのを感じた。

一粒だけ。

自分でも無意識だった。


「!?…あ…ごめ、ん。私…なんでだろ…テツヤくん、ごめんね?ところで、一つお願いがあるんだけど、ちょっと力借りてもいいかな…」

黒子「もちろんですよ!」


私は、テツヤくんに保健室へ連れて行ってもらった。

テツヤくんはそれほど背も高くないし、

パワーも強くないイメージだけど、

さすがに男の子なんだなと思うくらい、

私をしっかり支えながら歩いてくれた。
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