花街絵巻

□輝くは蝶なりてもゆる想い(二章)
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あれから二週間ばかり過ぎた頃だった。突然あの男から文が届いた。
「銀さん、あとその手紙と一緒にこれも」
差し出されたのは小さな桐の箱だ、俺は恐る恐るその箱を開けると中には丁寧に布に包まれたかんざしが出てきた。漆黒の漆に銀の桜が施されたもの、飾りの金属が擦れ合いシャランと音を響かせる。
「へぇ、綺麗なかんざしじゃないですか」
「・・・でも俺かんざし着けないんだけど」
何時も髪は結わずに飾りも着けない、何もしなくても綺麗であるというのが売りの一つであるのに今更つけるのもとそれを見下ろしていると新八が俺の背後に回り勝手に髪を纏め始めたのだ。
「ちょっ!何やってんだッ!!」
「偶にはいいじゃないですか、折角ですし着けるだけ着けてみましょうよ」
慣れた様子で髪を纏める様子を鏡越しに見ていると思い出したように土方からの手紙の封を開けた。
「・・・・・・おいおい、ソレだけかよ」
俺の突っ込みに手にしている手紙を覗き込んでくる。そして俺と同じことを思ったのだろう苦笑するのが何となく分かった。
手紙には先日のお酌の礼としてそのかんざしを贈ると言う事だけが書かれていた。本当に素っ気ない。ここまでくると逆に笑えてしまう。
「何か今までに無いお客さんみたいじゃないですか?こんな風に髪飾りを贈ってくる人いなかったし」
「あぁ、大体は着物とか宝石とかだったしな・・・」
「・・・よしっ、出来ましたよ。ちょっと一風変わった感じにしてみました」
「へぇー、新八って案外器用だな」
少し顔を横に向け鏡に映してみれば、髪の上半分を結い上げて半分はそのまま流した形にしてある。結い上げている部分もいくつか細い三つ編みを編み込み綺麗に纏めていた。そこに差し込まれたかんざしが動く度に音を立てる。
「銀さん、これからお茶屋にでも行きましょうよ。そろそろ季節限定の団子も出てる頃ですし」
彼からの提案に即座に立ち上がった。
「おしっ、たまには銀さんが奢ってやろう」
「えー!!珍しい・・・」
「イヤなら奢れ」
「そんなのイヤですよ」
軽口を叩きあいながら二人で部屋をでる。目指すは店か程近い団子の種類が豊富な茶屋だ、何を隠そう自分は甘いものが大好物なのだ。糖分が主食だと言っていいほどに過剰な糖分摂取をしている、偶に取り過ぎだと女将や新八に怒られるが止める気など更々ない。
常連と化している自分たちが店の中に入ると愛想のいい親父が何時もの席に案内してくれた。
「銀さん今日はどうします?」
「んーっとォ・・・あんみつにするか和風パフェにするか・・・」
メニューを見つめ悩んでいると親父が自分の髪に飾られた簪に気付き驚いた顔で人の顔と簪を何度も見比べてくる。
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