花街絵巻

□輝くは蝶なりてもゆる想い(四章)
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その日、銀時は客の予約もなくのんびりと人の波を眺めていた。すると格子を鷲掴み笑顔全開の男が銀時の名を呼びながら手を振ってきたのだ。

「…バカが来た」

男は過去に数回故郷の同胞として来店した坂本辰馬。くるくるのパーマ頭で常にサングラスを付け陽気な性格故にあまりこの楼閣では煩くても疎まれずにいる。
銀時の馴染み客と言ってもいい辰馬の来客に番台は苦笑混じりで出迎えた。気ははいい男なのだがいかせん声がデカイのだ。

「久方ぶりじゃのぉ」
「お越しやす。只今銀が参りますのでお待ちください」

銀時の姿を見付ければ両手を広げ抱き付こうとしてくるのを軽くかわしてさっさと部屋に向かって歩きだす。辰馬は機嫌を損ねることもなく「相変わらずつれん奴じゃ」と笑い声を上げた。
部屋に通すと普通なら続き間の近くに座るものだが彼相手に夜伽の必要はない。だから外が目に入る窓際に腰を下ろした。

「珍しいなヅラと一緒じゃないなんて」
「アイツは今好いたおなごが居るそうでのぉ、じゃきワシ一人で来たんじゃ」
「へぇ〜好いた奴ねぇ…」「気の利いた良きおなごじゃそうだ」

友人の男は人を見る目がある人間だ。そんな男が心寄せるとは大層な女性なのだろう。
こんな時自分が女であればもう少し素直にあの男に心を開けたような気がする。遊女と言っても結局は男で彼も男。幸せになどなるのは夢のまた夢。

「金時…お主ゃあ桂と同じ目をしとるがや」
「はぁ?」

この男は何を言い出すのかと不審な目でみやれば妙に真剣な顔が見え目を丸くした。

「好きな者が出来ただがな?」
「な……ちげぇ」
「いや、その目は恋しちょる目じゃ。そうかそうか金時にもよぉやっと春が来たとやなぁ」
「だからッ!!」
「…銀時、幸せになれ。皆がそれを望んちょる」

否定の言葉を口にする前に落とされた重い一言に銀時は口をつぐみ顔を伏せた。
辰馬も桂も新八も…女将やお妙、神楽、自分を取り巻く人々は常に「行きたい道を」と言ってくれていた。男でありながら男に抱かれるのは確かに苦ではある。しかしこの生活からこの人々から離れる気にはならないのだ。

「金時が惚れちょる相手とは気になるのぉ。この街の人間がや?」

ふるりと首を横に振り、文台に仕舞ってある箱を取り出した。中に納められているのはあの簪。

「ある客の接待に呼ばれた時に出会ってな…で、後からこんなのを送って来やがったんだよ。髪に飾りは付けないってのが売りの俺にな…」

手の中で簪を振ると涼やかな金属のすれあう音がする。

「二度目に会った時に色々話してさ……楽しかった。あんなに楽しかったのはテメェらと出会って以来さ」
「いい男なんじゃのぉ」
「あぁ、俺には勿体ない男だよ」

思い浮かぶのはほんの一瞬だけ見せた優しげな土方の笑み。あれを見た時、どれ程胸が高鳴ったことか。

「お偉いさんかが?」
「…お偉いさんって言えばお偉いさんなのかねェ。まぁ所詮は客と遊女さ、遊びだよ遊び」

そんな軽い風に言う銀時の表情は悲しそうに眉をひそめ耐えているかの様だった。
それ以上辰馬は想い人について追求せず先日まで行っていた宇宙での体験を聞かせ話を反らした。

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