BOOK
□Cry for the moon
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着信を知らせる青いランプが点滅する。
ディスプレイを見れば、もう何度も何度も表示されることに慣れた、2文字だった。
「もしもし」
『よかった、繋がって。シアだけど』
「どした?」
『あのね、ハルカに会いたいの』
そう言って受話器越しに笑う声は、いつもより語尾が長い。
「酔ってんの?」
『酔ってなーい。・・・嘘、ちょっと酔ってる、かな』
「とにかく行くから」
―――そこでじっとしとけ。
短く言うと、携帯をポケットにねじ込み、車のキーを手に取った。
シアと会う時は、たいていこんなパターンだ。
会う約束を交わしたことはない。
シアからの気まぐれな電話―――時には無愛想なメールだったりもするが、そんな突然の呼び出しばかりで。
約束どころか他愛のない、メールのやり取りでさえ、俺たちはしたことがないかもしれない。