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□水に映った月
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光だと、思っていた。
自分の内を照らす、何よりも眩しい光だと。
胸の内を焦がす、光だと。

真昼の太陽のように、容易に近づけば、その身が灼かれるほどに、ただ眩いとばかりに思っていたのに。

かの人は、月だった。
あの、澄んだ水面に映る、月のような人だった―――


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早朝の回廊から見える目にも鮮やかな新緑に、碧珀明はふと足を止めた。
念願の国試に及第し、正式に吏部に配属されて一月余り。
季節はいつの間にか夏に差し掛かっていた。
聞きしに勝る悪鬼巣窟ぶりに、連日連夜の残業で、珀明は日々己の限界に挑戦する毎日だ。
若い珀明は、寝ても寝たりない年頃なので、正直なところ一刻でも長く睡眠をという誘惑に打ち勝つことに毎朝苦心しているのだけれど、この何かが始まる前独特の、しん、とした朝廷が珀明は好きだった。

夏へと向かう草花は、一雨ごとにその色を増し、やがて、激しい季節へと移り変わるのだろう。

葉の内から輝くような常盤色。
生命の緑。
それは、珀明が負う一族の色。

中庭を挟んだ回廊に人影を見つけ、珀明は表情を消した。
ここは、朝廷。
二十歳に満たぬ子どもだとて、容赦のない場所。
彼の負うものが大きければ大きいほどに。

鉄壁の理性。
そう口の中で呟いて、珀明はその場に背を向けた。
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