BL
□七十五円のバレンタイン
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「なー、ディックはチョコとか作んねーんさ?」
「………………は?」
『七十五円のバレンタイン』
『バレンタインの手作りチョコの本』だか何だか知らないが、やたら少女趣味な装丁の本から目を離さないまま不意にラビがディックへ問いを投げた。
「だから、バレンタインのチョコレート!俺はユウに作んだけど、ディックは?ティキにとかさぁ」
「なっ……に、ばかなことっ、何で俺がアイツなんかに作ってやんなきゃなんねーんさっ!そもそもバレンタインって普通女から男に、」
耳まで真赤にしたディックの反駁に、ラビは「大丈夫、今『逆チョコ』とかアリらしいし!男がチョコ買ってても別におかしくないさっ」と若干噛み合わない応え(しかも力説)を返す。
「そういうことじゃなくてっ…、そんなのくだらないって言ってんさっ、菓子会社の策略にあっさり乗せられるなんて御免さ!」
「ええ〜っ、せっかくのイベントじゃん〜…それに、あげたらティキ、喜ぶさ?」
――――その台詞の後半に、揺るがなかったと言えば嘘になる。
でもそんな自分を認めるのも癪で、ディックは荒々しく立ち上がった。
「…別にアイツのことなんか、何とも思ってないしっ、喜ばせる義理もないっっ!!」
ほとんど自分に言い聞かせるようにまくし立て、さっさとリビングを後にする。
「あっ待ってさ、なぁユウってやっぱあんま甘くないやつのほうが好きかな?」
「知るか!」
能天気な声に八つ当たりするように、ドアを閉める音は壊れるんじゃないかと思うほど大きくなった。
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