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□七十五円のバレンタイン
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そうだ、アイツのことなんか何とも思ってない。
だってバレンタインっていうのは、好きなやつにプレゼントを贈る日であって、
あんな変態でストーカーで物体Gみたくいくら追い払ってもキリがなくてウザくって仕方ないアイツなんか、全然『好きなやつ』なんかじゃ、…………。
「…なのに何でこんなとこにいるんさ、オレは……」
学校帰りに気がつけば立ち入っていたスーパーの商品棚の前で、ディックは内心頭を抱えた。
ちょうど14日当日、店内はバレンタインセールと大きく銘打って、特設コーナーには手作り用のクーベルチュ−ルチョコレートやデコペンその他、精巧な細工が施されたトリュフ、ラッピング用のリボンや袋。果ては『ご自由にお取りください』の札付きの小さなレシピメモまで。
さすがにそんなピンク色の空間に男一人では入っていけなくて、ふらふらといつの間にやら辿り着いたのは、通常の菓子コーナーだった。
駄菓子にスナックに飴にガム――それらの陳列される中で、ディックが足を止めたのはチョコレートのスペース。
心なしか高級嗜好の物から安価な板チョコまで取り揃えられているそれらを前に、ディックは一人眉根を寄せる。
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