※出演キャラの皆様ごめんなさい
※某古典のパロディ
※意図的に未完










ある街に、ゼロという人とエックスという人が住んでいました。ゼロは、ずーっとエックスと一緒に暮らしていたのですが、あるとき、よそに新しい彼女をつくりました。
その彼女――アイリスにはコワモテの兄カーネルがいて、ゼロを呼びつけて文句を言いました。
カーネルは、
「ゼロ、おまえはアイリスを彼女にしておきながら、まだエックスと一緒に暮らしているそうだな。ほんとうは、アイリスのことを愛していないんだろう!」
と詰め寄りました。
ゼロはアイリスのことをとても可愛がっていたので、カチンときてこう言いました。
「そんなことはない! 住むことが愛の証なら、明日にでもアイリスと一緒に住んでやるさ」
売り言葉に買い言葉、ゼロはただその場のノリでそう言ってしまっただけだったのですが、シスコンのカーネルに「言ったな? 男子に二言はないぞ!」と詰め寄られ、逃げ道をふさがれてしまいました。そうして、アイリスを引き取ることを無理やり約束させられてしまいました。

ゼロは、エックスをどこにやればいいんだろう、と途方に暮れてしまいました。
エックスはいわゆる天涯孤独で、頼れる家族も親戚もいないのでした。そのうえエックスの持っているお金はゼロよりもずっとずっと少ないことを、ゼロは知っていました。食べものも、着るものも、一緒に住んでいる家も、みんなゼロが買ったのでした。

家に帰ってエックスの様子をうかがうと、いつもどおりなにか物思いに沈んでいるらしく、悲しげな顔をしていました。こんな悲しそうなエックスに別れ話を切り出すのは心苦しかったのですが、カーネルと約束してしまったので仕方なく、明日からアイリスと住むことにした、と遠回しにやんわりと告げました。
遠回しにやんわりと告げられたエックスは、一瞬だけショックを受けたような顔をしましたが、あとは至って冷静でした。ただ「今まで気づかなくて、ごめんね」とだけ言いました。あんまりあっさりしているので、ゼロのほうが拍子抜けをしました。

ゼロが部屋を出ていってしまうと、エックスはひどく泣きました。
エックスは泣きながら部屋をきれいに片づけて、少ない荷物をまとめました。部屋の端末に残ったゼロとの通話履歴もメールもみんな消去しました。

その晩、エックスはひっそりと住みなれた街を去ることにしました。
ゼロはアイリスを迎える準備で忙しいので、付き人のアクセルという少年にエックスを送らせることにしました。

月の明るい夜でした。
アクセルが黒いライドチェイサーに乗って待っています。二人乗りができる大型のチェイサーでした。
しかし、エックスはチェイサーというものにほとんど乗ったことがなかったので、二人乗りの乗り方がわからなくて、こまって立っていました。
そばで見ていたゼロは、ああ乗り方がわからないんだな、と思って、エックスをお姫さま抱っこでチェイサーに乗せてあげました。それから落っこちないように、あちこち座り具合を調整してやりました。

エックスはゼロに抱っこなんかされるのは久しぶりでした。そのうえ大好きなゼロと今夜かぎりでお別れだと思うと悲しくて、もう気持ちがぐちゃぐちゃになっていました。でも、ここで泣いたらゼロが困ってしまうと思って、必死に耐えていました。

月の光に照らされたエックスの白い横顔を見て、ゼロの心はしくしく痛みました。ゼロは、やっぱり自分も見送りに行く、と言いましたが、エックスは、近くの街だからそんなの大げさだよ、と断りました。ゼロは、それもそうだなと思いました。
そして、アクセルのチェイサーはエックスを乗せて走り去っていきました。

さてエックスは、ゼロが見ているときこそ必死に隠していましたが、もう悲しみがこらえきれなかったのでしょう。居住区のゲートを出るやいなや、堰を切ったように泣き出しました。アクセルは、大好きなエックスが悲しんでいるのを見て、自分まで悲しくなりました。
エックスの言う通りにチェイサーを走らせていくと、深夜の幹線道路をずいぶん長いこと走って、とうとう建物もまばらな荒れ果てた地区に入っていきました。
アクセルは、全然近くの街じゃないじゃん、と思いました。

エックスが「着いたよ」と言いました。
アクセルは思わず「うわー、ボロボロ」と言いました。
そこは、人里離れた岩山のふもとにある、打ち捨てられた廃墟でした。エックスは、昔ここから発見されたのでした。
アクセルとエックスは、瓦礫に半分埋もれたその建物に入りました。エックスは、荷物から小さな明かりを出して灯すと、部屋の隅から砂をかぶった壊れた椅子をもってきて、それに座りました。
それからアクセルに、
「おまえはもう帰ったほうがいいよ。ゼロが待っているから」
と言いました。
アクセルは、こんな場所にエックスを置き去りにしていくのを、ひどくつらく思いました。でも、自分はゼロの付き人なので、帰らない訳にもいかないのでした。仕方なく「何か伝言ある?」とだけ訊きました。

そのころゼロは、がらんとした家でアクセルの帰りを待っていました。エックスが近くの街と言ったので、寝ないで待っていようと思ったのですが、待てどくらせどちっとも帰ってこないので、うとうとと眠ってしまいました。
はっと目を覚ましたときは、日付が変わっていました。深夜も深夜、真夜中です。ゼロは、らしくなくエックスとの幸せな日々を思い返したりなどして、今更ながら恋しい気持ちが募るような気がするのでした。
アクセルはまだ帰ってきません。近くの街と言っていたが、エックスは誰の家に行ったんだろうとゼロは思いました。全然怒ったり泣いたりせずに、ずいぶんあっさり出て行ったので、あいつにも新しい恋人がいたのだろうかと考えました。

そこへ、怒ったアクセルが、チェイサーを駆っ飛ばして帰ってきました。
ゼロは、往復にあまりに時間がかかったのを疑問に思って「いったいどこまで行ったんだ」とアクセルに聞きました。アクセルは、エックスのたった一言の伝言を伝えました。
――そのたった一言の伝言を聞いて、ゼロは自分の行動をひどく悔やみました。自分に涙があったらたぶん泣いていただろうと思いました。エックスの伝言は、ゼロを責めてはいませんでした。
そのかわり、アクセルがゼロを責め立てました。まず、エックスがずっと泣いていたと言いました。それからエックスの行った場所が砂漠のような荒れ果てた地区だったこと、廃墟がどんなに荒れ果ててボロボロで砂まみれだったかを言いました。最後に、あんなに健気でかけがえのないエックスを捨てるなんてどうかしてる。と言いました。アクセルはまだ何か言っていましたが、ゼロは聞いていませんでした。ただ、エックスが泣いていたという、そんな簡単なことにどうして気がつかなかったんだろうと思うと、自分の頭をセイバーの取っ手でぶん殴りたい気がしました。
ゼロはアクセルに、まさかそんなところへ行くとは思わなかった、と言いました。それから、そんな砂だらけのところにいたら壊れてしまうかもしれないと言いました。そうして最後に、やっぱり今すぐ連れ戻しに行く、と言いました。アクセルはとても喜んで、車庫からゼロの真っ赤なバリウスを出してきました。それから、ゼロはチェイサーのアクセルを道案内にして、深夜の幹線道路をひたすら走りました。二人乗りの人もいないのでめちゃくちゃに飛ばしまくって、あっという間に岩山の廃墟まで来ました。

なるほど、ほんとうに廃墟でした。崩れた瓦礫の山があちこちに積み上がっていました。ゼロは悲しくなって、エックス、と言いました。その声は、廃墟の静寂を破って小さく反響しました。
エックスは、アクセルが帰って一人になったので、気兼ねなく大泣きをしているところでした。すると、外から自分の名前を呼ぶ声がしました。ああ、とうとうあのカプセルのおじいさんが迎えに来たのかな、と思いました。エックスは、もう生きる望みをほとんど失っていたので、それも良いかなと思いました。でも、その声は奇妙にゼロそっくりでした。エックスは、ゼロのことが好きすぎて聞き間違えたんだろうと思いました。
――顔を上げると、目の前に本当にゼロが立っていました。
ゼロはエックスを抱きしめて、一生懸命あやまりました。こんな荒れ果てた場所に行くとは思わなかったんだと言いました。それから、やっぱり俺と一緒に暮らしてくれと言ったので、エックスはまた泣きました。

アクセルはチェイサーに乗り、ゼロはエックスをバリウスの後ろに乗せて、自分の腰にしっかり掴まらせました。それから夜明けのハイウェイを安全運転で走って、みんなで家に帰ってきました。エックスは、バリウスを運転するゼロの背中に顔を押しつけながら、またちょっとだけ泣きました。そして、どうしてゼロは自分を連れ戻してくれたんだろうと不思議に思いました。

家に着くと、ゼロはエックスとなかよく一緒に寝ました。ゼロは、もう他の女の子のところには行かないと言いました。

ゼロは実際、自分の言ったとおりにしました。
アイリスを引き取る話は改めて断りました。そして、ゼロはエックスを大切にして、その後も末永く一緒に暮らしたので、エックスは、夢みたいに幸せだと思っていました。
断られたカーネルは怒って騒いでいましたが、アイリスのほうは住む家もあって頼りになる家族にも恵まれていたので、ゼロがいなくてもとりあえず無事に暮らしていたようです。

おしまい





  ◆ ◇ ◆ 



≫アトガキ
原典ではこのあとエックスはゼロと幸せに暮らし、アイリスさんのほうは断られた上に重ねてこっぴどくフラれます。でも、そこはちょっとあんまりな話なので割愛してしまいました。
それから、原典ではチェイサーは馬ですw でも平安時代の日本馬なので、サラブレッドみたいなでかい馬じゃないです。
バリウスは、Χ8に登場するバイク型のライドチェイサーです。(ゲーム内では、車体カラーは乗ってる人のボディカラーで決まるので、乗る人をチェンジするとカラーも変わります)
ちなみに、ギリシャ神話のアキレスには不老不死の愛馬が二頭いて、うち一頭の名前が「Balius」なんだそうです。


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