◆The Happy Prince Ⅱ
そして、だれも行きたがらないほどの激しい戦闘があると、
「どうせきみは、ワーイと思って、喜々として出撃するだろう」
「よくわかってるじゃないか」
「そうじゃない。おれが言ってるのはね、アイロニーだよ」
「知ってるさ。俺が、死地に飛び込むのが大好きで困るって言いたいんだろ」
「わかっているなら、控えてくれ。お願いだ」
「だが、そいつを言っちゃ、ハンターなんざやってられんだろう」
「けど、だけどっ！ おれたちは軍じゃない。ただ死に向かって戦うんじゃなく、なにか、もっとちがうものが‥‥向かっていく方向がちがうんじゃないかと思うんだ！」
「それ、軍のヤツが聞いたら怒るぜ」
「‥‥‥」
◆ ◇ ◆
ある日、いつもどおりエックスがハンター稼業について悩んでいると、
「そうだ、まったく可笑しな話じゃねえか。なんでおまえがハンターなんかやってるんだ」
「！」
「可笑しな話じゃないか。幾度も世界を救った英雄で、世界じゅうのすべてのレプリロイドのオヤともあろう者が、なんでこんなところでペーペーのハンターなんざやってるんだ。可笑しいじゃないか」
「‥‥‥」
「おまえみたいに御偉い奴はな、こんなところであくせく働いたりなんかしないで、どっか高いところに座らされて、みんなから拝まれてりゃいいんだよ。おまえくらいの古さなら、博物館のガラスケースだな。‥‥年表を載せたパネルと一緒に、人ゲンの見世物になっちまえ」
「ゼロ」
「そうだ、ハンターなんかやめちまえ。こんなのは半分汚れ役だ。おまえみたいな腑抜けた奴が、甘っちょろい奴が、意気地の無い奴が、こっそり泣いてばかりの奴が、やるような仕事じゃないんだ」
「もういい、やめてくれ」
「よくねえ。おまえは何故ハンターを続けている？ 全てを守ると言いながら、全てを守りきれたことが一度としてあったか？ 全のためなら一は犠牲になる、大多数の存在があれば必ず一部は造反し反逆しそれは決して無くなることはない。理想郷なんて幻だ、幻だから理想なんだ。イレギュラーを殺して殺して殺し続けて、それでもおまえはまだ気づいていないのか？」
「ゼロ！」
「どうしてわからない？ わかろうとしない？ エックス、俺は」
「‥‥ッ！」
汎用機だったら、今の一撃で両腕がもげたな。
てんで手加減ができていない。
そんなことをぼんやり思った。
このまま力いっぱい揺さぶってもらえるんじゃないかと期待したけど、そういうことはなかった。
ゼロは、おれの両肘を両手で掴んだまま、ただ青い目でおれを見ていた。
ゼロの莫迦。いま揺さぶってくれたら、きっといけたのに。
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