[1〜10話]

□4話
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「お前、殺していいか」
「はァ!?」
いきなりの殺人予告にコーザは思わずがばっと布団から跳ね起きた。
「てのは嘘だが半分マジだ」
「ロロノアー……。勘弁してくれ、ただでさえしんどいのに」
で、よくよく聞いてみると。
「……は? ルフィがこれをおれに、か?」
「ああ……好きなんだってよ。お前んこと」
「ルフィが?」
「ルフィが」
「ありえねェだろそれ……」
「いいよなァ、これからはお前、アイツんこと見たい放題じゃねェか。触れるし。あーあ」
「いや、別に見たいとか思ってねェしましてや触ることはないと思うぜ」
「なんでだよ、もったいねェ」
「あのなァ! お前でもあるまいし! ……それにおれはビビって子がいいんだ!!」
言った! 言ってしまった……! 熱のせいか本音が……ゴホゴホ(これは咳だ)。
「ビビ? ああ、そういやビビってやつも行くってよ」
「本当か!?」
ゴホゴホゴホ!!
「それと……コニス? っての。後もう一人行くかもしんねェとかなんとか……もうよく聞いてねェやその辺。あーあ」
「コニスってルフィと同じシフトのな。そうか、あの二人と。で、ルフィは?」
「……行くとは言ってなかった、かな」
「それだとロロノアがさっき言ったことは矛盾してるぜ。ルフィがおれを好きなら自分が行くはずだ。そうだろう?」
「そうだな、てことは……」
「ちゃんと確かめて来い。行くか、行かないか」
「あー……。コーザ、のど乾かねェ?」
「そうだな、熱があるからな」
「コンビニ行ってくる」
「おう、おれはポカリな」
財布をケツポッケに突っ込みながら飛び出して行ったゾロに、コーザは苦笑して肩を竦めるのだが、良い結果が聞ければいいとチケットを眺めつつ、ビビの顔を思い浮かべこっそりニヤニヤとした。


カランコローン。カランコローン。
「いらっしゃいま……あ!! ロロノアさんだ!!」
もうすっかり覚えられてしまったらしい、とゾロは少しばかり照れ臭くなる。たったあれだけのことを聞くのは容易いのだが、黙って見ていたころとは勝手が違うのだ。自分が見れば、相手も見る。
いつもの制服を着て、いつものレジに立っている店員ルフィ。最近のゾロの憩い的存在。昼間はラッキーにも私服姿が見れて、麦わらがめっさ似合っててうっかり見惚れた。それから制服よかイイよなァとか足首も細かったんだなァとかやっぱしめちゃくちゃ可愛いよなァとか、つい観察モードに突入していたところへ爆弾投下されたのだ。
ルフィはコーザの名前を知って喜び、コーザと一緒に花火大会に行きたいと言い、よりにもよってコーザのことが好きだと言った(思いだしても腹が立つ)。
これがもし全部事実だとしたら……かなり凹む(どころの話しではないかもしれない)。と、無意識のうちにじろじろルフィを見詰めていたら、店員は右に左にと首を傾げ、それからとうとう真っ赤になった。
「あのー、またおれになんか言いに来た、とか?」
正解だ。助かった。
「ああ、言いに来た。つか、聞きに…」
「あら!? ロロノアさんいらっしゃいませ! ……あ、あのォ〜、コーザさんのお加減は如何ですか……?」
「元気だったぜ。すげー勢いで起きあがってたしな」←誤解
「そうですか……良かったァ」
ほお、ととても安心したように胸を撫で下ろす店員にゾロは訝しげに片眉を上げた。そして「チケット、渡して貰えました?」と聞かれ頷けば、これまたぱあっと花が咲いたような笑顔になる。
この反応は、もしや。
「ありがとなロロノアさん! 良かったなァ、ビビ!」
「うんっ! あの、すいませんでしたロロノアさん……どうもありがとう」
「いや別に……」
もしやコーザ狙いなのって……。
「こんでコーザさんと一緒に花火大会行けんじゃん! 仲良くなれるといいけどなァ」
「えーでも一緒に行くだけだし! コニスさんと、あと店長さんも行くかもしれないし! ルフィさんと行けないのは残念なんだけど……」
……あんだってェ? 今、ルフィは行かねェつったか?
「あ、ごめんなーロロノアさん! おれに聞きてェことってなんだ!?」
「なくなっちまった……」
ハァ、と溜息を吐いてゾロは掌で額を押さえた。あの時ちゃんとルフィの話しを聞いていればムダな誤解をせずに済んだものを、アホかおれは。……コーザの野郎よかったじゃねェか。
「なんで? な、なんか怒ってる!?」
上目遣いの大きなルフィの瞳が、困ったように眉を下げ見上げてきた。その眼差しにゾロは額にあった手を顔へとずらす。
これだこれ……そういやこれに弱ェぞ、と昼間思ったんだった。やっべぇよコイツのこれは……。
「……怒ってねェよ」
怒ってても怒れねェだろ、普通。
「なら、代わりに一昨日の件でひとついいか、お前」
「おれ?」
「お前だレジ」
「レジって……」
「あんまし一人で無茶すんな。解ったな」
「………ハイ」
ほけーっとした顔の2人を取り残し、ゾロは一人鬱々しながらも買い物を済ませコンビニを後にした。やっぱり見ているだけが一番、なのかもしれない。


「やっべー、おれやっぱ変かも……、ビビィ」
「はい?」
「さっき、すっげェ抱きつきたいって思った……」
「それは怒られても嬉しかったからじゃないかしら?」
「う、うん、そりゃ嬉しかったぞ」
「人って、とっても嬉しくてそれが溢れてくると、スキンシップで表現したくならない?」
「それ……なんか解る!! そっか〜、うんそうだよな! あ〜良かったー♪」
なんもよくねェ、とゾロが聞いていたら激怒したに違いない。
「なんのことですか?」
裏からコニスがニコニコしながら加わってきた。閉店まではまだまだ時間もあることだし、ルフィの大好きな、女の子達とのお喋りタイムに突入するとしよう。ただし、店長の逆鱗には触れない程度に……。


コンビニ『マリーン』では、今日も気の良い店員があなたのご来店をお待ちしております。




(END)
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